iPS細胞研究 再生医療への道

3. iPS細胞の腫瘍化を回避するには

掲載日:2010年5月11日

再生医療実現に向けたiPS細胞研究におけるポイントの一つに腫瘍化がある。今回は腫瘍化を回避するための研究の動向を概観する。

山中教授らは、ヒト繊維芽細胞に4種類の遺伝子(Oct4, Sox2, Klf4, c-Myc)をレトロウィルスを用いて導入して、初期化することで、さまざまな細胞に分化することのできる人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り出した。
iPS細胞は、患者由来の細胞をもとにして血液や体内の各器官などを作り出すことができる可能性があるため、再生医療や新規医薬品開発に役立つものとして、世界中で活発な研究が進められている。
しかし、ガン遺伝子であるc-Mycを導入することや遺伝子の導入に使うレトロウィルスの染色体への挿入による発ガンの危険性が指摘されており、臨床応用に向けた課題になっていた。
山中教授らはその後、c-Mycを用いずにiPS細胞を樹立することに成功し、iPS細胞の樹立にc-Mycが必須でないことを示し、その後、様々な研究グループがc-Mycを用いずにiPS細胞を樹立したと報告をしている。
ただし、c-Mycを用いない場合には、iPS細胞の樹立効率は10分の1以下に低下することが課題になっていた。

幹細胞から分化した胚様体から心筋細胞を分離する新たな方法

幹細胞から分化した胚様体から心筋細胞を
分離する新たな方法(慶應義塾大学提供)

ハーバード大学のHuangfuらは、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤のVPA(valproic acid)を用いることでc-Mycなしでも効率よくiPS細胞を樹立させることに成功し、その後、VPAを用いれば効率は悪くなるもののklf4を除いても樹立できることを示した。
これらのことから、遺伝子を用いることによる腫瘍発症リスクは軽減された。
ただし、通常の発生・分化において重要な役割を担っているOct4は、生体内においても発現のタイミングや量などを厳密にコントロールしなければ腫瘍化を引き起こすため、将来的にはこれらの遺伝子を導入せずにiPS細胞を樹立する方法の開発が望まれる。

一方、遺伝子を導入するために用いるレトロウイルスも腫瘍化の要因として心配されている。
ただし、レトロウイルスで4遺伝子を導入した繊維芽細胞由来iPS細胞では、腫瘍化が認められるが、肝臓や胃由来の細胞では腫瘍形成は認められない。
染色体に挿入される遺伝子コピー数が少ないため、本来挿入されるべきでない場所に挿入される確立が下がるためだと思われている。

とはいえ、iPS細胞を臨床応用するためには、わずかな可能性であっても潰す必要があるため、原理的に染色体に遺伝子が挿入されないような仕組みが必要だ。
ハーバード大学のStadtfeldらは、アデノウィルスベクターを使って、効率は非常に悪いがマウス培養肝細胞をiPS細胞にすることに成功。ただし、細胞種によって感染効率が異なるため、繊維芽細胞の初期化はできなかった。
一方、山中教授らはプラスミドを繰り返し導入することで、繊維芽細胞からiPS細胞を樹立することに成功している。さらにベクターを導入することでiPS細胞を樹立する方法も開発されており、レトロウイルスの問題はほぼ解決されつつある。

腫瘍化を防ぎ、再生医療を実現するという観点から、もう一つのネックになっているのが、分化した細胞と未分化細胞とを選別するシステムの構築だ。
未分化細胞が混ざっていると、細胞移植した際に腫瘍化してしまうため、移植細胞から未分化細胞を完全に除去しなくてはいけない。

慶應義塾大学の福田教授とアスビオファーマ(株)の服部文幸・副主任研究員らの共同研究グループは、ヒトES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞を分化誘導させた細胞集団から心筋細胞だけを選別する方法を開発した。(右上図)
心筋細胞が他の細胞と比較して多量のミトコンドリアを含有することに着目し、ミトコンドリアを染色する蛍光色素TMRMを用いて細胞のミトコンドリアを染色。蛍光の量に応じ細胞を分離するFACSという機械を用いて心筋細胞を精製する。その結果、マウスES・iPS細胞、コモンマーモセットES細胞、ヒトES・iPS細胞から分化誘導した胚様体から心筋細胞を、99%以上の純度で得ることができる。
これによって、iPS細胞から分化させた各種細胞を精製する方法が開発されたことになる。もちろん、ミトコンドリアが多いのは心臓細胞など一部の細胞に限られるが、一つの着眼点が示されたことで、再生医療実現に向けた研究がさらに発展することが期待される。

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