疾患情報

眼科疾患

本情報は、カナダの非営利団体Stem Cell Networkが制作した「Stem Cells and Disease: Diseases of the Eye 2012年9月版 患者さんへの概要」の疾患部分について仮訳したものです。なお、現在は、Canadian Stem Cell Foundationにコンテンツが移転され、情報が更新されています。

1. 眼科疾患について

視力障害や失明を生じさせる疾病や状態は、患者の生活の質を劇的に低下させ、社会の経済負担が増すおそれがあります。視力喪失により、外傷や角膜や網膜、視神経などの眼の様々な部分の病気により引き起こされます。疾病の一部は、遺伝的欠損が原因であることがありますが、疾病によっては糖尿病などの疾病から合併症として発症したものもあります。最も一般的な眼科疾患、とりわけ白内障や緑内障、加齢黄斑変性は、全て加齢に関係しています。

眼の解剖学

眼は本質的には中空のボールです。眼球は外線維層、中血管層、内神経細胞層の3つの層から構成されています。眼球は眼瞼の内側表面と眼球の外側表面を覆う結膜と呼ばれる薄い層によって保護されています。眼球の外層は強膜と角膜で構成されています。強膜あるいは白目と呼ばれている部分は、角膜とつながっている強靭な組織でできています。角膜は透明で膨らんでおり、色のついた虹彩と、眼の中央部の黒色の瞳孔を覆っています。強膜と角膜の間の境界部を角膜輪部と呼んでいます。眼球の中層、つまり脈絡膜には、血管やリンパ管、虹彩、毛様体が存在しています。この層が眼球に入る光量を調節し、眼房水を維持し、虹彩のすぐ後ろに位置している水晶体の形状を制御します。水晶体は焦点を合わせて眼球の内側の神経細胞層である網膜上に視覚イメージを結像させます。網膜は眼球内の重要な光センサーであり、視覚情報を脳に伝えます。視覚情報は虹彩のまわりの薄いリングを通り、眼球の内側を内張りしている網膜に達し、視神経へと伝わって行きます。

液体で満たされた3つの層が眼を安定化させ、一定の形状を保っています。前房は角膜と虹彩の間の空間であり、後房は虹彩と水晶体の間にあります。これらの部屋には房水と呼ばれる毛様体が産生する水状の液体が含まれています。硝子体は眼球内の最大の房であり、ガラスゲル状の物質で満たされており、水晶体と眼底との間の部屋を満たしています。

網膜についての詳しい解説

網膜の外層は光を吸収する網膜色素上皮(RPE)で構成されています。内層には、視覚イメージを処理する神経細胞と支持細胞、それに、眼球に栄養を供給する血管があります。網膜内にある複数層の神経細胞によって光情報を伝達しています。網膜色素上皮のすぐ下に、光の強さと色をそれぞれ感知する桿体細胞と錐体細胞と呼ばれる数百万個の視細胞の層があります。桿体細胞と錐体細胞は網膜全体に均等に分布しているわけではありません。桿体細胞は、網膜の周辺部に集中しているのに対し、錐体細胞はほとんどが網膜の中心部にあり、間代錐体細胞が全く存在していない黄斑と呼ばれている小さな領域に集中しています。黄斑の中央部は中心窩と呼ばれており、錐体細胞が最も高密度で存在しており、ここで最も高い視力が得られます。網膜内の桿体細胞と錐体細胞は、双極細胞と呼ばれる神経細胞に視覚シグナルを伝達し、双極細胞は、網膜神経節細胞に情報を伝達します。網膜神経節細胞の神経終末は一つにまとまって視神経となります。水平細胞と呼ばれている支持細胞は、視細胞と双極細胞の間のコミュニケーションを促進するのを助けており、一方アマクリン細胞は、双極細胞と網膜神経節細胞の間のコミュニケーションをコントロールしています。ミュラーグリア細胞およびアストロサイトと呼ばれている支持細胞も網膜内に存在しています。

私たちがある物体を見ると、光は角膜と瞳孔を通過し、水晶体によって、硝子体を通り抜けて網膜の背部に結像させます。網膜は光情報を変換して神経ネットワークの終端である脳に伝えます。そこで情報を処理してイメージに変換し、それにより私たちは身の回りの世界を視覚化することができます。網膜のどの層に損傷が生じても、視覚に重大な影響を及ぼす可能性があります。

網膜神経変性疾患

網膜神経変性疾患は次第に視覚ネットワークに障害をもたらし、最終的には視覚障害や失明をもたらします。網膜疾患では、外網膜もしくは内網膜のいずれかに障害が生じます。前者の例は加齢黄斑変性(AMD)と網膜色素変性です。加齢黄斑変性は、網膜の最外層である網膜色素上皮が損傷を受けた結果、視細胞が機能しなくなる疾患群です。小児では、最も一般的な黄斑変性はStargardt黄斑ジストロフィと呼ばれています。網膜色素変性も外網膜の疾患であり、色素上皮のすぐ下にある視細胞が障害されています。網膜の内側の層が損傷を受ける疾患としては網膜神経節細胞が死滅し視神経に障害をもたらす緑内障や、糖尿病や早産、血管閉塞により血管が損傷を受けたことによる虚血性網膜症などがあります。

