疾患情報

筋萎縮性側索硬化症(ALS:Amyotrophic Lateral Sclerosis)

本情報は、カナダの非営利団体Stem Cell Networkが制作した「Stem Cells and Disease: Amyotrophic Lateral Sclerosis (ALS) 2012年2月版 患者さんへの概要」の疾患部分について仮訳したものです。なお、現在は、Canadian Stem Cell Foundationにコンテンツが移転され、情報が更新されています。

1. ALSについて

筋萎縮性軸索硬化症(ALS)は有効な治療法のない疾患であり、北米ではルー・ ゲーリック病、オーストラリアと英国では運動ニューロン病(MND)と呼ばれています。ALSは神経疾患として世界で最も多い疾患の1つであり、致死的な進行をたどらなければ罹患率は多発性硬化症と同程度になると思われます。カナダではおよそ3千人、アメリカでは3万人のあらゆる民族的背景をもった人々が、毎年、この重篤な経過を辿る疾患に罹患します。男性の方が女性よりも発症しやすく、この疾患を生涯に発症するリスクは、男性では400人に1人、女性では350人に1人です。

ALSは、脳や脊髄に存在している運動ニューロンと呼ばれている特別な神経細胞を攻撃します。これら運動ニューロンは、脳や脊髄からの電気信号を筋肉に伝達し、身体全体の随意運動をコントロールします。運動ニューロンの一方の端には球状の細胞体があり、そこから軸索と呼ばれる細長い部分が1メートルにも及び伸びています。軸索は髄鞘と呼ばれる保護カバーが巻きついており、神経を電気的に絶縁し、信号の伝達速度を高めています。運動ニューロンがALSで障害を受ける主な細胞ですが、中枢神経系に存在しているグリア細胞もALSを永続化させるのに重要な役割を果たしていることが近年明らかにされました。正常な状況では、グリア細胞は運動ニューロンを保護し、その発達を支えていますが、ALSでは何らかの理由で運動ニューロンにとっては毒になる微小環境をグリア細胞が作り出しています。

中枢神経系の運動ニューロンには再生能力がないので、ALSから可逆的に回復することはありません。疾病が進行するにつれて、運動ニューロンが次第に消耗していき、食べたり、話したり、歩いたり、さらには呼吸をするための重要な信号を伝えることができなくなります。全身に障害が生じ、通常は2-5年で死に至ります。

ALSは家族性疾患か孤発性疾患のいずれかに分類されます。症例のうち5 – 10%が家族性疾患であり、これは疾患が遺伝子異常と関係しており、家族間で遺伝することを意味しています。残りの90 – 95%は孤発性疾患であると考えられ、遺伝子異常が何らかの役割を果たしていることを示すものはあまりありません。40 – 70歳の人々がALSに罹患する可能性がありますが、発症のピークは、家族性ALSでは通常は47 – 52歳、孤発性ALSでは58 – 63歳です。家族性ALSも孤発性ALSも現時点では根本的な治癒方法がありません。

症状、診断、治療

ALSの症状には個人差があり、通常、初期症状は微かなものです。ALSと診断するのは少し困難であり、似たような初期症状を示す他の治療可能な疾患の可能性を医師が除外するには、時間がかかります。ALSは急速に進行することが通常で、短期間のうちに、四肢や頸部、顔面、体幹部の筋肉をコントロールするのが困難になります。歩行がぎくしゃくして不安定になり、筋の単収縮や痙攣を生じ、激しい疲労を感じることがあります。状態が広がるにつれて、全身が麻痺するようになります。認知機能に障害が生じる場合もあれば、生じないこともあり、嚥下や呼吸を担う筋肉が機能しなくなると死に至ります。

ALSの研究は、その原因を探るものから治療法を調べるものまで広範囲に行われています。ある種の医薬品を投与したり運動を行うことで、消耗した筋力を高めることはできますが、現在の治療法では、症状を緩和させたり、疾病の進行をわずかに遅らせることができるだけです。ALSを治療できることが立証されている唯一の医薬品としてリルゾールがありますが、疾病の進行を3-6ヶ月遅らせることに限られています。有望な研究の方向性の1つとして重要なことは、ALSの進行を確認することのできるバイオマーカーと呼ばれる生物学的な指標を見つけることです。なぜならば、ほとんどの症例で、ALSと診断される時点でかなりの運動ニューロンがすでに死滅していますが、早期にALSと診断され治療を行う機会が得られれば、更なる運動ニューロンの死滅を防ぐのに役立つ可能性があるからです。加えて、ALSのバイオマーカーがあれば、薬剤の効果について臨床試験で確認することにも役立つと考えられます。現在テスト中の新しい治療法として、アンチセンスならびにRNAiテクノロジーを用いたものがあります。これらの手法は、ALSで見つかる異常タンパク質の産生を防ぐことを意図したものです。科学者たちは、家族性ALSや孤発性ALSに寄与しているものと思われる新しい遺伝子を見つける研究や、ALSをより良好に治療する新薬の研究も行っています。

ALSの原因は何か?

