インタビュー『この人に聞く』

再生医療の普及に貢献する自動細胞培養装置(2)

中嶋 勝己 氏

聞き手:
自動細胞培養装置のベースができたわけですが、その後、さらにどういった発展があったのでしょうか。

中嶋:
非臨床用の細胞培養装置の試作機は産業技術総合研究所(AIST)に置いてもらい、色々な細胞が培養できるか検討してもらっていました。ちょうどその時に、京都大学の山中伸弥教授がヒトiPS細胞の樹立に成功し、この装置でもiPS細胞を培養できるのではないかという話になり、2009年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のiPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発「iPS細胞等幹細胞の選別・評価・製造技術等の開発」において、AISTと国立成育医療研究センターと共同でiPS細胞を増やす技術の自動化の開発を行うことになりました。2010年にはヒトiPS細胞の自動培養に成功しました。
また、培養した細胞を臨床用に使う装置の開発でも、NEDOのいくつかの事業の支援をいただき、開発を行いました。ここで実用化のための滅菌方法を検討し、過酸化水素を利用することで高圧力・高温にならない自動細胞培養装置を製作しました。試作機を大阪大学での実証試験した後に、改良機を製作し、1台目は川重に、2台目はタイのチュラロンコン大学に納入しました。タイはご存じのように医療ツーリズムを推し進めていますし、NEDOがタイ科学技術開発庁とMOU(覚書)を結んでいます。来年には間葉系幹細胞(MSC)等を培養して臨床応用しようと考えているようです。この臨床用の自動細胞培養装置は2012年に販売を開始しました。

写真:中嶋 勝己 氏

写真:中嶋 勝己 氏

聞き手:
今回の装置は人間のテクニカルな作業を自動化するということですが、研究者の方々は、ノウハウを提供することに協力的でしたでしょうか。

中嶋:
髙木教授をはじめ、多くの研究者の方々に協力していただきました。その1人である脇谷先生(現・広島大学教授)は整形外科の臨床医ですが、先生は自分の研究成果や技術を世の中で役立たせたいという強い想いから、研究の支援をいただきました。そのような方々と共同研究をすることで、職人技的なノウハウを機械に落とし込むことができました。パートナーが違っていれば、この研究開発はうまくいかなかったかもしれません。

聞き手:
昨年(2013年)からはJSTの再生医療実現拠点ネットワークプログラム・技術開発個別課題で新たな細胞培養装置に関する研究開発をスタートさせましたが、この装置ではどのように細胞を培養するのですか。また、体制はどうなっていますか。

中嶋:
この課題では、理化学研究所が開発した汎用性の高い無血清凝集浮遊培養法(SFEBq法)を自動化し、iPS細胞から様々な再生医療用細胞を作る(分化誘導する)装置の開発を目標にしています。SFEBq法は、容器内で細胞を浮かせた状態で培養を行い、凝集塊を作り、高効率で高品質な目的の細胞に分化誘導を行えます。
分化誘導を行うためには、まず96個に分割されたプラスチック容器(96ウェルプレート)の中のそれぞれにiPS細胞を入れて、2~4週間培養して凝集塊を作り、分化させます。その後、凝集塊を6週間成熟させ、自己組織化を促します。この過程を自動化するのです。
iPS細胞やES細胞のような多能性をもった細胞は、人間の体を構成するどんな細胞にでも分化できる可能性を持つ細胞です。そのため、増殖のための培養でも分化することがありますが、何に分化したかはわかりません。例えば、最初の5日間はA培養液で、次の10日間はB培養液と培養液を替えるなど、適切な時期に培養液を替えることで、視神経なり脳神経など、目的の細胞に分化させることが可能になるわけです。培養液の組み合わせ次第で、様々な細胞に分化させることができると聞いています。この装置は作業をするロボット(駆動部)と容器は共通化しますが、ユーザー自身が個別に設定を行うことで、作りたい細胞に分化誘導できることを目指しています。
例えば、私どもでも作っている鉄道車両ですが、そこに搭載されているモーターは、ギア比を変えることで普通にも特急にも新幹線にもなります。モーターは様々な車両に共通の装置になるわけです。このような共通装置技術を細胞培養装置で使えるようにすることを目指していきたいと考えています。
ちなみに開発体制は、川重が装置本体を、住友ベークライトが細胞を入れる容器開発を、大日本住友製薬と住友化学ができた細胞の評価を行います。また、理化学研究所からは培養方法に関する指導や助言等をうけております。

2014年10月時点での技術検証用の試験装置の構成

2014年10月時点での技術検証用の試験装置の構成

聞き手:
一般的な平面培養と、より培養が難しい立体浮遊培養法(SFEBq法)の違いはなんでしょうか。

中嶋:
これまで川重で開発してきた装置は平面培養を利用していました。この培養法だと底に細胞がくっつくので培養液が簡単に交換できますが、SFEBq法では、細胞が浮いたままで分化していくので、培養液を交換する際に培養液とともに細胞が出たり、凝集塊を移動させる際に塊が壊れたりする可能性があります。そのあたりの繊細な作業を自動化するための検討を続けています。
また、平面培養は細胞に厚みがないので顕微鏡での確認が簡単にできます。一方で、SFEBq法でできた細胞は顕微鏡で見てもピントを合わせるのが大変で“出来の確認”をすることが難しい。その確認も自動化できればと思います。


取材日:2014年9月24日

中嶋 勝己(なかしま かつみ)氏の略歴

1981年京都大学大学院修士課程精密工学専攻修了。同年、川崎重工業株式会社に入社、技術開発本部にて、ロボットを中心とした自動機械の開発に従事。2004年より、自動培養システムの開発に取り組み、2013年より、マーケティング本部MDプロジェクト部MD技術開発室長(現職)。

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