原因、症状、治療法

Stargardt病や網膜色素変性症(RP)のような一部の眼科疾患は、遺伝的な障害が原因であると言えますが、他の疾患、とりわけ白内障や緑内障、加齢黄斑変性症は加齢に伴うものです。このうち白内障や角膜瘢痕などの一部の疾病については、曇った水晶体あるいは角膜を置換する手術法がありその予後は良好です。一方、緑内障や加齢黄斑変性症などの他の疾患では予後はよくありません。いずれの疾病でも、不可逆的な損傷が大規模に生じることを防いだり、進行を遅らせるためには、早期診断が重要です。

緑内障

緑内障は視神経や視野に損傷をもたらす様々な疾患からなる疾病群に付けられた名称です。6千万人以上の人々が緑内障に罹患していると推定され、アフリカ系アメリカ人での失明の第一の原因です。世界保健機関のグローバルイニシアチブであるVISION 2020では、450万人が緑内障の結果失明していると推定しており、この数字は、人口の高齢化と共に増加するものと推定されています。

緑内障は本人が気付かないうちに進行し、大半の視力が失われた後に診断されることがしばしばあります。視神経と視野がゆっくりですが確実に障害を受けた後に失明に至る不可逆的な損傷が生じます。緑内障は一般に痛みを伴いませんが、一部の患者では、充血や眼の痛みを経験することがあります。この疾患に罹患するリスク因子は、加齢(通常40歳以上)と眼圧亢進です。後者は必ずしも当てはまらない場合があります。緑内障患者の一部には眼圧が正常な患者がいるからです。家族歴や、ある種の民族であることが高リスクの素因となります。

緑内障の主な治療法は眼圧を下げることです。降圧薬を含んだ点眼薬や、眼の血液の流れ出しを改善させるレーザー治療、フィルターを外科的に植え込むこと(トラベクレクトミー)、あるいはバルブを植えこむことで、眼からの液体を放出させます。眼圧を下げることはベネフィットがある場合がありますが、疾病進行の流れを止めることはできません。

加齢黄斑変性症 (AMD)

加齢黄斑変性症は先進工業国での失明の主な原因であり、世界的に見ると、全失明のおよそ9%を占め、300万人ほどが罹患しています。人口の急増に伴って、これらの統計値は2020年には倍増すると予想されています。この疾患のリスク因子としては高齢、喫煙、加齢黄斑変性症の家族歴、高血圧、コレステロール、脂肪摂取量、ならびにBMIがあげられます。ヨーロッパ系の先祖を持ち、免疫系の制御因子である補体因子Hをコードしている遺伝子に変異のある人も高い発症リスクが見られます。

加齢黄斑変性症では、網膜色素上皮細胞に障害が生じると、光受容細胞に損傷をもたらします。光受容細胞は、網膜ネットワークの最初の視覚を支える最初の神経細胞です。光受容細胞(とりわけ黄斑の錐体)に機能障害が生じると、中心視力が次第に低下し、時に、眼底に瘢痕が形成されます。異常になると新しい血管が網膜内に成長し始め、液体が漏れ出します。この状態は、ウェット型(滲出型)加齢黄斑変性症として知られ稀なタイプの疾患です。ウェット型加齢黄斑変性症は加齢黄斑変性症全体の10%を占めています。加齢黄斑変性症の90%を占めているのは、より一般的なタイプはドライ型(非滲出型)加齢黄斑変性症と呼ばれているものです。網膜色素上皮層が萎縮し、乾いた状態になるからです。ドライ型加齢黄斑変性症は現在では60歳以上の失明の主な原因です。

加齢黄斑変性症を治癒させる方法はありません。一部の患者では、抗酸化物質や亜鉛のようなもので治療し、疾病の進行を遅らせるという点では中等度の効果を得ています。限られた患者では、血管内皮増殖因子を注入したり、黄斑の外科的操作を行うことで視力が改善する場合がありますが、これらの治療では必ずしも良い成果は得られていません。加齢黄斑変性症の治療に使える新しくて広く使えるような方法はありません。幹細胞治療を通じて網膜内の網膜色素上皮層を保護したり、置換したり、あるいは修復したりできる可能性があることが、この治療の隙間を埋めるより具体的な選択肢となりつつあります。特に、網膜色素上皮層は網膜内にあって、他の神経細胞とシナプス結合を形成させる必要がないからです。

角膜瘢痕

角膜には血管やリンパ管がないため、瘢痕形成や視力低下を招く機械的損傷や疾病による損傷から容易に治癒させることができません。しかし、眼は移植片を受け入れることができ拒絶反応が生じないことと、角膜の解剖的な特性から、角膜移植を実施して成功しており、現在では障害を受けた視覚を回復できる日常的手術法となっています。角膜移植を受ける最も多い理由は、単純疱疹ウイルス感染症よる失明です。非常に多くの人々が角膜移植の待機リストに登録しています。米国ではおよそ50万人が毎年待機しています。この需要を満たせるかどうかが次第に懸念されてきています。なぜならこの処置には、死亡後間もない人からの健康な角膜が必要であり、その入手可能性に左右されるからです。

2. 関連情報

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