インタビュー『この人に聞く』

絶え間ないアイディア模索で最良治療を考案(2)

越智 光夫 氏

聞き手:既存の治療法では、限界がありますね。

越智:骨髄刺激法で期待する軟骨ができないのは、修復にあたるMSCの数が足りないのではないかということになっています。患者さん自身の骨髄のMSCを体外で増やして、それを注射で患部に打つ方法が考案され、各地で治験が行われています。確かに軟骨が治りやすくなりますが、細胞を入れすぎると瘢痕(余分な組織)ができる可能性があります。少なすぎても治らないので、適切な注入量を見極めなくてはなりません。そこで、私たちが開発している磁気ターゲティングを使えば、少ない量を集中的に欠損部へ運ぶことができるので、瘢痕ができないと考えられます。

聞き手:この移植細胞を注射する手術は従来と比べ、かなり低侵襲なのでしょうか。

そうですね。関節鏡という関節用の内視鏡を使って治療をしますが、今、太い注射針ぐらいの直径の内視鏡を企業に作ってもらっています。そのくらいの径の内視鏡で見ながら、注射で細胞を移植します。注射針2カ所くらいの傷跡で、なおかつ局所麻酔で手術ができます。ただし、軟骨が広範に壊れている場合、あるいはすぐに曲げ伸ばしする場所では、磁性体のついた細胞を患部に引き寄せたとしても、すぐに動いてしまっては治療効果が低くなります。そこで、曲げ伸ばしが可能で患部に体重がかかりにくい関節用の創外固定器(金属製の保護具)を約10年前に開発しました。修復中の組織を体重の過荷重から守ります。およそ3ヶ月固定します。磁石を用いた改良型の創外固定器も開発中です。

写真:治療法について語る越智氏

写真:治療法について語る越智氏

聞き手:再生医療実現拠点ネットワークプログラム・再生医療の実現化ハイウェイの『磁性化骨髄間葉系細胞の磁気ターゲティングによる骨・軟骨再生』で取り組んでいる研究について教えてください。

越智:患者さんから約30ミリリットルの骨髄液を採取して、MSCを培養します。培養したMSCにMRI用の造影剤(直径10ナノメートルの鉄粉マグネティックビーズ)を取り込ませることで細胞が磁性を持ちます。この細胞を体内に注射して、体の外から磁場をかけて、磁性化した細胞の位置をコントロールすることで、少量で適切な培養細胞の移植量で欠損軟骨の治療を目指しています。

今年(平成26年)11月には、自家骨髄間葉系細胞を用いた磁気ターゲティングによる関節軟骨欠損修復の臨床研究の許可が厚生労働省からおりました。2月に1例目の手術を行います。

聞き手:磁場をかけて必要な細胞を集める斬新なアイディアを思いついたきっかけは。

越智:雑多な細胞集団から特定細胞を分取できるセルソータの一種に磁気細胞分離装置があります。これは、わけたい細胞表面のマーカーにナノサイズの磁性体をつけて電場をかけて、細胞を分離するものです。広島大学では、リポソームに磁性体をつけて必要な場所に薬剤を運ぶDDS(ドラックデリバリーシステム)の開発を行っていました。これは、他の場所に散らかさずに効率よく目的の物質を目的の場所に移動できる手法です。それら既存の手法をベースに、磁性体をつけた細胞を体に取り込み、体外から磁場をあてて集める、磁気ターゲティングを考えつきました。

聞き手:研究がスタートしてから3年が過ぎましたが、装置等の改良はしているのですか。

越智:磁場発生装置は、当初直径60センチメートルの大型の装置でしたが、改良を重ね、超伝導コイルを用いた強力な磁場を発生できる装置として直径10センチメートルまで小型化しました。一方で、超伝導だと常に電気を流しておかないといけないので、扱いが大変です。そこで現在は、強力な永久磁石を用いた装置を開発中です。コストも大幅におさえられますし、様々な場所で使いやすくなると思います。     


取材日:2014年12月22日

越智 光夫(おち みつお)氏の略歴

広島大学医学部卒業、1995年島根医科大学教授就任、2002年から広島大学整形外科教授。1996年世界初の三次元自家培養軟骨移植を開始し、2004年に内閣府の日本学術会議会長賞を、2010年には文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞した。広島大学病院病院長、理事を務めた後、現在は学長特命補佐を務めている。 現在、日本関節鏡・膝・スポーツ学会理事長、日本末梢神経学会理事長。

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る