疾患情報

1型糖尿病

本情報は、カナダの非営利団体Stem Cell Networkが制作した「Stem Cells and Disease: Type 1 Diabetes 2012年7月版 患者さんへの概要」の疾患部分について仮訳したものです。なお、現在は、Canadian Stem Cell Foundationにコンテンツが移転され、情報が更新されています。

1. 糖尿病について

糖尿病には、高血糖を来す一連の疾患が含まれています。4種類の糖尿病のサブタイプの中に、1型糖尿病と2型糖尿病があります。このふたつの糖尿病では、原因と罹患する主な患者集団については違いがありますが、疾病が進行するにつれて複数の臓器系に慢性的な損傷を引き起こす傾向があるという点では同じです。

1型糖尿病の原因は現在でも謎です。ある種の感受性遺伝子(例えば、免疫応答に寄与している主要組織適合遺伝子複合体)が、環境因子もしくは感染のようなある種のトリガーと組み合わさることで、膵臓β細胞に対する自己免疫による攻撃を促進させます。このような状況になると、身体自身の免疫系が、インスリンの産生に極めて重要な役割を果たすβ細胞を破壊します。インスリンは、炭水化物や脂肪、タンパク質の代謝や細胞のグルコース取り込みの制御に必要なホルモンです。β細胞に対する攻撃は非常に激しく、身体にはインスリンがほとんどあるいは全く残っていない状態になります。血流中にグルコースが高濃度で循環すると、血管や眼、腎臓、脳、神経、心臓に危害を与えます。1型糖尿病は小児糖尿病とか若年発症性糖尿病とも呼ばれ、ほとんどが小児や30歳未満で発症するからです。実際には、β細胞に対する自己免疫攻撃はどの年齢でも生じる可能性があります。

2型糖尿病の原因を明らかにするのは現在でも困難であり、1つの要因が原因であると特定できないからです。むしろ、遺伝的要因や環境要因、生活習慣が複雑に関係して、2型糖尿病の発症リスクに影響を及ぼしています。遺伝学にもとづいて2型糖尿病を予測するのは現時点では不可能ですが、遺伝的要因があることは疑いがありません。両親が2型糖尿病に罹患している場合には、遺伝性糖尿病の発症のリスクは40%近くまで高まり、複数の遺伝子が相加的に全体のリスクに寄与していることが知られています。よく知られている環境因子と言われているものは肥満や栄養、運動です。従って、従来の説明は、2型糖尿病は運動をせず過体重の人が後に発症するというものです。肥満による影響は軽視できません。2型糖尿病患者全体のおよそ80%が肥満です。ある種の民族集団(アフリカ系アメリカ人、ラティーノ、ネイティブ・アメリカン、アジア系アメリカ人、太平洋諸島人)や健康状態(高血圧、多嚢胞性卵巣、あるいは妊娠糖尿病の既往歴)もリスク因子であることがわかっています。感受性のある人々では、糖尿病になるリスク因子には2つあります。身体がインスリンに対して次第に抵抗性を示すようになることと、ベータ細胞がインスリンを分泌する能力が徐々に低下することの2つです。2型糖尿病の発症リスクは多くの場合、加齢と共に高まりますが、肥満の小児や若年成人の発症も増加し続けています。

糖尿病は世界全体で見ると第四の死亡原因であり、その割合は次第に上昇しつつあります。人々の健康に対する負荷は極めて大きく、しかもそれが和らぐ気配はありません。過去20年間に、世界の罹患患者数は1985年の3千万人から、2011年には3億6千6百万人と急上昇しています。男女の発症リスクは同じです。この傾向が続いていけば、2030年には患者数は5億5千2百万人に達すると推定されます。カナダの機関Canadian Diabetes Associationの推定では、およそ9百万人が糖尿病あるいは前糖尿病状態と言われています。

症状ならびに長期作用

1型糖尿病は突然発症することがあります。喉が渇くことが多くなり、頻繁に排尿し、常に空腹であり、体重が減少し、かすみ目になり、極端に疲れるようになります。糖尿病と診断されず、インスリンで治療を受けると、糖尿病者は生命に危険を及ぼすような昏睡状態に陥る可能性があります。2型糖尿病者も同様の症状を全て経験しますが、程度はそれほど激しくないことがあります。

