インタビュー『この人に聞く』

再生医療の普及に貢献する自動細胞培養装置(1)

中嶋 勝己 氏

近い将来、再生医療の普及に伴い、高品質な再生医療用細胞を効率的かつ大量に培養することが必要になるだろう。しかしながら、臨床用途の細胞作製は、職人的なスキルが求められるだけでなく、長期間ミスが無いように作業を続ける必要があり肉体的/精神的な負担も強いられる。そこで期待されるのが、ロボット技術の粋を集めた自動細胞培養技術の開発だ。これには一つの自動培養システムで異なった種類の細胞を培養できる汎用性も備えることが必要になるだろう。
将来の再生医療を支える装置技術の開発に取り組む川崎重工業株式会社・マーケティング本部MDプロジェクト部MD技術開発室の中嶋室長に話を聞いた。

写真:中嶋 勝己 氏

写真:中嶋 勝己 氏

聞き手:
医療機器開発は当初のご専門ではなかったそうですね。

中嶋:
大学ではロボットを作る研究室に所属し、就職先には日本のロボットメーカーでも五本の指に入る川崎重工業(以下、川重)を選びました。入社してから、通商産業省(現・経済産業省)の極限作業ロボットプロジェクトで水中点検ロボットの研究開発や、東京湾横断道路(東京湾アクアライン)のトンネルにも使われたシールド掘進機のセグメントの自動組立装置の開発に携わってきました。シールド掘進機は、穴を掘った後にコンクリートパネルでトンネルの壁を作っていきますが、この部分がセグメントの組立装置で、ここを自動化すれば、いわゆるロボットなのです。
川重では、造船分野で培った鉄の溶接技術を活かし、電車や飛行機の製造など次々と新たな分野に進出してきました。2000年を過ぎた頃に、将来の柱となるような新事業に取り組もうということになり、そのなかで“医療”というテーマが私に与えられました。自身が持つ技術、つまりロボット技術を活かした医療分野での研究開発に取り組むことになったのです。

聞き手:
医療の中でも、なぜ再生医療に着目したのでしょうか。

中嶋:
まず、病院などで聞き取りをして、どういったものが必要とされているかを調べました。そこで脚光を浴びていたのが再生医療だったのです。
再生医療でも、細胞培養という重要な工程があって、それが大変な作業と聞きました。順番を間違えてはいけないとか、細菌の混入で汚染が生じてはいけないとか・・・。こういう大変な作業をロボットは得意としています。例えば、品質検査時の顕微鏡での観察ではイメージング技術が必要になりますが、そういった必要とされる技術は川重が培ってきたロボット技術であり、自分たちの得意技を使えることがわかりました。そこから再生医療用の細胞培養を自動化するというコンセプトで、2003年から装置開発に着手しました。

聞き手:
その装置開発は川重単独で進めてきたのですか。

中嶋:
川重では作業の自動化のためロボット開発は得意で、装置のベースとなるクリーンで作業する技術は半導体製造技術のノウハウを活用できることがわかっていましたが、細胞培養はまったく経験がありませんでした。悩んでいる時期にたまたま科学技術振興機構(JST)が主催する新技術説明会で、自動化を活かせそうな研究成果が紹介されているのを知り、その研究開発をした大阪大学の髙木睦助教授(現・北海道大学教授)に会いに行きました。髙木教授の培養方法をうかがうと自動化が期待される部分があることがわかり、川重では足りない細やかな細胞培養のノウハウを髙木教授から教えていただくということで話がまとまりました。その後、JSTの独創的シーズ展開事業・委託開発に採択され、2005年から共同研究をスタートさせました。
ここでは再生医療をサポートするような自動細胞培養装置の開発を目指しました。試行錯誤して、なんとか細胞培養ができるようになりましたが、いくつかの課題がありました。
装置の構成を考えると、1人の患者さんに対して1つの細胞培養装置では、コスト高となり商品として成り立たちません。そこで重要なのは、次の作業に移行する際に、いかに作業装置をクリーンにするかということです。人間はアルコールを布にしみこませて汚れを拭き取っていますが、ロボットでは難しい。髙木教授の技術ではオゾンガスでクリーンにする方法が用いられていましたが、このガスでは完全な滅菌はできません。実用化のためには他の滅菌手法を考える必要がありました。
そこで、先ず自動培養技術の検証を行うこととし、試作第1号(JST委託開発の評価機)を製作し、信州大学先端細胞治療センターの細胞・組織調製施設(CPC)に設置しました。実証実験を行って、骨髄液から間葉系幹細胞を同大学の品質基準に合格できるレベルで自動培養することに成功しました。
滅菌技術としては、高圧蒸気を使うオートクレーブが一般的でしたが、装置内を高圧にする必要があり、装置重量が増えます。病院で利用するという実用面で考えると問題です。そこで完全滅菌まではいかなくても、研究用途では利用できるものということで、最初に非臨床用の自動細胞培養装置(2008年販売開始)を製作しました。


取材日:2014年9月24日

中嶋 勝己(なかしま かつみ)氏の略歴

1981年京都大学大学院修士課程精密工学専攻修了。同年、川崎重工業株式会社に入社、技術開発本部にて、ロボットを中心とした自動機械の開発に従事。2004年より、自動培養システムの開発に取り組み、2013年より、マーケティング本部MDプロジェクト部MD技術開発室長(現職)。

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