シンポジウム等

文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク
第3回合同シンポジウム「再生医学研究の最前線」

【髙橋政代先生のご講演中Q&A】

«事前質問より»

髙橋政代先生

Q1:網膜の再生はあと何年ほどで可能となるのでしょうか。

髙橋:網膜色素上皮細胞移植は、できれば3年以内に神戸で5~10名を対象に行いたいと考えています。その後2年間で、安全性などの確認を取った上でさらに何十人と広げていく、というように徐々に進めていきます。また、これが本当の治療となるには、病気によって違いますが一番早いもので10年はかかると思います。その目標到達のためには、医者や研究者の力だけでは不可能で、患者さんのご理解とお力添えが必要です。

Q2:目標とする費用は、だいたいどのくらいでしょうか。

髙橋:どれぐらいの安全性を要求されるか、規制によって変わってくると思います。細胞自体を研究室で作製し治療するのであれば、数十万から100万円で可能という計算になりますが、実際の治療のためにはクリーンルームで作製しなければなりません。そのクリーンルームの維持費用には年間5,000万円かかり、その中で何人分の細胞を作製して良いかという規制によって、治療費は異なってくるのです。一人分だけしか作ってはいけないという規制であれば、5,000万円の治療になるわけです。もちろん私たち研究者も厚生労働省に最低限の費用になるよう交渉しますので、最初は数百万円になるのではないかと思っています。

«会場から»

Q:瞳からカメラでのぞけば脳がどういった状態になっているのか見えるということはありませんか。

髙橋:脳と眼球は、十数cmの視神経で繋がっていますが、のぞくことはできないので脳の状態を見ることはできません。ただし、視神経の状態は眼球をのぞいて視神経の色を見ればある程度は分かります。

【第2部-講演者らによるQ&A】

パネリスト

山中 伸弥(京都大学 iPS細胞研究所長)

押村 光雄(鳥取大学 染色体工学研究センター センター長)

福田 恵一(慶應義塾大学 医学部循環器内科 教授)

西川 伸一(再生医療の実現化ハイウェイ プログラムディレクター)

西田 幸二(大阪大学 大学院医学系研究科 教授)

髙坂 新一(再生医療の実現化プロジェクト プログラムディレクター)

須田 年生(CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」研究領域 研究総括)

石井 康彦(文部科学省 研究振興局ライフサイエンス課長)

司会者

虫明 英樹(NHK大阪局デスク)

«事前質問より»

虫明:iPS細胞のがん化の問題はどこまで克服されており、安全性はどこまで確保されているのでしょうか。

須田年生先生

須田:がん化の問題は二通りあります。まず一つは、細胞が未分化のまま特殊な腫瘍になる可能性があること、もう一つは試験管の中で培養し増殖させているうちにゲノムに傷が付く可能性があることです。しかし、未分化な細胞はできるだけ除いてしまえば安全はある程度保障されますし、もう一方の問題においても、非常に安定した培養系を構築していくことで将来的に避けることが可能だと考えられます。今後は、どこまでの安全を保障するのか、多少のリスクを伴ったとしてもメリットを優先させるのかということが課題になると思います。

山中:がん化の問題はiPS細胞の再生医療応用にとって克服すべき最大の課題の一つです。ヒトのiPS細胞が樹立された5年前はまだ実態がよくわかっていない点が多々ありましたが、現在は、iPS細胞の安全な作製方法や、安全なiPS細胞とそうではないiPS細胞の区別方法がわかってきましたから、リスクは大幅に減少していると言えます。そういう意味でも、そろそろiPS細胞を使った臨床試験を始める準備段階にきたのではないかという印象をもっています。

虫明:もし、明日、山中先生が交通事故で脊髄を損傷された場合、今の技術のiPS細胞から作製された神経細胞を移植する治療を受けられますか。

山中:同じ質問を5年前にされたら、確実に「移植治療は受けない」と答えたと思います。しかし、現在はリスクが大幅に小さくなっており、脊髄損傷に有効な治療法がない状況を考えると、治療を受けるかどうかを真剣に検討するレベルまで科学的には達していると思います。ただし、実際にヒトの体に移植する場合、動物に移植するものとは全く違う次元で細胞の調節や感染症の問題があり、それらを解決するにはまだ数年を要します。科学的には臨床研究を行い、有効性・安全性を確かめるレベルに達していますが、その条件に合う細胞準備にはもう少し時間がかかるということです。

