インタビュー『この人に聞く』

絶え間ないアイディア模索で最良治療を考案 (1)

越智 光夫 氏

近年、国内では高齢化に伴い膝や腰などの軟骨が壊れる変形性関節症等の関節疾患患者が増えている。治療すべき軟骨は再生能が低く、既存の治療法では限界がある。広島大学大学院医歯薬保健学研究院の越智光夫教授は、およそ20年前から再生医療で膝の機能を回復させる産学連携研究を進めている。現在、新たな再生医療手法を用いて、かつて困難だった軟骨再生に挑んでいる。

聞き手:運動器障害による要介護やそれに近い状態である“ロコモティブシンドローム(運動器症候群)”が注目を集めています。健康寿命を伸ばすには、関節や骨、靱帯、筋肉などの運動器機能を適切に保っていく必要があると思います。その中でも、特に患者さんが多いと思われる変形性関節症の患者規模はどの程度でしょうか?

越智:軟骨の欠損面積によって、患者さんの数のとらえ方は変わってくると思います。例えば、変形性膝関節症であれば3000万人程度の患者さんがいると言われています。この疾患は脚の内側も外側も軟骨が壊れる重症になると、65歳以上では人工関節に置換することになります。年間数万人が膝の人工関節の手術をしています。しかし、人工物ゆえに緩んできたり、感染のリスクがあります。

写真:越智 光夫 氏

写真:越智 光夫 氏

聞き手:若者でも軟骨に問題を抱えるケースがあるのでしょうか。

越智:スポーツをしている人に見られる離断性骨軟骨炎は骨と軟骨がはげる疾患で、膝で一番患者数が多いです。次に多いのは肘ですが、これは野球肘やテニス肘と言われます。原因は肘の使いすぎなので、若者でも軟骨に問題がある患者さんはいます。しかし、人工関節を容易に入れるわけにはいきません。若いうちは活動量も多いので、すぐ壊れてしまう可能性があります。一生のうちに3回も4回も人工関節の置換手術をすることは難しいでしょう。65歳以上でも人工関節を入れて15~20年しかもちませんし、何度も人工関節の置換手術はしません。

聞き手:関節疾患の患者さんのデータ、例えば、軟骨の欠損面積や重症度などについて、国内外で診断データの蓄積はありますか。

越智:基本的にありません。医者や治療施設が個別に蓄積しているデータはありますが、国全体のデータとなると米国にもないと思います。2009年に日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)の初代理事長に就任しました。膝やスポーツ障害等を研究対象にした学会では国内最大です。スポーツによる靱帯損傷や半月板損傷も多いのですが、それと併せて軟骨損傷についても、どの程度の欠損面積でどのような手術が行われているか、全国規模で疫学調査を実施しています。手術をしない人も含めて、関節に問題を持った患者さんの登録制度をJOSKASで始めています。

聞き手:大きな軟骨欠損だと切開をして人工関節に置換しなければならないと思いますが、それよりも程度が軽い軟骨欠損の場合はどのような治療法がありますか?

越智:軟骨の一カ所が比較的大きく欠損(4平方センチメートル以上)している場合は、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)と共同開発した、自家培養軟骨・ジャック(2013年保険収載)を使うことができます。私自身もこれまでに130例以上の移植手術を行っています。

軽い軟骨欠損であれば、モザイクプラスティ(自家骨髄軟骨柱移植法)という体重がかからない部分から骨軟骨を取ってきて欠損部を補う方法もありますが、大きく切開する必要があります。また、軟骨下骨をわざと削って出血させることで骨髄から間葉系幹細胞(MSC)が修復に動員されて、軟骨を治すこともできます(骨髄刺激法)。ただ、ここで作られる軟骨(線維軟骨)は、本来欠損部にあるべき軟骨(硝子軟骨)とは異なる性質なので、良い軟骨にはなりません。


2014年12月22日

越智 光夫(おち みつお)氏の略歴

広島大学医学部卒業、1995年島根医科大学教授就任、2002年から広島大学整形外科教授。1996年世界初の三次元自家培養軟骨移植を開始し、2004年に内閣府の日本学術会議会長賞を、2010年には文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞した。広島大学病院病院長、理事を務めた後、現在は学長特命補佐を務めている。 現在、日本関節鏡・膝・スポーツ学会理事長、日本末梢神経学会理事長。

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