疾患情報

脳性麻痺

本情報は、カナダの非営利団体Stem Cell Networkが制作した「Stem Cells and Disease: Cerebral Palsy患者さんへの概要」の疾患部分について仮訳したものです。なお、現在は、Canadian Stem Cell Foundationにコンテンツが移転され、情報が更新されています。

1. 脳性麻痺について

背景

小児肢体不自由の最も多い原因である脳性麻痺(CP)は、1000件の出産のうち2.5人が罹患し、早産では1000件のうち22人にまで上昇します。男児の方が女児よりも多く罹患します。脳性麻痺(CP)は単一の疾病項目ではなく、生涯にわたって運動や姿勢に関連する障害を生じさせる、永続的な疾患群を記述する用語です。脳性麻痺と診断されるということは、運動機能の神経コントロールに問題があることを意味していますが、患者は、行動障害や学習障害、てんかん、コミュニケーション障害、視覚障害、聴覚障害、知覚・感覚障害も合併する場合があります。

脳性麻痺の原因は複雑で、完全には解明されていません。多くのリスク因子が存在しており、相互に関連しているものと考えられます。一般的なリスク因子としては、早産、多胎出産、酸素不足(低酸素症)、あるいは虚血、ならびに胎児感染症/炎症があげられます。

脳性麻痺患者が経験する運動障害の範囲は極めて多様です。永続的な状態であるため、多くの患者が、医療や社会サービス、リハビリテーション・インターベンションを受ける必要が出てきます。完治しないことを考えれば、本人や介護者、医療システムに大きな負担となります。

症状と診断

歴史的には、脳性麻痺の発見はあるグループによるものと考えられています。Dr. William John Littleが1880年に先駆的な洞察を行ったことで、この疾病状態が定義され、Sir William Oslerがこの疾病のスペクトラムの広さを認識し、"脳性麻痺"という用語を作り出しました。そして、Sigmund Freud(フロイト)が異常な発達による出生前に原因のある疾患であるという考えを最初に提唱しました。

"脳性麻痺"という名称は、部位と機能の両方を記述するものであり、"脳性cerebral"とは脳、"麻痺palsy"とは運動コントロールに障害があることを意味しています。脳性麻痺には痙性脳性麻痺と運動異常型脳性麻痺の2つの主なサブグループがあります。痙性とは、筋肉の固縮が増加することを示す表現で、さらに記述子を加えて障害の生じた四肢を示します。つまり四肢麻痺(四肢の障害)、三肢麻痺(三肢の障害)、片麻痺(身体の片側のみの障害)です。運動障害型というのは、不随意運動障害であることを意味しています。患者の多くは痙性四肢麻痺(35%)に分類され、それに、痙性ニ肢麻痺(21%)や痙性片麻痺(21%)が続き、運動障害型脳性麻痺は少数です(13%)。

脳性麻痺患者の重篤度は、日常生活の補助を必要とせず一般と変わらない寿命を全うする症例から、一生ケアを受ける必要があり早期に死亡する可能性が高い症例まで様々です。

脳性麻痺患者の脳の白質に観察されることが最も多い損傷は、"脳室周囲白質軟化症"と呼ばれるものであり、脳内の運動神経の経路を取り巻く白質細胞が死滅し、軸索を覆って電気的に絶縁しているミエリン鞘がはずれてむき出しになっている状態のことです。このタイプの損傷は未熟児に多く見られます。別のものとして、成人の場合と同様、幼児でも脳卒中や脳内出血が生じ、ニューロン細胞を傷つけたり、破壊したりしている場合があります。損傷が生じた部位が脳の両半球にあれば、その患者では両側の肢に障害が生じます。脳の一方の半球だけに生じたものであれば、反対側の身体の運動コントロールが低下します(片麻痺)。

脳性麻痺の運動症状は、多くの場合、2歳までに生じ、随意運動をするための協調運動の欠如、筋肉の固縮、あるいは反射亢進やぎこちない歩行、片脚のひきずり、つま先歩き、筋緊張低下が症状として含まれます。脳性麻痺の小児患者が年齢を重ねると、脳に損傷があることにより生じる筋骨格系合併症が進行する場合があります。そのようなものの例としては、股関節脱臼や、脊柱の湾曲(脊柱側弯症)があります。一部の小児では、痙攣により関節の脱臼が生じ、それを整復するため手術が必要になるでしょう。