虫明:iPS細胞がもつリスクの受け止め方やどのように医療として実現していくのか、研究者や医師のみでは解決しない問題もあるのではないでしょうか。

西川:医療として実現するためには、研究者や医師のみの努力だけでは難しく、患者さんからのご協力が必要です。私が福田先生の心筋再生医療を受けるかどうかという場合、もし安全性が損なわれていれば治療を受けないと思いますが、福田先生が開発した培養で作られた細胞なら私は安心して受けると思います。

髙坂:私は、iPS細胞を使った技術を実際に医療に応用するためには、リスクとベネフィット(利益)を考えなければいけないと思っています。がん化の問題はかなり明確にわかってきており、リスクは非常に減ってきていますが、ゼロにはなりません。そこで大切なことは、分化させた細胞を生体内に移植した際のモニタリングを十分に行うことです。万が一不測の事態が起こった場合にどのような処置ができるのかを積極的に考えておき、その処置をとれば患者さんががんで亡くなることはないというような方法を、バックアップとして取っておくことが必要だと思います。患者さんにとって、リスクはゼロではないが得られるベネフィットが高いということであれば、それは積極的に行っていくべきだと考えています。

虫明:実際に移植した後の戦略、がんをどう消滅させるのかという点については、いかがでしょうか。

押村光雄先生

押村:細胞移植の場合、体外で細胞に色々な操作をして体内に移植しますので、その操作の際に、がん化した細胞が死んでしまうというような操作ができないかと考えています。もしiPS細胞ががん化してしまった場合、例えば、がん細胞になったら光ったりする等の自動的に感知できる仕組みや、がんが発生したときにその細胞が生きられないようにする等のシステムを、人工染色体に組み込むことができないかチャレンジしているところです。

虫明:がん化については、髙橋政代先生の講演で網膜移植では対処法があるということでしたし、他のものについても色々な対処法を考えることで、早期に臨床試験にこぎつけるのではないかということでした。

虫明:平成23年5月にカリフォルニア大学の研究チームが、iPS細胞をマウスに移植した際に本来起きないはずの拒絶反応が起きたと『Nature』で報告しましたが、どういうことなのでしょうか。

須田:抗原が出てきて拒絶反応が起きたということを売りにした論文ですが、どこまで他の話にも通用するかというのは、私は懐疑的に見ています。特に腫瘍抗原といってiPS細胞ががん化していくときには新しい抗原が出る可能性は十分にあるため、そういうものも十分に検証しなければ、この一報だけでiPS細胞の応用範囲を狭めるべきではないと思っています。

山中伸弥先生

山中:外から自分以外の細胞が入ってきた場合に、それを攻撃して排除するのが免疫です。自分自身の細胞は、本来免疫には攻撃されませんが、細胞が異常な状態になれば、免疫の攻撃の対象になります。『Nature』の論文は、iPS細胞を未分化のまま移植しています。iPS細胞やES細胞は、科学者が人工的に作り出したものですから、それを未分化のまま体に戻すと、体は異常な細胞として感知し、ある程度の免疫反応は起こっても当然と思われます。iPS細胞やES細胞から「正常」な神経や心臓の細胞を作製し体内へ移植することが、免疫の問題、移植後の機能面、安全性等あらゆる面から見て、再生医療を進める上で最も大切なことだと思います。

司会:虫明英樹

虫明:患者さんの中には、治療法がない病気を抱えていらっしゃって、大変切実な思いをされている方が大勢おられると思います。今後iPS細胞の臨床応用は、どうなるのでしょうか。
iPS細胞の臨床への応用について、現時点でのスケジュールを教えてください。

