疾患情報

移植片対宿主病

本情報は、カナダの非営利団体Stem Cell Networkが制作した「Stem Cells and Disease: Graft Versus Host Disease 2013年7月版 患者さんへの概要」の疾患部分について仮訳したものです。なお、現在は、Canadian Stem Cell Foundationにコンテンツが移転され、情報が更新されています。

1. 移植片対宿主病について

背景

一般にGVHDと呼ばれている移植片対宿主病は、移植などの医療行為に伴って見られる病態で、患者に患者自身のものと不適合な提供者の組織を移植した場合に生じます。他人から移植を受けた場合を同種(異系)移植(allogeneic;"allo"とは"他の"、"geneic"とは"遺伝子"の意味)と呼びます。移植片対宿主病は造血幹細胞移植や骨髄移植の後に発症し、不適合な移植片(組織)が患者に移植された場合に高頻度で発症します。

がんその他の血液関連疾患を抱えた数百万人の人々にとって、同種造血幹細胞移植(HSCT)は、放射線治療や化学療法後の患者の血液系を救済する治療法です。この治療法が治癒への唯一の治療法であることがしばしばありますが、40%以上の患者が移植片対宿主病を発症し15%が死に至ることは、大きな代償です。

同種移植後に移植片対宿主病が生じるのは、生物学的には驚くべきことではありません。身体には異物からの攻撃に対して自身を護る防御の仕組み(免疫系)が組み込まれています。異物として最も多いのは、様々な細菌やウイルスであり、それらは日常的に増殖する足がかりをつくろうとねらっています。現代医療では、提供者の組織を患者に移植することが可能になりましたが、唯一の問題点は、提供者の組織(移植片)に混在した免疫細胞が、患者(宿主)組織を異物と認識することです。提供者の組織(移植片)になぜ免疫細胞が存在しているのか不思議に思われる読者もおられるでしょう。免疫細胞は、元々骨髄に存在している様々な種類の細胞の1つです。そして、造血幹細胞移植を行うため提供者から採取した骨髄(移植片)の中にはT細胞と呼ばれている完全に機能する免疫細胞が、他の細胞と一緒に混じっています。提供者のT細胞が患者(宿主)の組織に出会うと、T細胞は、それらが提供者の組織ではないことを認識し、攻撃を開始します。攻撃の対象となるのは、多くの場合、患者の皮膚や腸、肝臓であり、通常外部から侵入した細菌やウイルスを攻撃するのと同じように攻撃します。

しかし、移植片対宿主病は諸刃の剣であって、T細胞が真ん中で揺れ動いた働きをしています。T細胞は、一方で患者(宿主)の組織を攻撃しますが、もう一方では患者(宿主)内に存在している腫瘍細胞に対しても攻撃します。移植片対宿主病のこのベネフィットをもたらす側面は、移植片対腫瘍(GVT)効果として知られるようになり、このことがガン患者に同種造血幹細胞移植を実施する一つの大きな理由です。実際、化学療法の強度を減らしながら同種幹細胞移植を行う方法が、一部の固形腫瘍の再発率を低下させることに成功しています。しかし、移植片対宿主病と移植片対腫瘍のバランスをとることは容易なことではなく移植関連死亡が現在でも多くあります。これはベストマッチな骨髄提供者と骨髄移植患者を見つけることで幾分か打ち消すことができますが、同種造血幹細胞移植が兄弟姉妹間で行われるのはほんの25%に過ぎず、残りは血縁関係のない他人からの骨髄や臍帯血バンクに頼らざるを得ません。

症状、予防、治療

移植片対宿主病は極めて短時間で生じることもあれば(急性)、長い時間を経た後にゆっくり生じることもあります(慢性)。両者には“移植片対宿主病”という同じ名前がついていますが、急性タイプと慢性タイプは全く異なるものです。まず、急性移植片対宿主病は通常は移植後100日以内に生じますが、慢性移植片対宿主病は移植から100日以上経過して発症する傾向があります。急性移植片対宿主病は、組織に炎症が生じることで特徴づけられます。多くは、皮膚発疹や水疱、消化器合併症(下痢、嘔吐、食欲不振、腹痛、粘膜潰瘍、粘膜出血)ならびに肝機能障害による薬物毒性、ウイルス感染症、敗血症、鉄過剰負荷として発現します。この損傷は、主に提供者のT細胞により生じるものですが、疾病や損傷した組織が患者自身の他の免疫細胞も惹きつけ損傷が増し、このことでさらに免疫細胞が流入してくることになります。ひとたび、急性移植片対宿主病での自己持続性の損傷の悪循環が全面的に展開していくと、それを止める事が極めて困難になる場合があります。