脳性麻痺の成人は、運動性の悪化や、疼痛/不快感の増加など、多くの困難な見通しに直面しますが、ほとんどは通常と同じ寿命です。短命の原因は肢体不自由の程度(寝返りをうつ能力の欠如など)や、発作あるいは重大な知的障害の存在と関係しているものとされてきました。

症状スペクトラムは、個人差が相当にあるので、医療専門家が障害の重篤度をグレード分けするためのガイドラインがあります。臨床医は、運動障害の重篤度を分類するのにGross Motor Function Classification System(GMFCS)やManual Ability Classification Systemなどのツールを用いています。脳のニューロンイメージング(例えば、脳内の出血を検出する超音波画像やMRI)を行うことで、脳の異常についてさらに詳しい情報が得られます。

原因

脳性麻痺の詳しいメカニズムや原因についてはまだ解明されていませんが、発達中の胎児ならびに幼児の脳に損傷を与えることに伴い周産期(出生前後の時期)に生じる可能性のある素因となる出来事あるいは“リスク因子”があります。このようなリスク因子には、虚血、梗塞/炎症、出生前の成長遅滞、早産、出生後の低酸素症があるとしばしば言われています。

研究で、妊娠期間が極めて重要であることが示されています。満期出生に近い幼児では、脳性麻痺を発症する確率が相当に低下するからです。満期産児では0.1%ですが、妊娠22-27週で生まれた幼児では14.6%に上昇します。感染症と炎症が重要なリスク因子であることが、どの研究でも一貫して示されています。感染媒介者例としてはウイルス(サイトメガロウイルスや風疹ウイルス、単純疱疹ウイルス、梅毒ウイルス、HIV、帯状疱疹ウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)や、寄生虫(トキソプラズマ — 主にネコが媒介する)があり、それらは、胎盤を通じて母親から子供に伝播し、中枢神経系に損傷をもたらします。

その他の原因として、先天異常や遺伝的因子、血管疾患、代謝疾患、ならびに頭部外傷に関係があります。母親の出産歴も関係し、高齢妊娠や、死産傾向、月経間隔が長いことが全て子供の脳性麻痺発症と関連性を持っています。

このように、素因が多数あることや、患者の症状のばらつきが極めて大きいことが背景にあり、その解明は現在でも大きな挑戦となっています。ほんの一部の症例でしか原因を直接に特定することができません。状況を一層複雑なものにしていることに、ほとんどの脳性麻痺症例は、遺伝的素因と環境因子が複合したもので生じており、これらの2つの要因は、発達中の脳に対してそれぞれ独立ではなく、相乗的に作用していると多くの科学者は考えています。

治療

脳性麻痺を完治させることはできません。しかし、早期治療を行えば、小児は障害を克服する新しい方法を学習できる確率が高くなるという点で専門家の見解は一致しています。リハビリテーション戦略では、運動療法や作業療法、言語療法、手術ならびに投薬を中心に行います。これらの対策を総合して、発作を抑え、日常生活を改善させ、筋痙縮と疼痛を低減させることを目的としています。外科的介入は、解剖的異常を是正することや、固縮した筋肉を開放することをねらいとします。脳性麻痺患者の多くは、歩行可能状態が継続するのをサポートし、日常生活を維持するため、固定器や矯正器具、車いす、ローリング・ウォーカーやコミュニケーションエイドに頼っています。

脳性麻痺のリスクのある新生児の損傷を最小限に留め、予防できることが示されている治療法が2つあります。第1に、低体温治療では、体温をコントロールしながら低下させ、周術期低酸素-虚血状態で生じる損傷を最小限に留めることができます。第2の治療法は硫酸マグネシウムを投与することです。これよって、未熟児出産中に幼児に対する酸素供給を安定化させ、損傷が生じる可能性を低減させました。

このような予防法やリハビリテーション治療法は存在していますが、現時点では脳性麻痺の生物学的治療法はありません。細胞補充療法の1つとして幹細胞を調べることが、新しいより効果的な治療の実現に向けての努力の1つです。

2. 関連情報

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