ALSがまずどのようにして始まるのか、どのようにすれば損傷を回復させることができるのかという疑問については、まだ答えが得られていません。この疾病がどこから発症するのかについて説明する手がかりを科学者たちは探しています。科学者によっては、脳内の運動ニューロンからこの疾病が始まるという考えや、筋肉あるいは神経筋接合部から始まるという考え、さらには、両方で独立してALSが開始するという考えもあり様々ですが、遺伝子と環境因子の間の複雑な相互作用が謎の大きな部分を占めているという点では見解は一致しています。しかし、遺伝子と特定することや、どの環境因子が原因となっているかを明らかにするには多くの研究が必要です。探究の方向はおおまかに言って、タンパク質凝集体や封入物の集積、グリア細胞の異常な機能、炎症、神経伝達物質の欠乏、ミトコンドリア機能、軸索輸送、栄養、神経伝達物質、RNA代謝、タンパク質の分解などの疾病のメカニズムと考えられるものについて向けられています。

ALSの複雑な状況を解明しようとして、多くの研究グループは全ゲノム解析を行っており、遺伝子の一塩基多型を探しています。一方、他の研究グループでは、大規模なエクスポゾーム解析を行い、ヒトが生涯のうちに受ける無数の環境曝露について調べています。遺伝子の発見には大きな前進があり、多数の遺伝子(特に、C9ORF72、SOD1、TDP-43、FUS)が、家族性ALSに影響を及ぼすことが明らかになり、孤発性ALSについても新しい感受性遺伝子が見つかっています。しかし、少数の家族内でしか見つかっていない感受性遺伝子がある事実や孤発性ALSに関与している遺伝子を見つける速度が次第に遅くなっているという事実は、ALSが共通の遺伝子変異によって生じるのではなく、複数の稀な変異によって生じる疾患であることを示唆しています。

最近の研究で、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究者とメイヨー・クリニックの研究者がそれぞれ、C9ORF72遺伝子と呼ばれる9番染色体に突然変異が生じていることを見つけました。この突然変異の結果、DNAの“反復配列伸長”が生じ、グアニン-シトシンを多く含むDNAの延長部分が、遺伝子の非翻訳領域に挿入されます。この欠陥遺伝子は、家族性ALSの約30%の患者に見つかっているので、家族性ALSの一番の原因と考えられます。現在までに孤発性ALSの4%にもこの変異が見つかっているため、孤発性ALSでもこの遺伝子変異が何らかの原因となっていると考えられます。この欠陥のあるC9ORF72遺伝子がどのように作用するのかについては、まだ解明されていませんが、タンパク質と結合するRNA分子を作り、脳内にそのようなタンパク質を凝集させると考えられています。

ジョン・ホプキンス大学で行われたもう一つの注目すべき新しい研究は、家族性ALSと孤発性ALSの間に共通点を見つけたことです。家族性ALSと孤発性ALSの両方に見られる星状細胞は、正常な運動ニューロンに対して毒性を示し、星状細胞内のSOD1という酵素レベルを下げると、その毒性作用が低減されることを示しました。

研究者は他の神経変性疾患を調べることでもALSの原因についての手がかりを見つけようとしています。ALSやアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病の間に類似する点がいくつか見つかっています。例えば、これらの疾患では全てタンパク質の集積が見られ、そのうちいくつかは異常があります。そして、それらがニューロンの毒性環境に寄与していると考えられます。ALS、アルツハイマー病、そしてパーキンソン病については、通常であれば成長因子を分泌し、ニューロンの解毒作用を行うグリア細胞(星状細胞やミクログリア)にも異常があり、また、通常であればニューロンにエネルギーを供給するミトコンドリアにも異常があります。これらはニューロンの死の引き金となるプロセスであり、これらの異常をターゲットにした医薬品を開発すれば、多くの様々な神経変性疾患に適用出来ると研究者たちは考えています。

これまでALSは、中枢神経系の他の機能を担う神経細胞には影響を及ぼさないと科学者は考えていました。しかし、最近の研究で、前頭側頭領域の変性を生じているALS患者において意思決定や行動、言語を司る脳の領域での認知機能障害が生じている例が一部に見つかりました。認知障害の“分子マーカー”を探索した結果、制御遺伝子であるTDP-43が浮かび上がり、最近では、タンパク質分解に関与している遺伝子であるubiquilin 2が神経変性に寄与している可能性が示されました。

2. 関連情報

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