疾患情報

創傷治癒

本情報は、カナダの非営利団体Stem Cell Networkが制作した「Stem Cells and Disease: Wound Healing 2013年4月版 患者さんへの概要」の疾患部分について仮訳したものです。なお、現在は、Canadian Stem Cell Foundationにコンテンツが移転され、情報が更新されています。

1. 創傷治癒について

皮膚の創傷は、人の一生のうちにさまざまな理由で生じます。外傷、切り傷、火傷、血液循環不良、床ずれによる潰瘍、糖尿病などの疾患が全て創傷の原因となり、正常な機能や皮膚の構造が一時的に損なわれます。身体がこれらの創傷を治癒させることができなければ慢性化し、いずれは化膿することになります。驚くことに、一般に予想されるよりも頻繁に起こり、患者の1%が慢性皮膚創傷です。これらの創傷のうち半数は完治しません。患者や社会に対する負荷は極めて大きなもので、生活の質が低下し、医療費が大きく増大します。米国だけでも、慢性創傷治療のコストは、200億ドルを超えます。

皮膚の解剖学

人体の最大の臓器として、皮膚は外界に対する天然のバリアであり、内部にある組織を摩耗や感染症から防いでいます。表皮、真皮、皮下組織の皮膚の3つの各層が、皮膚の正常な構造や機能を維持するのにそれぞれの働きをしています。

最も外側の層は表皮であり、ケラチノサイトやメルケル細胞、ランゲルハンス細胞、メラノサイトの4つの種類の細胞で構成されています。ケラチノサイトはタンパク質であるケラチンを細胞内に含み、皮膚に耐水性を与えます。メルケル細胞は感覚を検知します。メラノサイトは皮膚に色素物質を与え、ランゲルハンス細胞は残渣物を身体から排出し、感染症の防止に役立ちます。これらのタイプの細胞が多層に並び、身体の外表面を覆っています。表皮が最も厚いのは手や足です。

表皮層が再生の原動力です。ケラチノサイトが大部分の細胞を作り出し、皮膚表面に見られる細胞は、ほぼ全てが死んでいる細胞です。これらの死細胞が剥がれ落ちると、下層から新しいケラチノサイトが上がってきて置き換わります。この下から持ち上がってくるコンベア式のプロセスは、常に繰り返されており、皮膚表面全体が、15~30日で新しいものに更新されます。表皮は血管のない数少ない組織の1つであり、外層が迅速に置き換わる特徴とで、感染エージェント因子が体内に足場を築くのを防いでいます。

基底膜が表皮層をその下の真皮層を隔てています。真皮層は線維芽細胞や血管、免疫細胞、皮膚付属器(毛包(毛嚢)と汗腺)、これらのものを1つにまとめ細胞を支持する細胞外マトリックスから構成されています。表皮の場合と同様、真皮の構成物によってその機能が決まります。血管は皮膚に栄養を与え、免疫細胞は皮膚を保護し、線維芽細胞はコラーゲンタンパク質を産生し強度を与え、またエラスチンタンパク質も産生して伸縮性を与えています。汗腺がなければ皮膚は乾燥し脆くなるでしょう。汗腺は皮脂と呼ばれる油状の分泌物を産生し、それが皮膚の表面を覆うからです。皮脂にも感染予防効果があります。

皮膚の最深部に皮下組織があります。真皮層の下の脂肪の層であり、その下にある筋肉や骨に対して衝撃を吸収し、感染から防御するもう一つのバリアとして機能します。皮下組織の中に存在している脂肪細胞が皮膚の恒常性と、毛包などの皮膚付属器内の増殖を制御するのに重要な役割を果たしています。

創傷治癒

外傷や感染症で皮膚の表皮層が壊されると創傷が形成され、皮膚の下層に障害が生じるようになると創傷の重篤度が高くなります。創傷が正常に治癒するには、炎症、増殖、リモデリングの3つのステップが必要です。炎症はおよそ4日間持続します。この期間に起きる主なことは、フィブリンマトリックスが作られ、血餅が形成されて傷をカバーし保護することです。マクロファージなどの免疫細胞も傷の中に移動してきて、細胞残渣物があれば排除し、感染予防を助けます。増殖期には、炎症シグナルが、多くのタイプの細胞を創傷部に呼び寄せます。呼び寄せられる細胞としては、線維芽細胞や血管内皮細胞があります。線維芽細胞はコラーゲンを産生し、また筋線維芽細胞に変身して、創傷を閉鎖することができます。血管内皮細胞は創傷の周囲に新たな血管を作ります。これらの細胞活動によって、血餅のすぐ下に“肉芽組織”と呼ばれる組織が作られます。次に、ケラチノサイトが創傷縁部から創傷部に移動し、また毛包基部からも移動します。肉芽組織の上でケラチノサイトが細胞分裂して、表皮を1つにまとめます。リモデリング段階ではこのプロセスが連続して起こり、表皮が回復すると、ケラチノサイトと線維芽細胞が新しく出来た基底膜のマトリックスタンパク質を産生し、表皮と真皮の間の境界面が再生されます。

ひどい火傷や切り傷の場合など、真皮層が損傷を受けた場合には毛包と汗腺も破壊されることがあり、表皮の修復に使えるケラチノサイトの数が少なくなります。その結果、全層創傷は治癒するのに時間がかかり、皮膚移植が必要になる場合があります。高齢も治癒プロセスの遅れの要因となります。おそらくは、運動不足や喫煙などの生活習慣の結果の皮膚の脆弱化や血流障害によるものであると考えられます。