糖尿病を長く抱えて生活することの影響は大きなものがあります。死亡リスクは、糖尿病に罹患していない人々と比較して2倍以上になります。また50%は心血管疾患で死亡します。多くは心疾患あるいは脳卒中であり、10〜20%の患者が腎不全に陥ります。糖尿病は、血流が低下する結果、下肢切断が必要となる主な原因です。糖尿病性網膜症は成人失明の1つのタイプであり、網膜内の血管への損傷が蓄積されると生じます。糖尿病の罹病期間が長くなると、およそ2%の患者が失明し、10%が重大な視力低下を経験します。神経の損傷、つまり神経症も50%以内の糖尿病患者に認められ、手足に刺痛や疼痛、しびれ、筋力低下の症状も多く見られます。

1型糖尿病の治療

2型糖尿病とは異なり、1型糖尿病は運動や健康な食品を摂取することなど生活習慣を改善しても防ぐことはできませんし、症状を抑えることもできません。1型糖尿病患者の大半(そして2型糖尿病患者のおよそ1/3)では、1日に何回も血糖値をはかり、インスリンを自己注射して糖尿病の管理を行っています。これは比較的簡単な方法に思えますが、血糖値のバランスをとる処方を効果的にデザインするには、注意を払った管理が必要です。血糖値は、食物摂取や運動、ホルモン変化、成長期、感染症、あるいは感情など多くの理由で変動する可能性があります。インスリンの投与量を調整するために最善の努力を行っても、糖尿病患者は、どうしても血糖値が本来あるべきレベルより低すぎたり高すぎたりすることを経験します。血糖値が低すぎると、認知障害や昏睡を経験します。反対に血糖値が高すぎても好ましくない合併症を招くおそれがあります。その結果、糖尿病患者の余命は、罹患していない人々よりも15年も短いことがあります。

もっと厳格に血糖値をコントロールしようとして、失われたβ細胞を補充する細胞治療の可能性を研究者たちは検討し始めています。最初の努力は、全膵移植に向けられ、過去50年間にわたって実施されています。数年間にわたってインスリン依存を脱することが示されましたが、1型糖尿病を治療するための膵臓移植はいくつかの理由で普及しませんでした。大手術であるため、死亡リスクは1〜3%あり、心臓死と全身感染症の合併症を生じる可能性があります。加えて、移植された膵臓を拒絶しないように、移植患者は、残りの一生を、免疫系を抑制する強力な薬剤を服用して生活しなければならず、感染症や各種の他の疾患が生じやすくなります。免疫抑制治療のほうが、糖尿病よりもはるかに健康にとって危険であると多くの医師は考えており、腎移植がいずれにしても必要であり、一生免疫抑制治療を受けなければならない場合にのみ膵移植を薦めています。

全膵移植では合併症が生じることから、膵島のみを移植するという可能性のドアが開かれました。膵島はβ細胞を含んでいる小さな組織です。この処置では、特別な酵素を使って、死体ドナー1例もしくは2例の膵臓から膵島を分離して、小さじ数杯の膵島を患者の肝臓に注入します。肝臓を選んだのは、門脈を通じて容易にアクセスできるからであり、膵島はうまくそこに生着しました。植え込みが済んだら、補充した膵島のβ細胞がインスリンを産生し放出しはじめます。この処置は簡単に実施することができ、全膵移植よりも侵襲性がはるかに低い方法です。しかし、(1)身体が外からの細胞を拒絶するのを防ぐため、および(2)免疫系が、もともとのβ細胞を攻撃したのと同様に、補充したβ細胞を攻撃し破壊することを防ぐため、強力な免疫抑制治療が必要です。従来から使われているステロイドをベースにした拒絶防止薬は、患者が他の疾患に罹患しやすくなることに加え、インスリン産生細胞に悪影響を及ぼし、最終的には、細胞のインスリン産生能力を枯渇させてしまうでしょう。膵島移植のEdmontonプロトコルなどの改善はありましたが、長期の膵島移植片生着率はまだ満足できるレベルではありません。生体ドナーから膵島を移植する試みは現実的ではありません。なぜならこの処置によって、ドナーに1型糖尿病が生じるリスクがあるからであり、ブタなどの動物からの膵島移植は、重大な免疫反応を誘発し、移植患者に疾病を引き起こす可能性があるからです。制限のない膵島の供給源を得ることが、インスリンを注射しなくても済むように1型糖尿病患者を助ける方向性への長い道のりとなるでしょう。

2. 関連情報

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