インタビュー『この人に聞く』

絶え間ないアイディア模索で最良治療を考案(3)

越智 光夫 氏

聞き手:現在は自家細胞を培養して治療に利用していますが、今後の発展を考えると、多くのニーズに応えるのに、他家細胞を用いた治療も必要になるのではないでしょうか。

越智:現在検討している段階です。他家のMSCでも治療が可能か実験をしています。心配される免疫応答については、拒絶反応等の問題も起こりえるので、きちんと調べる必要があります。免疫応答を専門にしている学内の研究部門と共同研究をしています。

聞き手:1996年にJ-TECと自家培養軟骨・ジャックを共同開発され、この事業の中で株式会社日立製作所と磁場発生装置開発に取り組んでいますが、企業との共同開発を進めるコツはありますか。

越智:お互いがお互いを信じ合う。信頼できるかどうかということに尽きるのではないでしょうか。例えば、整形外科治療でヒトの細胞を使った国内初の医療製品であるジャックはJ-TECだからこそ、現状にまでもってきてくれたと思います。研究を始めた当時、再生医療関連各社もJ-TECが自家培養軟骨の開発に失敗したら、この業界全体が傾くという危機感を持っていたと思います。

 

聞き手:今後の研究の展望を教えてください。

越智:培養した細胞を磁場でコントロールする手法がうまくいけば、軟骨だけでなく、難治性の骨折や、半月板損傷、筋損傷、筋挫傷の治療にも利用できる可能性があります。また、運動器だけでなく、ガン治療にも利用できればいいですね。例えば、ナチュラル・キラー細胞を患部に集めてガン細胞を攻撃する、また消化管内の組織を切除した場所に培養細胞を集めて定着させる、細胞シートの接着にも利用できると思います。注射器一本と強磁力の磁石があれば治療ができる、応用範囲も広いでしょう。これ以外にも考えていることはあります。アイディアは連続していますので。

聞き手:越智先生は、地元広島の野球やサッカーチームのチームドクターとして、また、著名なスポーツ選手の治療にもあたっていると聞きます。2020年には日本でオリンピックが開催されますが、どの様な関わり方を考えていますか。

越智:私は、特に軟骨、靱帯を専門に診ています。基本的なスタンスはジェネラル・ニー・サージャン。治療では、生物学的な再建を目指しています。プロのスポーツ選手は、培養細胞移植による治療は待っていられないので、骨髄刺激法を用います。年齢やチームでの立ち位置で治療法が変わってきます。良いパフォーマンスができなければ手術をすることになりますが、そうでなければ痛み止めを飲みながら試合をすることなります。将来が期待されるような20歳前半の選手なら、軟骨は一生ものなので、培養細胞移植を勧めます。

私自身、これまで多くのスポーツ選手の治療をしてきました。オリンピック、パラリンピックについては、個人的にもですが、大学をあげてサポートしたいと考えています。学内にスポーツ医科学センターがあり、そこには高精度な動作解析装置があります。例えば、ボールを投げる軌跡を描出できます。治療だけでなく、様々なところで貢献ができるかと思います。

聞き手:若手へのメッセージをお願いします。

越智:今、私の研究室には50人ほどが所属し、若い人が頑張っています。基礎研究だけをしているのは、そのうち2人ぐらいです。国の大型の研究費も大事ですが、基礎的な研究費をもっと増やさないと次の研究の芽がでないのではないかと危惧しています。若い人がもっと腰を落ち着けて研究をできる環境が必要だと思います。少額でも良いので研究費を広く配分すれば、若い人たちがそこから新たな取っかかりを見つけてくれると期待しています。

研究室では私から研究のアイディアを出すことも少なくないのですが、面白いアイディアを出してくる若い人たちもいます。常に問題意識をもって考え続けないと研究のアイディアは出ません。無から有は生まれませんので、他の人のアイディアからヒントを得てアレンジすることも必要だと思います。アンテナを高く張ることが大事。「ここに、あの技術を利用できれば、もっと良くなる」など、常に考えることが重要だと言っております。


取材日:2014年12月22日

越智 光夫(おち みつお)氏の略歴

広島大学医学部卒業、1995年島根医科大学教授就任、2002年から広島大学整形外科教授。1996年世界初の三次元自家培養軟骨移植を開始し、2004年に内閣府の日本学術会議会長賞を、2010年には文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞した。広島大学病院病院長、理事を務めた後、現在は学長特命補佐を務めている。 現在、日本関節鏡・膝・スポーツ学会理事長、日本末梢神経学会理事長。

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