研究開発トピックス

家族性自律神経異常症の疾患モデルiPS細胞

掲載日:2009年10月01日

Lee, G. et.al.,Modelling pathogenesis and treatment of familial dysautonomia using patient-specific iPSCs.
Nature 461, 402-406 (17 September 2009)

iPS細胞の作製技術を利用して、患者から「疾患モデル細胞系」を構築することができれば、その病気の原因究明と治療法の探索を容易にするという点で非常に有益です。
これまでに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋萎縮症、パーキンソン症、などの患者からiPS細胞の作製が試みられています。
この論文では、家族性自律神経異常症(FD; familial dysaoutonomia)という、神経障害を伴う遺伝性稀少疾患患者の体細胞からiPS細胞を作製し、病気の原因メカニズムの解明と治療薬開発への有効性について報告しています。

この病気は患者数が少なく疾患モデルも無いために原因究明が滞っていましたが、患者の体細胞線維芽細胞から作製したiPS細胞を分化させてその細胞機能を検討したところ、神経発生段階にみられる異常がこの病気を引き起こす原因の一つであるとわかってきました。
また、この病気の原因と考えられる異常を修復させるような治療薬の評価過程にもこの疾患モデル細胞系iPS細胞が有効であることも明らかとなりました。

これまでのところ、患者のリンパ芽球細胞を使った薬剤試験によって薬剤選別が試みられています。しかし、このように患者の細胞から作製したiPS細胞の登場により、より直接的かつ機能的に、疾患神経細胞へ早期にアプローチする新たな治療法の開発が可能となるでしょう。
同時に、ヒト疾患の原因究明が加速することが大いに期待される成果といえます。


詳細な解説

iPS細胞の作製技術を利用して、患者から「疾患モデル細胞系」を構築することが出来れば、疾患の原因究明と治療法の探索を容易にするという点で非常に有益である。
これまでに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋萎縮症、パーキンソン症、などの疾患患者からiPS細胞の作製が試みられている。
本論文では、家族性自律神経異常症(FD; familial dysaoutonomia)という、神経障害を伴う遺伝性稀少疾患患者の体細胞からiPS細胞を作製し、疾患メカニズムの解明と治療薬開発への有効性について報告した。

本疾患は、3型遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチー(HSAN-III、温痛覚低下と自律神経障害を伴う先天性疾患)や、Rilay-Day 症候群とも呼ばれ、自律神経、感覚神経の発生異常を伴う、致死性の常染色体劣性 先天性疾患である。

この病気は患者数が少なく疾患モデルも無いために原因究明が滞っていたが、遺伝子からタンパク質を創る過程に関与する「転写延長因子」のひとつ、 IKBKAP(I-k-Bキナーゼ複合体タンパク)という遺伝子の点突然変異が原因となり、自律神経、感覚神経が障害されることは知られていた。
著者らは、10歳女児患者の体細胞線維芽細胞を採取し、レンチウイルスベクターを利用して初期化4因子を導入して2種類のFD-iPS細胞を樹立(FD-4, FD-22と命名)した。3つの胚葉(内・外・中胚葉)へと分化させて末梢神経系の細胞機能を検討したところ、疾患由来iPS細胞では「IKBKAP遺伝子エクソン20番」のスプライシング(注:高等生物の遺伝子発現時に必須の過程)異常により、神経冠前駆細胞が正常に比べ減少している事が明らかとなり、このような神経発生段階にみられる異常が本疾患の一因と考えられると示唆された。

著者らは、他に16歳男性と12歳女児のFD患者からもFD-iPS細胞を樹立しているが、いずれも典型的なヒトES細胞と同様の形態と多能性遺伝子マーカー(Nanog, SSEA3, TRA-1-81など)を発現している他、遺伝子発現プロモーター領域のメチル化レベル、遺伝子発現解析、テラトーマ形成能、核型、IKBKAP遺伝子エクソン20番のスプライシング異常、などの全てが検証された。
いずれのFD-iPS細胞もFD-線維芽細胞と同様に、正常型と変異型両方のIKBKAP遺伝子を発現していた。

また、遺伝子発現解析により、FD-iPS細胞では、神経細胞への分化と移行が強く障害されていることがわかった。各細胞の遺伝子発現パターンについて、48000遺伝子プローブを用いて網羅的に比較解析(トランスクリプトーム)したところ、FD-iPS細胞では正常iPSまたはES細胞に比べて、35種類の遺伝子発現が上昇し54種類は減少していた。
それらの主要遺伝子について、さらに定量的PCR解析により発現変化についての検証をおこなったところ、発現レベルが減少する20遺伝子の多くは、末梢性神経形成と神経細胞分化に関与する遺伝子であることが判明した。

さらに著者らは、この疾患の原因と考えられるIKBKAPスプライシング異常と神経分化異常を修復させるような治療薬の評価過程にも、FD-iPS細胞が有効である事を示した。
実際に、IKBKAP遺伝子スプライシング異常・神経形成の減退・神経冠前駆細胞機能の異常、の3つを定量性のあるスクリーニング指標として検討した結果、植物ホルモンの一種kinetinがFD-iPS細胞に対してそれらの異常を修復することが出来、細胞レベルの検証段階ではあるが、早期治療薬としての可能性が認められた。

従来、患者のリンパ芽球細胞を用いたin vitroスクリーニング法により、患者への薬剤選別が試みられている。しかし、このように疾患由来iPS細胞の登場により、より直接的かつ機能的に、疾患神経細胞へ早期にアプローチする新たな治療法の開発が可能となる。
同時に、ヒト疾患の原因究明が加速することが大いに期待される成果といえる。

(解説:本間美和子)

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