治療

重篤な皮膚創傷では、分層植皮術が標準治療法です。自家移植あるいは同種移植のいずれにも使用できます。いずれの場合も皮膚の層をドナー部位から薄く切り出します。ドナー部位は、通常は、臀部もしくは大腿部の内側であり、切り出した皮膚を患者の創傷部にあてます。分層植皮術には、表皮が必ず含まれており、わずかな真皮が含まれている場合もあります。皮膚移植片の厚さに応じて、創傷の治癒は早くなりますが、あまり厚く切り出すと、ドナー部位が適切に治癒しない場合もあるので注意が必要です。全層皮膚移植片には、表皮と真皮の全てが含まれていますが、使用は控えめです。ドナー部位を縫合糸を使って閉じなければならず、通常は瘢痕が残るからです。ドナー部位が治癒すれば、同じ部位から複数回移植片を採取できます。しかしこの場合でも、あまり頻繁に行わないように注意が必要です。真皮は一般的に再生能力が低く(瘢痕形成も多い)、徐々に薄くなり、ドナー部位の治癒が不良になってしまうでしょう。

理想的な移植片は、自家移植片です。患者由来のものであり、拒絶反応が起こらないからです。自家移植片がすぐに用意できない場合には、同種移植片を使って皮膚を一時的にカバーします。しかし、1週間程度で拒絶されるので、いずれは自家移植片が必要になります。ヒト以外の、例えばブタなどの動物由来の皮膚移植片は、異種移植片(xenograft)(xenosはギリシャ語で、客とか外国人の意味です)と呼ばれ、のちに自家移植片が使えるようになるまでの創傷を一時的にカバーするものとしても使えるでしょう。

自家移植片の供給に限りがあること(とりわけ広い体表面積の火傷や疾病のある患者)から、科学者たちは創傷治癒に組織工学的アプローチをとることになりました。皮膚製品は、組織工学で成功裏に作られた製品であり、今日では、生体内分解可能なマトリックスや細胞ベースの製品から作ることができるようになっています。生体内分解マトリックスを用いることの目的は、創傷部の中で一体となり、皮膚が収縮しないように、また自家移植片が使えるようになるまで、血管が再形成されるのに十分な時間が確保する有機支持体を作ることです。ドナー異種移植片も、生きている細胞を全て除去することによってマトリックスにすることができます。この技術を使えばタンパク質構造体しか残らず、移植片の拒絶や疾病伝播が生じる確率が低下します。同種マトリックスは、自家移植が完全に治癒するのにも不可欠なものとなるでしょう。

実験技術の発展によって、ケラチノサイトを培養システム内で容易に増殖させることができるようになり、創傷治癒に細胞ベースの製品が使える時代が到来しました。1988年に、表皮移植片に育てるため自家皮膚生検を使った最初の培養皮膚製品(Epicel)が作られました。この技術にかかるコストは非常に高く、つくられた表皮はとても脆弱なもので、使用が困難でした。最近になって、ドナー組織の量をできるだけ減らすため、全層自家移植片を真似る技術が考案されました。この場合には、表皮組織と真皮組織の両方が含まれている自家移植片を細かく切り刻み、ゲルで結合して、創傷部全体に配置させます。同様に、分層植皮移植片の"メッシュ化"も、表面積を増やし、移植に必要な自家移植片の量を減らすのに頻繁に用いられています。これらの方法は、皮膚生検検体を培養するものよりもはるかに低コストで行うことができ、必要となるドナー組織が少なくて済みます。

同種移植片(患者とは別のドナー)も、細胞ベースの皮膚製品を作るのに使えます。その1つの例(Dermagraft)は、生体内分解可能な合成メッシュの上に新生児真皮線維芽細胞を増殖させたものです。線維芽細胞は細胞外マトリックスを形成し、創傷部に一体化し、真皮が治癒するのを助けます。もう一つの例(Apligraf)は、線維芽細胞とケラチノサイトを含む新生児の陰茎包皮から作られるものです。線維芽細胞をコラーゲンと混ぜて支持体を形成し、ケラチノサイトをその上に蒔きます。その結果できた複数の層からなるものは、真皮と表皮に似ています。これらの同種移植片は全て有効なものですが、最終的には拒絶され、創傷を治癒させるには、自家移植片を用いる必要があります。さらに、利便性や有効性が低いにも関わらず、莫大なコストがかかることも、大きな創傷に使うことを不可能にしています。

2. 関連情報

免責事項

この文書に掲載されている情報は、紹介する目的でのみ提供されているもので、医師による助言や診断ツールと考えてはいけません。また、治療目的として、この情報に頼らないでください。あなたの治療方針を決める前に、治療法については担当の医師と相談してください。

また、あなたの病気の状態についてわからないことがある場合も、医師と相談してください。本文書に書かれたことをもとに、医師による専門的アドバイスを軽視したり、アドバイスを求めるのが遅くならないようにしてください。

iPSTrendおよびStem Cell Networkは、この文書に書かれている情報が、執筆した時点で正確で信頼性の高いもので、最新の研究成果に基づくものであるよう、あらゆる努力を払っていますが、医学に関する情報は、短時間で変わってきます。そのため、本文書に掲載された情報が、最新のもの、間違いのないもの、あるいは全てを網羅したものであることを、iPSTrendおよびStem Cell Networkでは保証できません。

本文書に記載されている情報を信用したことにより直接的/間接的に生じる損害や損失、外傷、あるいは損害賠償の責務をiPSTrendおよびStem Cell Networkは有しません。

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る