インタビュー『この人に聞く』

細胞の品質保証技術開発
~問題になるウイルスや細菌、造腫瘍化遺伝子などを迅速に同時検出~(3)

森尾 友宏 氏

聞き手:腫瘍化関連遺伝子の探索について詳しく教えてください。

森尾:移植細胞の造腫瘍性検査という意味では、現状の測定方法(免疫不全マウスへの移植実験や、軟寒天コロニー形成試験など)で十分とも言えます。しかし、私たちが捕らえようとしているのは、長期的に遺伝子が不安定になって、将来腫瘍になる危険性がある細胞がいるかどうかです。例えば、iPS細胞ではどのくらい遺伝子が正常に近いか、培養し、分化させていくとどんな変化が起きるかというデータを蓄積したいと思っています。長期的に遺伝子を見ていき、異常が起きるのであればその過程をデータから辿れるようにしたいのです。移植細胞の安全性確認のために全遺伝子解析が行われることがありますが、遺伝子に変異が起きていてもその解釈が難しい。細胞によっては、腫瘍化はしていなくても、腫瘍化に関連する遺伝子に多くの変異があったら問題になるかもしれません。腫瘍を見つけるというよりは、腫瘍化と関連する遺伝子変異をデータベース化しておくことを目指しています。それは必ずしも将来腫瘍化するということではなく、今、科学的に知りうるデータを集めておくということになります。私たちは腫瘍化に関係する600近い遺伝子を調べます。それらの遺伝子について、1000個に1個の細胞で変異があっても見つけられるような精度の技術を開発しています。

聞き手:今はどんなものを解析しているのですか。

森尾:まず体性幹細胞の遺伝子解析を行っています。iPS細胞はこれからです。このような遺伝子解析手法も施設ごとに大きなデータの違いが出てしまうので、できるだけ標準化する必要があると思います。私たちの品質保証技術は、使っていただくための技術なので、本事業の研究者の方々に利用してもらいたいですね。

 

聞き手:腫瘍化関連遺伝子の解析でネックとなっていることはありますか。

森尾:細胞1000個に1個程度の精度で遺伝子変異を捕らえるので、より正確に遺伝子の情報を解析するため、何度も同じ遺伝子配列を読む必要があります。次世代シーケンサーではデータにエラーが出やすく、またPCRでもエラーが出ることがあります。これではデータのエラーなのか、遺伝子の変異なのかがわからなくなってしまいます。そこで、かずさDNA研究所の小原先生が開発・検証中の分子バーコーディング法を利用することで、データのエラーを低減して、本当の変異を見いだす手法を開発しています。データのエラーを減らせば、時間やコストを削減できます。今は、正常なサンプルに遺伝子変異のある細胞を混ぜて、1000個に1個の確率で検出できるかを確認しています。

また細胞が腫瘍化する時は1つの遺伝子変異だけでなく、必ず複数以上の変異が蓄積します。今の技術では、細胞ごとに変異のありかを的確に捉えることができません。これを検出できる手法を検討しています。

超低頻度体細胞変異検出系の開発(拡大)
596の腫瘍化関連遺伝子をピックアップし、その変異を高感度に検出する系を構築した。次世代シーケンサーによるエラーを検知するため、1つ1つの遺伝子に目印をつけておき、さらに独自のソフトを用いて、稀少細胞での変異をみつける。

聞き手:これらの品質保証技術について、どんなインパクトがあるか教えてください。

森尾:例えば、微生物検出技術は、できるだけ早く、安く、多くの情報を医療従事者と患者さんにお渡しできるという面では、治療の安全性や治療を受ける患者さんの安心にもつながると思います。再生医療だけでなく、広範なフィールドで活用が期待される技術だと考えています。細菌や真菌の検出は、環境モニタリングにも使えますね。細胞培養室や実験室の清浄度の管理にも利用できるかと思います。

写真:細胞を扱うための新たなトレーニング施設

写真:細胞を扱うための新たなトレーニング施設

聞き手:最後に若手へのメッセージをお願いします。

森尾:最近は、研究するにしても様々なことを簡単に調べられるキットが多く出回っています。便利な道具ですが、既存の方法の問題を克服するような新たな技術を考えることが重要です。そうすれば、基礎研究にも臨床応用にも役立つものができてくるでしょう。若い人たちには、現状に満足せず、常により良い方法を考えていってほしい。性能だけでなく、価格も重要なポイントです。将来的に医療現場で利用されるためには、技術革新と価格破壊を念頭に置いた技術開発を目指さないといけません。また、自分たちの技術だけで突き進むのでなく、様々な方々のノウハウを活かすことで、予想もしないような展開が起きるかもしれません。幅広い視野で研究することが大切ですね。


取材日:2015年2月12日

森尾 友宏(もりお ともひろ)氏の略歴

1983年東京医科歯科大学医学部卒業後、小児科に入局。1985年同大学大学院に入学、1991年からはHarvard医科大学に留学。一貫して原発性免疫不全症の基礎と臨床に従事。2004年より、東京医科歯科大学大学院発生発達病態学分野(小児科)准教授、医学部附属病院細胞治療センター長。細胞治療センター設立以降、再生医療関連の基盤技術や新規免疫細胞治療法の開発に従事。2014年6月より現職。

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