iPS細胞研究 再生医療への道

5. 精子・卵子の作製認められる

掲載日:2010年6月9日

文部科学省は2010年5月20日、「ヒトES細胞の使用に関する指針」「ヒトES細胞の樹立及び分配に関する指針」を改正するとともに「ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作製を行う研究に関する指針」を公布・施行した。
これにより、ヒトES細胞やヒトiPS細胞などからの生殖細胞の作製が解禁された。ただし、インフォームド・コンセントを得ていないため、既存のES細胞からは生殖細胞を作成することはできないなど、課題も指摘されている。

ヒトES細胞、ヒトiPS細胞およびヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成は、「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」(ES指針)が制定された2001年以降、日本では禁止されていた。
文部科学省の科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会は昨年2月、「ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成は、容認することが適当」とする基本的考え方を決定。その後、具体的な指針の改正案についての議論を経て、今年2月16日、文部科学省から総合科学技術会議に「ヒトES細胞の使用に関する指針」「ヒトES細胞の樹立及び分配に関する指針」の改正案が諮問された。
4月27日、総合科学技術会議から、これを妥当とする答申が出された。これを受けて、文部科学省は20日、ヒトES細胞の関連指針を改正するとともに、ヒトiPS細胞やヒト組織幹細胞についての指針を公布・施行した。

今回の指針改正によってヒトES細胞やヒトiPS細胞などから生殖細胞が作製できるようになると、十数年をかけてヒトの体内で完成する減数分裂を含むヒトの精子および卵子の成熟・分化機構の検討が可能になり、早発閉経、精子の形成異常・成熟障害など、生殖細胞に起因する不妊症や先天性の疾患・症候群の原因解明等につながることが期待されている。
また、生殖細胞の老化のメカニズムや生殖細胞に与える内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)や薬物など、環境因子の影響などの研究についても貢献するものと期待される。

作成された生殖細胞を用いたヒト胚の作成は、当面、禁止することになった。
生殖細胞の体外での成熟・分化技術は確立されておらず、幹細胞等から作成した生殖細胞からのヒト胚の作成については、総合科学技術会議「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(2004年)でも指摘しているように、さらに慎重な検討が必要で、今後の生殖細胞の作成に関する研究の進展や社会の動向等を十分勘案しつつ必要に応じてあらためて検討するとしている。

ただ、現在既に樹立しているヒトES細胞から生殖細胞を作ろうとすることは、実際上難しい。
既に樹立した細胞は、これまでに様々な蓄積があるため、増殖や分化などの操作が非常にしやすく、また各細胞の特性もよく分かっているため、もし可能になれば、研究を進めるという観点からは非常に有利になる。
現在のES指針の規定上は、ヒトES細胞について必ずしも連結不可能匿名化が明示的に求められているわけではないが、既にあるヒトES細胞は、個人情報保護の観点から、複数の胚をラベルを剥がして輸送することなどにより、どの提供者からどのES細胞が樹立されたのか分からないようにし、実質的に連結不可能匿名化されている。
このため、既存のヒトES細胞から生殖細胞を作成しようとする場合には、改めて、全ての胚の提供者から生殖細胞の作成についてインフォームド・コンセントを受け直す必要があり、実際上は非常に難しいと言わざるを得ない。
また新たにES細胞を作成するとなると、複数の患者さんからインフォームド・コンセントと初期胚を得て、そこからES細胞を樹立しなければならない。ただ樹立効率は低いため、患者さんに精神的負担をかけて、また数多くの手続きを経ても必ず樹立できるわけではない。

総合科学技術会議の生命倫理専門調査会では、現在のシステムでは指針が改正されると、そのたびにインフォームド・コンセントを受け直す必要があることから、その時々の指針や法律に基づいて使用できるようにすべきではないかという議論が行われた。
もちろん、結論としてはインフォームド・コンセントの再取得を義務づけることになったが、今後の研究の進展を考えると、インフォームド・コンセントのあり方や連結可能匿名化についても議論を進める必要がある。
例えば、NIHのヒト幹細胞使用研究に関するガイドラインでは、研究の設計によって連結可能匿名化できるようになっているほか、国際幹細胞学会やカリフォルニア大学アーバイン校のインフォームド・コンセント例では、研究が進展した場合には様々な使用が可能となるよう包括的な内容になっている。
また米国では、ES細胞研究自体がもともと臨床応用を目指して行われていることから、個人の遺伝情報などと結びつけることで様々な病気の解明や治療に役立てるため、ES細胞の樹立とゲノム解析とを同時に行う研究も行われている。

いずれにせよ、iPS細胞の成功はES細胞研究のベースがあったためであり、再生医療の実現には、これからもES細胞研究を進めていかなければならない。
インフォームド・コンセントのあり方については、厚生労働省の厚生科学審議会科学技術部会「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会」で議論されることになるため、今後の動きに注目が集まっている。

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