インタビュー『この人に聞く』

細胞培養に必須の基質(足場)を再生医療産業成長のカギに(2)

関口 清俊 氏

聞き手:ラミニンには、α鎖,β鎖、γ鎖の組み合わせが異なる多数の“アイソフォーム”があると聞きました。アイソフォームが多数あることにどんな意味があるのでしょう?

関口:受精卵から様々な細胞が産み出される発生の過程を考えてみましょう。多能性幹細胞から様々な細胞を分化誘導する場合をイメージしていただいても結構です。多能性幹細胞が様々な細胞に分化していくステップごとに、細胞を取り囲むECMの組成は変化していきます。細胞にとって一番心地良い環境になるよう、ECMは常に作り替えられていくのです。肝臓になる環境、心臓になる環境、神経になる環境、それぞれ分化するにあたり、必要とされるラミニンのアイソフォームも異なることがわかってきました。細胞ごとに好みのラミニンが違っている、換言すれば“カスタマイズ”されている訳です。

図:細胞分化と細胞外マトリクスのカスタマイゼーション(拡大)

聞き手:再生医療実現拠点ネットワークプログラム・技術開発個別課題『幹細胞培養用基材の開発』は、2年目になりますがどのようなことが見えてきましたか。

関口:このプログラムが始まる前から、臓器ごとに使われているラミニンのアイソフォームが違っていることはわかっていました。ですから、その細胞を培養するときにはそのアイソフォームを使うのがよいだろうと予想していました。ただ、それを裏付けるデータがありませんでした。しかしこの2年間で、その予想を裏付ける結果が拠点の先生との共同研究を通じて次々と得られてきました。これはとても大きな前進です。最初にその違いが発見されたのが肝臓です。肝臓は古くから再生能が高い臓器として知られています。水口裕之先生(大阪大学大学院薬学研究科教授)は肝臓の前駆細胞を安定に培養するにはラミニン111(α1/β1/γ1)というアイソフォームが有効であることを見つけました。そこで様々なラミニンアイソフォームのE8フラグメントを調製して、どのフラグメントが肝臓の前駆細胞の培養に有効かを検討していただきました。すると、すべてのラミニンアイソフォームの中で、ラミニン111のE8フラグメントが培養の足場として、一番有効であることがわかったのです。その他、他の細胞でも、ラミニンE8フラグメントが有効であることがわかってきています。

聞き手:ラミニン511(α5/β1/γ1) E8フラグメントは、共同研究企業である株式会社ニッピから『iMatrix-511』(平成25年上市)として販売されていますね。iPS細胞やES細胞など多能性幹細胞の培養だけでなく、分化誘導にも効果的な場合があると聞きました。

関口: 髙橋淳先生(京都大学iPS細胞研究所教授)との共同研究で、iPS細胞から神経細胞への分化誘導を一貫してラミニン511E8フラグメント上で行えることがわかっています。ニッピでは生物由来原料基準に適合するiMatrix-511 の製造方法を開発しており、高橋先生はこれを使って分化誘導した神経細胞をパーキンソン病治療に用いることを検討されています。

図:ラミニンの多様性(拡大)

聞き手:ラミニン511E8フラグメントが多能性幹細胞の培養に適していることは、再生医療実現拠点ネットワークプログラムの以前に取り組んでいたNEDOプロジェクト等の支援で導きだされたそうですね。

関口:中辻憲夫先生(京都大学・物質-細胞統合システム拠点・設立拠点長)が研究代表を務めたNEDOプロジェクトに2006年から4年間参加しました。そこではマウス初期胚の基底膜の組成を詳細に解析し、初期胚の多能性幹細胞の足場が主にラミニン511でできていることを見いだしました。そこでラミニン511E8フラグメントの組換えタンパク質を調製して、中辻先生にES細胞を培養していただいたところ、ES細胞でもiPS細胞でも、従来の足場材よりも高効率に培養できることがわかりました。


取材日:2014年12月26日

関口 清俊(せきぐち きよとし)氏の略歴

大阪大学蛋白質研究所・細胞外マトリックス研究室・教授

  • 昭和48年 3月 東京工業大学理学部化学科卒業
  • 昭和53年 3月 大阪大学大学院理学研究科生物化学専攻博士後期課程修了(理学博士)
  • 昭和54年 3月 米国フレッドハッチンソン癌研究所 博士研究員
  • 昭和59年 1月 米国ワシントン大学病態生物学科 助教授(併任)
  • 昭和61年 5月 藤田保健衛生大学医学部 講師
  • 平成 2 年 6月 藤田保健衛生大学医学部 助教授
  • 平成 3 年 4月 大阪大学微生物病研究所 助教授
  • 平成 3 年 7月 大阪府立母子保健総合医療センター研究所 部長
  • 平成 4 年 4月 大阪府立母子保健総合医療センター研究所 所長
  • 平成10年 4月 大阪大学蛋白質研究所 教授
  • 平成12年 10月〜平成18年3月
    科学技術振興機構創造科学技術推進事業(ERATO)
    関口細胞外環境プロジェクト 総括責任者(兼任)

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る