研究開発トピックス

検証を与えるプラットフォーム -ファンコニ貧血症患者の体細胞からiPS細胞を作製-

掲載日:2009年07月14日

患者自身の体細胞からiPS細胞を作る技術は、動物モデルのない疾患や稀少疾患について原因を究明し治療法を検証するための非常に重要な研究基盤であると同時に、患者それぞれに適した治療法を確立するための基盤ともなりうる。

米国ソーク研究所とスペイン再生医学センターのグループは、ファンコニ貧血症(FA)患者の体細胞をもとに、その遺伝的変異を修復した後、iPS細胞を作製することに世界で初めて成功した。そのiPS細胞はもはやファンコニ貧血症の特性を消失して、正常ヒトES細胞と同等の多能性を保持しており、分化刺激により正常造血幹細胞へと分化させることができた。この成果は7月2日刊行Nature誌に発表された。
Disease-corrected haematopoietic progenitors from Fanconi anaemia induced pluripotent stem cells, Nature 460, 53-59, 2009. by Juan Carlos Izpisua Belmonte, Center for Regenerative Medicine in Barcelona, Spain, Salk Institute USA)

ファンコニ貧血症(FA)は、造血幹細胞の減少をともなう骨髄不全症(BMF)の中で遺伝性疾患として多くみられ、常染色体劣性遺伝を示し、大部分は10歳までに発症、30%は40歳までに造血系腫瘍をともなう。現在はHLA同一個体から供与される骨髄移植法が最も効果的な治療とされている。
この論文では、当初の試みとして、患者皮膚などから初代線維芽細胞を培養し、レトロウイルスベクターにより6日ごと2回にわたり山中4因子を導入した。しかし、FA疾患は、DNA修復されにくい結果として不安定な染色体を保持するという特性をもつため、直接4因子を導入する方法ではiPS細胞を得ることは出来なかった。そこで、FAの遺伝的な欠陥を修復するFANCAまたはFANCD2という相補遺伝子を、予め患者由来の初代培養細胞へレンチウイルスを用いて導入した後に4因子を導入することによって、3回の実験で繰り返し10-15個のiPS細胞様コロニーを得ることに成功した。
そのうち5つのクローン、また別のFA患者から同様の方法で得られたiPS細胞を詳しく解析してみると、元のFA細胞とは異なり正常な核型を示しており、転写因子や表面マーカーの発現パターン、遺伝子プロモーター領域のメチル化パターン、また細胞の増殖性と形態など、全ての解析結果が、ヒト胚性幹(ES)細胞の特徴を示していた。
こうして、合計19クローンのiPS細胞を樹立することができ、FA-iPS細胞株と名付けられた。

このように本実験では、FA疾患の遺伝的な欠陥を相補遺伝子により修復した後で、iPS細胞を得ることに初めて成功している。その結果、修復細胞では相補遺伝子を発現するために、FA疾患では失われている遺伝子修復機能が回復していることが確認されたことから、著者らは"disease-free iPS (正常なiPS)"であると明言している。
次に重要なことは、ここで得られたFA-iPS細胞が正常細胞に由来するiPS細胞と同等の分化能を保持しているかどうかである。造血細胞分化に必須となるのは、サイトカインと呼ばれる特殊な分化因子であるが、解析の結果、複数のサイトカイン存在下に造血前駆細胞(CD45+ CD34+)へ分化することが認められた。特に血球様、骨髄球様のコロニー形成が観察されるなど、正常細胞由来iPSやヒトES細胞と同等の造血前駆細胞としての分化能をもつことが検証された。さらに、DNA損傷に対する反応性を見るとFA疾患としての表現型は失われ、正常細胞と同様の修復機能を回復していることが明らかとなり、造血前駆細胞へ分化後も依然として"disease-free(正常な)"iPS細胞としての特性を保持することが確認された。

今後、FA疾患治療へと応用するためには、ベクターを工夫するなど、ヒトでの安全性と、効率化に関するさらなる検討が必要であると思われるが、遺伝性疾患細胞をもとにiPS技術を利用して初期化を成し遂げた意義は大きい。

背景

iPS細胞作製は、2006年に京都大学 山中伸弥教授によりはじめて報告され、細胞・組織レベルで再生医療への新たな道を開いた画期的な技術である。この技術は、ヒトになり得る受精卵の使用を回避して体細胞で実現できること、また患者本人の体細胞を用いることで移植後の拒絶反応が起きないことから、ES細胞を利用する場合のハードルを乗り越え、実現可能な再生医療への期待が一気に高まっている。
ヒトiPS細胞作製のもととなる細胞については、2007年、最初に山中グループ、次いでトムソン博士のグループが、ヒト正常線維芽細胞(株化培養細胞)で報告し、その後成人皮膚由来細胞などの成功が相次いだ。疾患に由来するiPS細胞については、2007年ヤニッシュ博士らのグループが鎌状赤血球貧血症モデルマウスからiPS細胞を樹立したのに続いて、2008年神経変性疾患ALS患者、2009年には脊髄筋萎縮症(SMA)やパーキンソン症患者からiPS細胞作製の報告がなされている。SMAの場合は、疾患の原因が運動性ニューロンの機能不全にあることが、iPS細胞を用いて検証されるという研究成果も得られている。ヒト体内を循環する抹消血に由来する「造血幹細胞」からの報告も、本年5月28日刊行のBlood誌上にて発表された。このCD34表面マーカー陽性(CD34+)の血液細胞へ、レトロウイルスベクターにより4因子を導入することで得られたiPS細胞は、形態、機能、また表面抗原の特性など解析した全てがヒトES細胞と同一のものであった。
このように体細胞が初期化可能であるという報告が相次ぐことにより、次は病気のモデルとして疾患特異的なiPS細胞を、患者への侵襲性が比較的少なく得られる「血液細胞」から作製することへの期待も高まっている。
(3月18日掲載記事: Generation of induced pluripotent stem cells from human blood, Blood 113, 22, 5476-5479, 2009. George Q. Daley, MD, PhD, an investigator for the Howard Hughes Medical Institute at Children's Hospital, Boston)
(解説:本間美和子)

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