iPS細胞研究 再生医療への道

4. マウスでiPS細胞由来の心筋細胞移植に成功

掲載日:2010年5月25日

心不全は、心筋梗塞、心筋炎、心筋症等の患者がたどり着く最終的な形で、足のむくみ、腹水、胸水が溜まり、呼吸が困難になる。薬物、ペースメーカー、外科手術などで治療が行われるが、それらが困難になると、補助人工心臓や心臓移植が必要になる。現在、心臓移植が必要な患者は年間1000人、その予備軍は数万人とされている。
そうした中、慶應義塾大学の福田恵一教授の研究グループが、iPS細胞を用いた心筋再生医療分野で世界トップを走っている。

心疾患患者の細胞からiPS細胞を作り出し、病態解析・創薬・治療などにつなげていくためには、幾つかのステップが必要になる。
具体的には、(1)患者由来のiPS細胞を樹立する、(2)ES細胞、iPS細胞を大量に培養する、(3)ES細胞、iPS細胞から効率的に心筋細胞をつくる、(4)心筋細胞を細胞分裂させて、細胞数を増やす、(5)心筋細胞を純化・精製する、(6)効率的な心筋細胞の移植法を開発する——というものだ。

福田教授らは2009年11月、ヒトES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞を分化誘導させた細胞集団から心筋細胞だけを選別する方法と、効率よく移植する技術を確立した。上記ステップの(5)と(6)にあたる。
未分化な幹細胞をほぼ完全の除去できるため、発ガン性などのリスクが非常に低く、極めて安全性が高い心筋細胞を得ることができる。また、移植された細胞は動物の体内でこれまでにない高頻度で定着することが確認された。
ヒトES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞は、多種類の体細胞に分化できる能力の反面、分化させた細胞集団の中にも未分化な幹細胞が混入しており、こうした未分化な幹細胞が生体内に移植されると腫瘍化する危険がある。そのため、遺伝子改変することで心筋特異的に存在するタンパク質に蛍光タンパク質を付加するなど、様々な方法で心筋細胞を精製する試みが行われてきたが、外来遺伝子をゲノムに挿入することでも腫瘍化の危険性が生じるなどの問題があった。

前回でも紹介したように福田教授らは、心筋細胞が他の細胞と比べて多量のミトコンドリアを含有する事に着目し、ミトコンドリアを染色する蛍光色素TMRMを用いて細胞のミトコンドリアを染色。蛍光の量に応じて細胞を分離するFACSという機械を用いて心筋細胞を精製する方法を開発した。
マウスES・iPS細胞、コモンマーモセットES細胞、ヒトES・iPS細胞から分化誘導した胚様体から、心筋細胞を99%以上の純度で得ることに成功した。
得られた心筋細胞を免疫不全マウスの精巣に移植したところ、腫瘍形成は確認されなかった。また、TMRMというミトコンドリア染色色素は、精製した心筋細胞から24時間以内にほとんど流出してしまうため、他のミトコンドリア染色法に比べて安全性が高い。

また、得られた心筋細胞を液体の中に分散させて注入するという従来の移植方法では、移植した心筋細胞は組織内液の流れに乗って心臓組織外に排出されてしまう。そこで、精製したマウスES細胞由来心筋細胞を集めて凝集させ、100~450ミクロンの大きさの範囲で制御できる心筋細胞の塊にしてから移植した。
移植後8週間後に観察したところ、これまでの方法で移植したマウスではほとんど心臓に移植細胞が留まっていなかったのに対し、福田教授らの開発した方法で移植を行ったものでは90%以上の心筋細胞の定着が確認された。
さらに、ヒトES細胞由来心筋細胞を免疫不全マウスに移植した場合でもほぼ同様の結果が得られた。

また2010年3月には、ES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞から心筋細胞へと分化誘導させた細胞集団を、さらに細胞増殖させている因子を同定することに成功した。
ガンの化学療法に伴う好中球減少症を防ぐために使われている顆粒状コロニー刺激因子受容体(G-CSFR)が、その因子。
(3)の心筋細胞への分化と(4)の心筋細胞の増殖を促進するものだ。

G-CSFRが心筋細胞の増殖を促進させる

福田教授らはこれまで、ES細胞から心筋細胞へと効率よく分化させる研究を行っており、2005年にはES細胞の培養液にNogginタンパク質を加えることで、効率よく心筋細胞を分化誘導させることに成功した。
今回、Nogginを加えることでES細胞がどのように変化するかを観察した結果、Nogginを添加したES細胞ではG-CSFRの遺伝子発現が1000倍近く上昇することを見いだした。

G-CSFRが細胞増殖を促進させるという事実は驚きで、福田教授は「我々も最初は何かの間違いだと思ったが、そのデータを捨てずに丹念に調べた結果、今回の成果につながった」と話している。
iPS細胞を用いた心筋再生医療に向けた研究は着実に進んでおり、臨床への期待が高まっている。
ただし、福田教授が「臨床に向けては慎重の上にも慎重に進めていかなければならない」というように、着実に一歩一歩研究を進めていかなければならない。

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