疾患情報

乳がん

本情報は、カナダの非営利団体Stem Cell Networkが制作した「Stem Cells and Disease: Cancers: Breast Cancer 2012年6月版 患者さんへの概要」の疾患部分について仮訳したものです。なお、現在は、Canadian Stem Cell Foundationにコンテンツが移転され、情報が更新されています。

1. 乳がんについて

乳がんは女性の主ながんの一つです。大きな犠牲を伴う疾患で、世界では毎年数十万人の女性がこの病気で死亡します。乳がんを発症するリスクは、多くの要因の影響を受け、遺伝的なものもあれば、生活習慣に関係するものもあり、先進国での発症が多く見られます。多くの先進国では早期発見の為の制度が整備され、生存率が改善されてきました。男性も乳がんを発症することがあり、同様に致命的となりえますが、男性のリスクは女性と比較しておよそ1/100です。

乳がんは“固形腫瘍”の一種ですが、構成する細胞の形状が、乳房内のどの正常な細胞に最も似ているかによって、いくつかに分類されています。正常な乳腺は、乳を産生する小葉と、その乳を乳頭に運ぶ乳管から構成されており、この全体の構造が、2つの細胞層により作られています。外側の“基底”細胞の層、および内側の“内腔細胞”の層です。がんを構成する細胞が、これら正常な乳腺の細胞とどの程度似ているかによって、乳がんは分類されます。

乳がんを分類するもう一つの特徴は、がん組織内にある細胞が浸潤性を有するかどうかという点です。早期の乳がんは、無秩序に増殖しつつも、正常な乳腺全体を覆っている基底膜バリアを通過(浸潤)する能力をまだ獲得していない細胞から構成されています。これらのがん細胞は、本来の居場所(in-situ)に留まるため、“非浸潤がん”と呼ばれます。浸潤性を持たない乳管がんと小葉がんはそれぞれ、非浸潤性乳管がん(ductal carcinoma in situ, DCIS)、非浸潤性小葉がん(lobular carcinoma in situ, LCIS)と呼ばれています。この段階で特定された乳がんは、手術や局所放射線治療で完治させることが一般に可能です。対照的に、浸潤がんは、基底膜を通過し、乳腺周囲の組織まで到達した細胞により構成されます。ここから、悪性細胞はリンパ管や血流に侵入し、そこから、リンパ節や身体全体に広がります。細胞が他の部位に伝播し、新しい腫瘍結節が確立する事を、転移と呼びます。乳がんの転移は、多くの場合、骨や肝臓、脳、肺に見つかり、その成長を根絶させることは困難です。腫瘍が浸潤能力を持っていたとしても、乳房内に留まっている限りは、完治させることがしばしば可能ですが、問題はそのような状態であることを見つけることがしばしば困難なことです。

原因、リスク因子、症状、病期判定

乳がんは、家族遺伝性の場合があり、全ての乳がん症例の5-10%程で、変異した遺伝子の遺伝が原因となります。残る90-95%の症例では、原因は後天的で遺伝しない遺伝子の変異で、形成された腫瘍細胞群ごとに固有の遺伝子変異により、異常増殖や浸潤性、治療抵抗性(耐性)が生じます。それら遺伝子変異は、他の遺伝子の発現制御(エピゲノム的制御)など、細胞の様々な機能に影響を及ぼします。

乳がん発症のリスクに影響を及ぼす因子は、各種の乳がんの原因遺伝子変異とは別に存在します。リスク因子は、変更可能な因子と、変更不可能な因子に分類できます。ライフスタイル因子として乳がんリスクに影響を及ぼす可能性のある例は、喫煙や運動、体重、飲酒、および、避妊や体外受精に使われるホルモン薬の摂取があります。変更不可能なリスク因子の例としては、年齢、性別、家族歴、初潮年齢および閉経年齢、ならびに乳腺密度があります。

多くのがんは突然出現するように見えますが、実際にはほとんどが、数年かけてゆっくり増殖し、症状を発現せずに留まっています。偶然発見されることもありますが、多くの場合、かなり進行するまでがんが発見されないことになります。乳がんの典型的な症状は以下のものです。乳房内部あるいは乳房の近傍、もしくは腋の下にしこりや肥厚が出現すること;乳房のサイズや形状が変化すること;乳房の表面にでこぼこ(橙皮状皮膚)やシワが形成されること;乳頭陥没;乳頭からの液体分泌;乳房、乳頭あるいは乳輪の皮膚がうろこ状、発赤、あるいは腫脹していることです。しかし、攻撃性を獲得したがんが、どこからともなく出現し、数ヶ月で死に至る場合もあります。残念なことに、これらの病態や予後の違いを説明する生物学的なメカニズムの違いは、ほとんど解明されていません。

病期判定(ステージング)は乳がん診断にとって重要です。様々な治療を行った後の治療成績(アウトカム)についてのこれまでの経験にもとづいて、治療方針の決定に病期情報が使えるからです。TNM病期判定システムでは、腫瘍サイズ(T)、転移しているリンパ節の個数(N)、ならびに遠隔転移が見つかるかどうか(M)をもとに、がんが0, I, II, III期あるいはIV期にあるかを判定します。一部の乳がんには、細胞の増殖を助けるHer-2-neuのような特定の細胞表面受容体を持つものがあります。病期判定因子に加え、予想される治療成績(もしくは予後)は、年齢や患者の健康状態、閉経状態の影響も受けるでしょう。

治療

乳がんの従来の治療法には、腫瘍と乳房の一部((乳腺腫瘤摘出術)あるいは全体(乳房切除術)を摘除する手術、放射線治療(通常は、罹患側の乳房のみの局所治療)、および化学療法があります。化学療法の狙いは、腫瘍と共に遠隔転移を死滅あるいは縮小させることですが、ホルモン療法を併用する場合と併用しない場合があります。術前補助療法とは、手術の前に放射線療法や化学療法を実施する治療であり、術後補助療法とは、手術後に放射線療法や化学療法を行う治療で、これらは再発リスクを低減させるため多く行われます。化学療法と放射線治療は有効ですが、分裂する細胞を、腫瘍細胞であれ正常な細胞であれ死滅させてしまうため、大きな副作用も引き起こす可能性があります。

近年開発されている新しい治療法は、腫瘍細胞内の既知の分子“標的”に向けたもので、治療成績の向上と従来治療法による副作用の軽減が期待できます。例えば、ある種のモノクローナル抗体(例、トラスツズマブ)は、腫瘍細胞の表面にユニークに発現する特異的な分子標的に、免疫系が腫瘍細胞を破壊するのに必要な標識を付加することができます。この結果、トラスツズマブを使用することで、Her-2陽性乳がんの治療成績は大きく向上しました。一方、通常は、この薬剤に耐性を示す細胞が腫瘍内にすでに存在するので、やがてはそれらがふたたび増殖し、がんが再発することになります。従って、現在の多くの研究の目標は、互いに干渉せず併用可能ないくつかの薬剤を使ってこのような再発を防ぐことです。(例、ラパチニブのようなチロシンキナーゼ阻害薬と、DNA修復機序をブロックするPARP阻害薬)。

2. 関連情報

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