西川:「再生医療の実現化ハイウェイ」プロジェクトにはiPS・ES細胞に関する課題が5つあります。2年で臨床試験が始まるという明確な道筋が立っているものから10年でヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針等の申請の準備が整うものまで開きはあります。例えば髙橋政代先生の網膜移植は2~3年以内に、西田幸二先生の角膜移植は5~7年以内に臨床研究が始められる計画です。

虫明:角膜についての研究の現状を教えてください。

西田幸二先生

西田:まず、角膜と網膜の違いを簡単にご説明しますと、角膜は目の一番前にあり、カメラで言うとレンズにあたります。網膜は目の一番奥にあり、カメラで言うとフィルムです。角膜にも様々な病気があり、上皮の一部の病気に対しては幹細胞の移植治療が有効であることが分かってきていますが、その他の別の病気に対する有効性は証明されていません。そこで私は、より幅広い角膜の病気に対応できるよう、iPS細胞から角膜を作って移植する治療を研究しています。角膜では、iPS細胞からヒトへ移植可能な細胞がほぼ作製できていますので、今後5年で大きな動物へ移植して有効性や安全性を確認し、それをクリアすればヒトに応用する予定です。

虫明:拡張型心筋症や心筋梗塞による心不全に向けた研究はいかがでしょうか。

福田恵一先生

福田:心臓病は死因の第2位で、心臓病で悩んでおられる方は数多くいらっしゃいます。しかし、心不全治療に向けた心臓の筋肉の再生は、ハードルがあまりにも高くほとんどの研究者がギブアップしてきました。私たちは長年の研究により、ほとんどのハードルを乗り越えることができました。残るハードルは細胞を大量に培養することです。それができれば、拡張型心筋症や心筋梗塞による心不全の患者さんを救うことができると考えています。2~3年で大量培養方法を確定させ、5~7年でヒトへの移植が可能になってくると思います。ただし、一歩一歩着実に進めていくことが重要なことだと思っています。

虫明:脊髄損傷やパーキンソン病のような神経領域の治療はいかがでしょうか。

髙坂:まず脊髄損傷については、慶應義塾大学の岡野栄之先生のグループで活発に研究が進められており、マウスレベルでは、iPS細胞を用いた再生医療が非常に有効であるという結果が出ています。ただ、ラットやマウスでの有効性について、それを単純にヒトに当てはめることができるのかというところは疑問があります。したがって、順調に研究が進んだとしても、しっかりとしたデータを出して証明するまでに、恐らく5~10年はかかるのではないかと思っています。パーキンソン病については、もう少し進んでいます。ドーパミンという物質をもっている神経細胞を脳へ移植すると一定の効果があることがすでに確認されていますので、iPS細胞からドーパミンをもっている神経細胞がうまく作製され、一定の安全性が確認できれば、5~7年くらいで臨床研究にまでもっていけるのではないかと思っています。ただし、なぜ効くかということが解明されていないため、メカニズムもわかった上で提供したいと考えております。その他にも、ハンチントン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)について研究が進められており、神経細胞への分化というところは進んでいますが、安全性やメカニズムの問題等はまだ時間がかかると思います。また、最近、理化学研究所の笹井芳樹先生が小脳のプルキンエ細胞をES細胞から作製されており、これは将来脊髄小脳変性症といった疾患への応用が可能になると考えられます。

虫明:筋ジストロフィーについてもお伺いしたいのですが。

押村:世界18カ国で180人の患者さんを対象に、exon skipping(遺伝子の飛ばし読み)の実験が動き始めました。その結果を見て安全性や治療効果が検証されることになります。さらに、ホットなニュースとしては、福山型筋ジストロフィーでは、フクチンという遺伝子が原因となっており、この遺伝子を発現させないようにする研究がマウスで実証されています。また、最近の研究で、血管の中に筋肉になる細胞があることが分かってきました。従って、iPS細胞から筋肉の前駆細胞を作製していくことで、治療法が見えてくると思います 。ただ、人工染色体についてはあまり認知されておりませんが、長い時間をかけてでも、安全安心な染色体を作っていきたいと考えています。

