インタビュー『この人に聞く』

細胞の品質保証技術開発
~問題になるウイルスや細菌、造腫瘍化遺伝子などを迅速に同時検出~ (1)

森尾 友宏 氏

再生医療における移植細胞は、高度な安全性が求められる。異常な量のウイルスや細菌(病原微生物)、変異が蓄積して後に腫瘍になってしまうような細胞は、移植前に検出し、排除する必要がある。東京医科歯科大学大学院発生発達病態学分野(小児科)/同大学医学部附属病院細胞治療センターの森尾友宏教授/センター長は、それらの問題をシンプルな条件かつ全自動で検出する技術の開発を行っている。

写真:森尾 友宏 氏

写真:森尾 友宏 氏

聞き手:品質評価技術を開発するきっかけは。

森尾:東京医科歯科大学は平成14年に細胞治療センターを開所しました。そこでは再生医療における移植細胞に対する品質評価技術を強みにしようということになり、ISO9001認証も取得しました。細胞に混入しているかもしれない微生物を迅速かつ高感度に検出する技術が当時はなかったので、開発に着手しました。本学の難病疾患研究所(現所属:再生医療研究センター)の清水則夫先生が主体となって開発された、12種類の微生物を簡便に検出できる技術である“体系的迅速微生物検出系”を導入し、改良を重ねました。また、遺伝子に傷が入ったことを感度良く調べる“遺伝的安定性検証系”の開発にも着手しました。

聞き手:その12種類の微生物とはどんなものでしょうか。

森尾:ヘルペスウイルスが8種類、ポリオ-マウイルス2種類、パルボウイルス、アデノウイルスの12種類です。HIVやHTLV1(腫瘍ウイルス)などのレトロウイルス、肝炎ウイルスも測定可能としています。マイコプラズマ、細菌、真菌などもPCR(DNAを増幅させる手法)にて検出可能です。基本的には内在性のウイルス、あるいはヒト細胞に感染しやすいウイルスを選んでいます。

聞き手:森尾先生は小児科のお医者さんでもありますね。そこでは、この検出技術はどう役に立つのでしょうか。

森尾:私は小児科医で、造血細胞移植(骨髄移植や臍帯血移植)を行っています。その移植の前後に患者さんがウイルス感染を起こしたら大変です。また抵抗力が弱く、感染症にかかりやすい患者さん(免疫不全症)もたくさん診療しています。簡便に高感度でどんな微生物がいるかを知る方法を必要としていました。

聞き手:もう1つの品質保証技術開発である"遺伝的安定性検証系"は、遺伝子の異常(変異)を持つ細胞が1つでもあれば捕まえられるものと聞きましたが。

森尾:これは後々、腫瘍になりそうな細胞を遺伝子レベルで調べるもの、つまり腫瘍細胞の芽を早めに見つけようとするものです。例えば、血液ガンでは、血液細胞にどのくらい腫瘍細胞が残っているかが、治癒レベルを見極める上で重要になります。免疫不全症などの患者さんの中には遺伝子が傷つきやすい方がいます。段階を経て悪性腫瘍ができやすいのです。その過程で、どのようにガン(腫瘍細胞)ができてくるのかを見ていきたいと考えています。遺伝子がどのような変化を起こすと、最終的に腫瘍になるのかを知りたいのです。これまでに、かずさDNA研究所の小原収先生との共同研究で腫瘍化と関係する遺伝子の探索(測定)や、正常細胞に紛れ込んだ遺伝子異常を持つ細胞の測定を行っていたのですが、これが再生医療分野でも利用できるのではないかと考えました。

聞き手:その腫瘍を作りそうな遺伝子の探索は、iPS細胞が開発される前から研究されていたのですね。

森尾:厚生労働省の再生医療実用化研究事業で、培養中に問題となりそうな細胞がないかを見つける技術開発を、先行研究で行っていました。腫瘍のでき方について、できるだけ科学的に追求できないかと考えていた時に、科学技術振興機構(JST)の再生医療実現拠点ネットワークプログラムに採択され、本格的に研究を始めました。


取材日:2015年2月12日

森尾 友宏(もりお ともひろ)氏の略歴

1983年東京医科歯科大学医学部卒業後、小児科に入局。1985年同大学大学院に入学、1991年からはHarvard医科大学に留学。一貫して原発性免疫不全症の基礎と臨床に従事。2004年より、東京医科歯科大学大学院発生発達病態学分野(小児科)准教授、医学部附属病院細胞治療センター長。細胞治療センター設立以降、再生医療関連の基盤技術や新規免疫細胞治療法の開発に従事。2014年6月より現職。

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