インタビュー『この人に聞く』

細胞培養に必須の基質(足場)を再生医療産業成長のカギに(3)

関口 清俊 氏

聞き手:ラミニン511 E8フラグメントがiPS細胞の培養基材として高性能であることはわかりました。今後さらに検討すべき課題等はありますか。

関口:ニッピでは多くの医薬品生産現場で活用されているCHO細胞(ハムスター卵巣細胞)を使って、iMatrix-511を製造しています。細胞あたりの組換えタンパク質の発現量が多いほどコストは下がりますので、ラミニンE8フラグメントを超高発現するCHO細胞クローンを探し出すことが今後の重要課題だと考えています。コストを削減するには、超高発現CHO細胞の取得だけでなく、製造のための人件費や流通コストの削減も課題となってきます。海外では未だにラミニン511E8よりも接着活性が弱い、しかし安価な培養基質が広く使われています。性能面ではiMatrix-511が明らかに勝っていますので、コストを大幅に下げれば、海外でもどんどん使ってもらえるようになると思います。ES細胞やiPS細胞を再生医療で利用するためには、なにより安全性の確保が最優先されます。安全性に懸念があるマウス由来のフィーダー細胞を使わない(フィーダーフリー)の培養法の確立は多能性幹細胞を利用した再生医療を実現する上での喫緊の課題です。日本発のiMatrix-511がフィーダーフリー培養基材の世界標準となってほしいと願っています。

聞き手:各アイソフォームを取りそろえたラミニンE8フラグメントの再生医療へのインパクトをどう考えますか。

関口:再生医療は細胞培養を基本にしています。どの細胞にはどの足場が最適か、私たちの研究グループでは、多くをカバーできる情報を持っています。さらに共同研究先を広げれば、全ての細胞についての最適な足場を調べることができます。関連する知的財産権の獲得も考慮に入れて、研究を進めるつもりです。将来的には、再生医療関連産業が自動車産業に並ぶような日本の産業基盤になることが期待されています。そのための基盤技術を日本発の知財で固めておくことがとても重要です。
数十年後、再生医療等に利用する細胞を出荷する企業が“メガファーマ”となる時代がくるのではないでしょうか。私たちが研究を進めるラミニンE8フラグメントの技術が、その基盤の一つになれば嬉しいですね。そういう基盤技術が日本からいくつも出てきて欲しいですし、私たちもその一部を担えればと思います。そのためには、培養基材だけでなく、培地も細胞製造加工システムも総合的にカバーする次世代メガファーマが日本から生まれてこなければなりません。自分たちがその一翼を担えるよう、これからも頑張りたいと思います。
細胞がいるところに必ずECMがあります。再生医療の基本は、細胞をいかに増殖させ、分化させ、制御するかです。私たちが取り組んでいるのは、細胞操作をともなう様々な研究分野をカバーできる基盤的研究なのです。応用範囲が広いのも特徴です。

聞き手:ラミニンE8フラグメントについては、積極的に国際特許を取得されていますね。その戦略はどのようなものですか。

関口:iMatrix-511は、現行の足場材と比べ、格段に高性能です。国内では既に多くの研究者や企業に使ってもらっていますが、海外での普及はこれからの課題です。iMatrix-511の優れた性能をもっと海外で宣伝して、使ってもらうことが必要です。今年(平成26年)10月には、米国のニューヨーク幹細胞財団(NYSCF)主催のコンファレンスで、iMatrix-511を紹介する機会を頂きました。米国では何よりコストが重視されます。自動車でいえば、フェラーリよりもハイブリッド車が選ばれる、ということでしょうか。iMatrix-511を米国で普及させるためにも、コスト削減は今後の最重要課題です。

 
写真:ラボで実験の指示をする関口氏

写真:ラボで実験の指示をする関口氏

聞き手:最後に若手に対してメッセージをお願いします。

関口:自分が一番重要だと思う大きなテーマに果敢に挑戦して欲しいと思います。そして、新たな研究分野を拓いてほしいですね。そのためには、今何が流行っているかではなく、自分が何に興味があり、その核心がどこにあるかを自分で見極めることだと思います。自分が面白い!と思うテーマは、すぐには解決の方法が見つからないかも知れませんが、常にそれを意識していれば、いつか目標に到達する道筋が見えてくると思います。本質的に重要だと思えることであれば、やり続けるべきです。問題設定が間違っていなければ、そして自分の直感力を信じることができれば、いつか必ずゴールが見えてくると思います。ECM研究もそうです。その重要性がようやく理解されるようになってきました。


取材日:2014年12月26日

関口 清俊(せきぐち きよとし)氏の略歴

大阪大学蛋白質研究所・細胞外マトリックス研究室・教授

  • 昭和48年 3月 東京工業大学理学部化学科卒業
  • 昭和53年 3月 大阪大学大学院理学研究科生物化学専攻博士後期課程修了(理学博士)
  • 昭和54年 3月 米国フレッドハッチンソン癌研究所 博士研究員
  • 昭和59年 1月 米国 ワシントン大学病態生物学科 助教授(併任)
  • 昭和61年 5月 藤田保健衛生大学医学部 講師
  • 平成 2 年 6月 藤田保健衛生大学医学部 助教授
  • 平成 3 年 4月 大阪大学微生物病研究所 助教授
  • 平成 3 年 7月 大阪府立母子保健総合医療センター研究所 部長
  • 平成 4 年 4月 大阪府立母子保健総合医療センター研究所 所長
  • 平成10年 4月 大阪大学蛋白質研究所 教授
  • 平成12年 10月〜平成18年3月
    科学技術振興機構創造科学技術推進事業(ERATO)
    関口細胞外環境プロジェクト 総括責任者(兼任)

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