慢性移植片対宿主病の症状は、自己反応性(自己攻撃性)T細胞が形成されることで加速化されることがわかっています。しかし、なぜこのような細胞が生じるのかについては謎のままです。自己反応性T細胞はインターフェロンγを放出します。インターフェロンγは、コラーゲン沈着と組織瘢痕形成を招くメディエーターです。疾患の経過とともに現れてくる損傷は、患者の免疫系が患者自身の血管を攻撃しているように見え始めます。慢性移植片対宿主病の症状は極めて多様であり、ここで一つ一つ列挙することはできませんが、身体のあらゆる部分に生じる可能性があります(皮膚、口、眼、筋肉、関節、生殖器、消化器、肝臓、肺、腎臓、心臓、骨髄)。慢性移植片対宿主病は重篤な疾病であるため、造血幹細胞移植後のガン再発とは無関係の死因の第一位となっています。

移植片対宿主病を防ぐ最善の方法は、組織型(HLA(ヒトリンパ球抗原)型)判定と呼ばれる方法を使って、患者(宿主)の組織(HLA)型とできるだけ一致した組織(HLA)型を持つ提供者を見つけることです。体内にある全てのタンパク質のうちで、あらゆる細胞の表面にあるHLA抗原と呼ばれているタンパク質を一致させることが極めて重要です。私たちそれぞれが持つHLAタンパク質の混合体は、両親から等しく受け継いだものです。提供者と患者(宿主)とのHLAの適合の程度が高ければ高いほど、患者(宿主)に移植片対宿主病が生じる確率が低下します。最も完璧な適合は、一卵性双生児間の適合です。同一遺伝子移植と呼ばれているこのような移植は明らかに極めて稀であり、加えて、このような移植では移植片対腫瘍効果のベネフィットが得られません。従って、それらの使用は、治療する疾病のタイプに依存します。もう一つの完璧な適合は、患者から細胞を採取し、後で戻し移植を行うというものです。このタイプの移植は自家(自己由来)移植と呼ばれ、超高用量化学療法を単独、あるいは全身放射線照射の併用を受けたガン患者に使えるでしょう。しかし、誰もがこのタイプの移植候補者となれるわけではなく、加えて、この場合も移植片対腫瘍効果が生じません。完全適合は、兄弟姉妹からも得られる可能性がありますが、完全適合の兄弟姉妹を提供者にできる幸運な患者は比較的少数であり、ほとんどの患者は提供者細胞の入手源として、公的あるいは民間の登録システムや臍帯血バンクに頼っています。

移植片対宿主病の重篤度は、患者の年齢、移植片の供給源、造血幹細胞移植の準備のための前処置治療のタイプ、および移植片対宿主病を抑えるのに用いている治療法などの他のいくつかの要因によっても異なります。典型的な前処置治療は、化学療法、放射線照射、免疫系を抑制する薬剤を組み合わせたものです。前処置治療を用いる目的は3つあります。即ち、化学療法と放射線照射で残存しているがん細胞を死滅させること;幹細胞などの患者内に存在している他の感受性のある細胞を化学療法で死滅させて、提供者の細胞が完全に生着できるように、骨髄や血液が存在する区画を明け渡すこと;そして、免疫抑制薬を使って、患者の免疫系がドナー移植片を攻撃しないようにすることの3つです。

同種移植のためのHLA適合の許容レベルを見つけることは可能ですが、不適合がある限り移植片対宿主病はしばしば発症します。移植片対宿主病を回避する最善の対策は、ドナー移植片からT細胞を全て除去することです。このことで移植片対宿主病が生じないようになりますが、同時に移植片対腫瘍効果のベネフィットもなくなることになり、がんが再発する可能性が相対的に高まります。移植片の中にT細胞がないことは、短期的に感染症と闘うのに十分な免疫細胞の機能を持たない状態にすることにもなるでしょう。移植片対宿主病を防ぐもう一つの方法は、シクロスポリンやメトトレキサート、タクロリムスのような免疫系を抑制する薬剤を使うことです。移植片対宿主病が実際に生じてしまったら、標準治療法では免疫系の抑制作用のあるプレドニソンのような糖質ステロイド(ステロイド)を静注します。しかし、この治療アプローチは、移植片対宿主病に特異的なものではなく、宿主に対するドナーT細胞の攻撃は治療によって抑制されますが、同時に患者の正常な免疫応答も抑制することになり、通常なら問題とならないような感染症に患者は罹患しやすくなります。臨床試験で現在テスト中の移植片対宿主病の新しい治療法としては、免疫系の引き金となる事象を制御する治療法や、ミクロビオーム(腸内に存在している細菌その他の微生物)に影響を及ぼす薬剤を用いる治療法があります。

残念ながら、多くの移植患者にステロイド抵抗性移植片対宿主病が生じ、予後は良好ではありません。例えば、急性移植片対宿主病を発症し、ステロイドへの抵抗性が生じた患者では予後は極めて不良であり、死亡率は60%といわれますが、90%に達する報告もあります。致死性の移植片対宿主病を発症した患者はステロイド抵抗性であるか否かにかかわらず新しい治療法が強く必要とされます。

2. 関連情報

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