髙坂新一先生

髙坂:筋ジストロフィーには、現在4種類ほどの治療法があり、そこに今後再生医療というものが一つの治療法として選択できるようになるのだろうと思います。再生医療ということからすると、今はiPS細胞からマウスの骨格筋細胞への分化については研究が進んでいますが、ヒトについてはまだ十分ではありません。ヒトの筋芽細胞の分化ができるようになれば、選択肢の一つになってくると考えられます。いろいろな治療法があるので、患者さんに合わせてどの治療法を選択するのか、また、複数の治療法を組み合わせるなど考えていかなければならないと思います。

虫明:Q 平成23年8月に、iPS細胞から作った精子を卵子と受精させ、マウスを作ることに成功したと発表がありました。国の指針では、ヒトiPS細胞から精子や卵子を作製することは認めていても、受精卵を作製することは禁止しています。今後、研究の進展によっては様々な倫理的問題を引き起こす恐れはないのでしょうか。

西川伸一先生

西川:どのような疾患にどのようなシチュエーションで研究しようとしているのか、さらに臨床応用されようとしているのかを、正確に開示して国民の皆さんと私たち研究者がオープンに議論することが一番重要なことだと思っています。きちんと議論ができる仕組みさえあれば、心配することは少ないのではないでしょうか。研究者側も、その研究を懸念する側も、お互いの絶対的な価値の押し付け合いという形で議論することをさけ、お互いの自由をいかに尊重し合えるかということが重要です。

須田:このような研究は生殖医療を目的に進められていますが、実際、アメリカでは卵子の売買がされています。そして、それがビジネスにつながっているところをみると、世の中には研究者や医者と患者さんだけではなく色々なことを考える人がいるわけですから、この問題は、マウスでできたら次はサルというように単純に研究を進めていってよいのかと非常に懸念しています。

石井:iPS細胞からの生殖細胞の作製については、iPS細胞が樹立されたときに当面禁止という措置をとりました。その後数年間の議論を経て、生殖細胞を作る研究については限定的に認める代わりに、受精胚を作ることは禁止という形になっています。現時点で、文部科学省だけでなく内閣府の総合科学技術会議でも生殖細胞の作製についての議論は進められていますが、研究の進捗に応じて、国の一部の委員会のみで議論するだけでなく、国民の皆さんの中で議論いただいたものをきちんと反映させた適切な在り方を検討していく必要があると考えています。

«会場から»

会場

Q1:Q iPS細胞によって肝臓移植や根本的な治療はできるのでしょうか。

西川:肝臓は大量の細胞を必要とする、大変難しい臓器です。しかし、再生医療の実現化ハイウェイで採択された課題の中に肝臓に関する研究も含まれていますので、十分チャンスはあるのではないかと思います。

Q2:レギュラトリーサイエンス※1というのはこれから非常に重要な領域に入ってくると思いますし、このような新しい医学には必須ではないかと思います。いずれは、厚生労働省も本分野に参画されるのだと思いますが、その将来像はいかがでしょうか。
(※1:科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学(CSTP説明文より引用))

文科省ライフサイエンス課長:石井康彦

石井:再生医療の実現化ハイウェイは、文部科学省と厚生労働省の協働プロジェクトであり、文部科学省では基礎研究段階を支援し、臨床研究に入ると厚生労働省が支援します。プロジェクトの中には、まさにレギュラトリーサイエンスを専攻されている先生にも入っていただき個々の研究課題を支援する仕組みを厚生労働省と一緒に取っております。

Q3:Q パーキンソン病は、ドーパミンの減少や自己再生不能になることによって体の動きが悪くなりますが、これを解決できないのはなぜでしょうか。

髙坂:残念ながらこれまでの薬物療法では、ご質問のような現象が往々と起こってくる状況です。パーキンソン病を根本的に解決するためには、黒質という脳の深い部分にドーパミンをもった新しい神経細胞を移植し、新しく神経回路を再構築しなければなりません。そのため、京都大学の髙橋淳先生を中心にパーキンソン病でのiPS細胞の応用を進めており、再生医療の実現化ハイウェイにも採択されています。

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る