研究開発トピックス

初期化タンパク質の直接導入によるヒトiPS細胞の創生

掲載日:2009年06月05日

Kimほか
Generation of human induced pluripotent stem cells by direct delivery of reprogramming proteins.Cell Stem Cell, June 5, 2009.

2009年4月に米独グループは、ウイルスベクターを用いて遺伝子を導入する代わりに、初期化に必要な遺伝子から読み取られる4つの因子(Oct4, Sox2, Klf4, c-Myc)について、タンパクそのものを細胞内に直接取り込ませる手法により、マウス胚性線維芽細胞からiPS 細胞を作製することに成功した。
次いで米韓グループが同様の手法を用いて、ヒト線維芽細胞からiPS細胞の作製に成功したことを報告した。この成果は、6月5日刊行のCell Stem Cell誌への掲載に先立ち、5月末に電子版として発表された。

CPPが初期化4因子タンパクの細胞内導入を助ける

遺伝子に比べ分子量の大きなタンパク分子を、細胞膜というバリアーを通り抜けて細胞内に取り込ませる方法として塩基性アミノ酸に富む細胞透過性ペプチド(CPP)の利用が挙げられる。
例えば、ウイルス感染時にはウイルス遺伝子がコードする転写因子が、その塩基性アミノ酸領域を利用して細胞内に入り込み、自分自身のウイルスゲノム発現を活性化させるように働く。このCPPが細胞膜というバリアーを乗り越えやすくするメカニズムを利用して、米独のグループは11個、米韓のグループは9個の塩基性アミノ酸(アルギニン)を初期化4因子タンパクそれぞれに付加させることで、培養ヒト細胞の外から添加するだけで細胞膜を超えて取り込む効果を付与した。

具体的実験法

具体的には、外来遺伝子を取り込みやすいHEK293細胞(ヒト由来細胞株)に、アルギニン付加した初期化因子遺伝子をひとつずつ発現させ、4種類の293細胞の中で大量に初期化タンパクを合成させる。
それらの細胞を破砕したホモジネートから得られた4種類の初期化タンパクを混合して、ヒト体細胞の培地に16時間加える(0日目)。次いで新しい培地に交換し6日間培養を続ける。7日目にもう一度タンパク混合物を16時間培地に加えるというサイクルを6回繰り返したのち、iPS細胞を得るための特殊な条件化で2週間培養を続けたところ、5つのiPS様細胞コロニーが得られ(56日目)。
そのうち2つがヒトiPS細胞株として35代以上継続して増殖を続けることができ、それぞれp-hiPS01、 p-hiPS02細胞株と名付けられた。
これらの細胞培養を続けると、初期胚を構成する内胚葉、中胚葉、外胚葉への分化マーカーの発現がみられ、さらに特殊な培養条件下で神経細胞、筋細胞などへ分化した。この論文では、初期化タンパクを培地に加える操作を繰り返さないと、iPS細胞は得られなかったと報告している。

本研究の背景と経緯

iPS技術が世界中を席巻するまでの間、ヒト体細胞を胚細胞様の未分化細胞へ戻す(初期化する)手法としては、97年以来、核移植法(somatic cell nuclear transfer, SCNT)が試みられたが、その方法ではいまだにヒト体細胞で成功していない。
2006年に初めてiPS細胞作製技術が報告され、4つの初期化因子をコードする遺伝子をウイルスベクターで導入し、細胞内で強制的に遺伝子発現させる方法によって、マウスならびにヒト体細胞を初期化できることを示した。
そこで4つの初期化因子をいかにして細胞に効率よく導入し発現させるかが、iPS技術開発の重要なキーステップとなっている。

遺伝子導入の方法としては、現在までにレトロ-, レンチ-, アデノ-ウイルスや、プラスミドと呼ばれる非ウイルス性のベクター(運び屋)による遺伝子導入法が報告されている。
しかし、特にレトロ-, レンチ-ウイルスベクターの場合には宿主ゲノム複数箇所への遺伝子挿入にともなう遺伝的な変異(挿入変異)が、正しいゲノム情報を破壊するために、癌化などの異常を誘発する可能性を伴うことが再生医療など臨床応用への高いハードルとなっている。
そのため昨秋には、初めてウイルスベクターの代わりにプラスミド利用による遺伝子導入の結果、マウスiPS作製に成功したが、一過性の遺伝子導入法であるために作製効率が低いという難点があった。
その後、1因子によるiPS作製法が報告されたほか、1つのウイルスベクターに4因子をつなげて一度に遺伝子導入した後、細胞内で読み取られた4因子タンパクを独立して機能させる方法がマウスESおよびマウス体性幹細胞、ヒト体細胞で成功した。
同様に、4因子の遺伝子を1つの非ウイルス性ベクターにつなげてpiggyBacトランスポゾンという運び屋を利用する方法が、マウスとヒト胚性線芽細胞で成功するなど、細胞側のゲノム変異を出来るだけ回避する試みがなされてきた。

今後の臨床応用に向けて

今回発表された、細胞初期化に関するタンパクを利用する方法は、ウイルスベクターによる遺伝子導入法に比べるとゲノム変異を回避できるメリットはあるものの、iPS作製までの期間が長いことと効率およそが10分の1であることから、今後さらなる最適化が求められる。
しかし、ゲノム変異を克服したことで、ヒトiPS細胞の臨床応用へ向けた大きな一歩となったことは確かである。
また、4月の米独の報告では、4つの因子を大腸菌で大量に発現させたタンパク質を利用し、化合物と組み合わせて細胞への導入効率を高めていたが、今回の論文はヒト由来細胞株で発現させたタンパク質のみを利用している。
より安全に、個々の患者に由来するiPS細胞の作製へ向けて、全世界で研究と技術開発が進められている
(解説:本間美和子)

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る