インタビュー『この人に聞く』

骨髄細胞により肝臓再生能力を取り戻す新たな肝硬変治療を目指す(3)

坂井田 功 氏

聞き手:
坂井田先生が考える、「培養法」の課題は何ですか。

坂井田:
培養に時間を要すること、培養骨髄細胞に細菌やウイルスが感染していないかの確認を要することや、調製を行う費用がどうしても高額になることです。企業が参入してシステム化できれば費用も下げることができるのですが。
今は企業の参入を促すような、安全性が確かに保てるとの結果を積み上げて行きたいと思っています。
また、海外で市販されているヒト骨髄細胞を使って行った実験では、培養して骨髄間葉系幹細胞が増加しない例はありませんでしたが、実際に患者さんの骨髄液から骨髄間葉系幹細胞が必ず増殖するとは言い切れません。増えなかった時に、もう一度採取するのかなどは、現在検討中です。逆に、たくさん増せることができれば、凍結保存して複数回投与することも検討しています。

聞き手:
「培養法」は効果を「非培養法」は主に安全性を確認する臨床研究ですが、それらはどのように検証していくのですか。

坂井田:
効果は血清アルブミン値や腹水の有無など国際的に認められたスコアで判定します。安全性は血液検査データや自他覚症状などがあります。また投与した細胞が血管に詰まることなどがないように、肺の障害がないかなどは血液中の酸素分圧を計ることでもチェックしますし、CT画像でもある程度の大きさがあれば異常としてとらえられます。ただし、患者さんの肝臓から組織を採取して行う解析は、患者さんに同意を得る必要があります。

聞き手:
坂井田先生は長年一貫して肝疾患の治療に関するご研究に取り組んでこられましたが、その道に進まれたきっかけなどあればお聞かせください。

坂井田:肝臓には本当にたくさんの機能があって、沈黙の臓器とよばれるほど症状が出るまで頑張り続ける臓器です。人の体の代謝の中心組織なので、いろいろな患者さんの訴えの原因を追究しているうちにたどり着いたと言えるかもしれません。

写真:坂井田 功 氏

写真:坂井田 功 氏

聞き手:
最後に臨床研究に対する期待と展望をお聞かせください。

坂井田:
最終的には、「非培養法」と「培養法」の効果の比較を行いたいと思っています。
末梢から投与された骨髄間葉系幹細胞は、様々な臓器を巡って障害のある肝臓にたどり着くことがわかっています。2003年の臨床研究では、肝臓以外の臓器の機能が改善される可能性を経験しました。海外の研究でも、いろいろな効果が確認されています。骨髄間葉系幹細胞の投与を肝疾患に対して行う治療法は、中国や欧州では実施され、イランなどでも行われています。私たち山口大学にも韓国、エジプト、ブラジル、ロシアなどから研究者が研修に訪れ、研究を進めています。イギリスでは骨髄から造血系の幹細胞を採取して投与する臨床研究を近々開始するようです。
また私たちが行う臨床研究では、肝臓以外への効果もみたいと思っています。ただ、山口大学は規模の小さい大学ですので、マンパワー不足は否めません。
さらに、日本全体の課題として、再生医療に用いる臨床用の細胞製剤を培養する専門技術者不足があります。日本再生医療学会は今年、「臨床培養士認定制度」を創設しましたが、山口大学でもこれに応える形で、来年度から医学部保健学科に「再生医療細胞培養士育成コース」を立ち上げ、人材育成に取り組みます。こうした人材育成と研究を同時に進めていきたいと考えています。

究極的には、細胞を投与しなくても、骨髄中の間葉系幹細胞が血液中に出てくる効果を持つ物質を特定して、それを投与することで治療ができるようになれば良いと思います。骨髄間葉系幹細胞は、投与すると自然と障害を受けた体内の患部に集まってくれますが、人為的に物質を特定の臓器に集めるのは、とても難しい。臨床研究とは別の話になりますが、この物質を特定するための研究も行っています。難しい課題ですが、成功すれば、iPS細胞を使ってその物質を大量に増やすことができるかもしれません。そしてこれら細胞に関わる基礎的な知識が、iPS細胞を用いた再生医療にも役立つと考えています。
ただ、その物質の特定、さらには薬剤化を待つ猶予が無い患者さんもたくさんいて、私たちはそういう患者さんを治療したいと考えているのです。


取材日:2014年8月18日

坂井田 功 (さかいだ いさお)氏の略歴

山口大学 大学院医学系研究科 消化器病態内科学 教授
日本肝臓学会認定指導医、日本消化器病学会指導医、日本内視鏡学会指導医、日本内科学会指導医、日本臨床腫瘍学会暫定指導医

1984年山口大学医学部卒業後、1989年大学院修了、(1987年-1990年までの3年間米国トーマスジェファーソン医科大学留学)。山口大学医学部第一内科医員を経て、山口大学医学部第一内科助手、山口大学消化器病態内科学講師 、同助教授、2005年より現職。山口大学医学部附属病院光学医療診療部部長も併任。 2012年より、医学部長・医学系研究科長併任

日本門脈圧亢進症学会(理事) 日本肝臓学会(評議員)、日本消化器病学会(評議員)、日本内視鏡学会(評議員)、日本内科学会(評議員)、日本病態栄養学会(理事)、Imperial College of London客員教授(英国)、新エネルギー産業技術総合開発機構NEDO審査委員

受賞等

  • 1995年 山口大学霜仁会(そうじんかい)本賞
  • 1999年 味の素アワード(奨励賞)
  • 2003年 ニューフロンテイアプロジェクト(奨励賞)
  • 2006年 日本消化器病学会奨励賞
  • 2006年 宇部興産学術財団賞
  • 2007年 Emerging Leader Award (Journal of Gastroenterology & Hepatology)

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る