インタビュー『この人に聞く』

血液幹細胞研究から異種間臓器再生まで(2)-全2回-

中内 啓光 氏

聞き手:
次にヒトの膵臓をつくらせようというときには、さらに難しい問題があると思いますが、どんなふうに予想していますか。

中内:
最大の問題は、キメラをきちんと作るiPS細胞がまだ得られていないことです。げっ歯類以外では、キメラを作るiPS細胞は採れていません。まず、キメラを作れるヒトiPS細胞を作製することが第1歩です。

マウスとラットで実験してわかったことは、マウス・ラット間でも異種では同種よりキメラが作りにくいのです。ですから、ブタとヒトも簡単ではないだろうと予想しています。

学問的な課題として、異種胚はなぜうまく着床しないのかにも興味をもっているんです。これは免疫の問題ではなさそうです。着床は一種の接着ですから、おそらく接着分子などが要因になっているのではないでしょうか。

例えば、マウスの胚をラットの子宮に入れると絶対に着床できません。どうやら外側に異種の細胞があると、よそものと認識されて着床できないらしいのです。ですから、もしヒトのiPS細胞をブタ胚盤胞に注入したときに、ヒト細胞が外側に出てくると拒絶されて着床しないかもしれません。そこが鍵になりそうな気がしていますが、こればかりはやってみないと分からない。

聞き手:
やってみないと、ですか。

中内:
そう。それがサイエンスなんです。「やってみないと分からないよ」と言うと、研究室の皆が笑うのですが、やってみなくてもわかることをやっても意味がない。日本のサイエンスがあまりクリエイティブでないのは、そこではないでしょうか。皆が「そんなこと絶対できっこない」と言うことをやることこそ意味があるんです。知識がありすぎる秀才は、サイエンス研究にはあまり向かない。独創的な仕事は出にくいですね。

素直に実験が好きだ、研究がおもしろいという人がよい仕事をしてくれます。そういう人が大学院に来てほしい。今の日本の教育システムだと、そういう人がどこかではねられてしまうことが多いのではないでしょうか。せっかくの人材を無駄に消費しているような気がします。

私がこれまでにしてきた研究のうちでも、評価されているのは、「そんなことできるわけがない」と周囲に言われた研究です。「MDサイエンス」という言葉があるのですが、医学部出身者はどうも結果を出すことを優先してしまう傾向があって、そこそこ成果のあがる研究をしがちです。

聞き手:
実質臓器をつくる、という今回の研究の目標も、最初は「え?そんなこと!」という反応でしたか。

中内:
実質臓器の再生をはじめて考えたのは筑波大学にいた30代半ば頃です。当時はまだ再生医療という言葉もありませんでしたから、自分でまず「臓器再生」という言葉を考えて、あるグラントに応募したんです。そうしたら書類審査で見事にはねられました。早すぎたのでしょう。

それをきっかけに造血幹細胞の再生に興味をもったのです。骨髄移植は当時からありましたから、臓器再生がダメなら骨髄再生はどうか、と考えたわけです。骨髄の本質は造血幹細胞です。当時は免疫学をやっていたので、そちらで研究費をいただきながら、造血幹細胞研究に取り組みました。

免疫学をやると、免疫系の認識機構は非常によくできていて、これをだますのがいかに困難か、身にしみてわかります。他人の臓器を移植することは実に難しい。自分の細胞をうまく変換するのが一番よいと考えるようになりました。臓器再生を考えたのは、免疫学をやっていたからだと思います。本当にそれを手がけるまでには、最初にアイデアをもってから20年ほどかかったことになりますけれどもね。

聞き手:
大型動物に作らせた臓器をヒトに移植するについては、国内では規制の問題をクリアしないと進みません。規制をどう緩和するか、変えるかについてのお考えはいかがですか。

中内:
もう2年ほど規制を変えることを働きかけていますが、はかばかしい反応はありません。やるな、ということだと理解せざるを得ない状況ですね。最近になって、世界の現状調査をすることにはなったようです。患者さんのことを考えると、規制で縛ることよりも、治療できる手段があるのに適用しないことのほうがはるかに大きな問題だと思います。

これもまたやってみないとわからない。やってみて問題点がわかれば、次の手を考えることもできますが、やってもみないでいたらひとつも前には進みません。

その点、英国は賢くやっていると思います。ただ一律に規制するばかりではないのです。動物性集合胚を作る、あるいはそれを生体内に移植するという段階になったら、政府に申請する。そこで認可するかどうかを専門家委員会が個別の事例について決めるしくみなんです。

聞き手:
規制の問題と同時に、市民感覚として「臓器をブタにつくらせて移植する?」と身をひいてしまうような感情はないでしょうか。

中内:
その点は私の努力不足もあるかもしれませんが、メディアにも協力していただけると有り難いですね。研究者が説明することには時間的にも能力的にも限界があるので、そういう説明をきちんとしてくれる役割の人が必要だと感じます。
なにも怪物ができるわけではないんです。きちんと説明すると、多くの方は理解してくれます。内容の理解が進めば、受け入れてもらえるはずなんです。

ヒトの細胞を再生目的の臓器だけに集めることもできます。内臓だけに行くような遺伝子を入れるとか、もし脳神経や生殖細胞に行った場合には死んでしまって除外されるような遺伝子を入れておくということもあり得るでしょう。決してそんなに難しいことではありません。しかし、そんな小細工をするよりも、まず膵臓ができることを知りたい。やってみて、もしもたくさんの細胞が脳にいくようであれば、そこで次の方法を考えればよいと私は思うんです。

聞き手:
はじめはサルでやってみるとか、そういう段階を踏むのでしょうか。

中内:
そういう質問はよくあるんですが、最終目的がヒトである以上、ヒトでやって何がいけないか、というのが私の考え方です。サルのES細胞をつくるのはなかなか厄介です。ヒトのほうがある意味でずっと簡単だという現実もあります。 サルでやる必要や意味が本当にあるのか。サルでできてもヒトではできないかもしれません。サルで試行することを条件とする必要はまったくないのではないでしょうか。

写真:中内 啓光 氏

中内 啓光 氏

聞き手:
最後にこの分野で研究することに関心をもつ若い方に一言お願いします。

中内:
「よいサイエンティストはいつでも波に乗っている」と言われますが、それはまわりを見て波に乗っているのではなくて、自分が波を起こしているのだと思いますね。

まわりを見てやるサイエンスはたいしたものにはならないです。まわりが何と言おうと、流行がどうであろうと、研究費が不自由であろうと、自分がおもしろいと思ったことを勇気をもって徹底的にやることです。それが一番純粋で一番強い動機ですからね。とにかく、そこで頑張るんです。


インタビュアー:古郡 悦子
取材日:2013年2月20日

中内 啓光(なかうち ひろみつ)氏の略歴

東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター 幹細胞治療分野 教授

横浜市市立大学医学部に学び、東京大学大学院終了。スタンフォード大学、順天堂大学、理化学研究所を経て、1993年、筑波大学基礎医学系免疫学教授。2002年、東京大学医科学研究所に移り、2008年より幹細胞治療研究センターのセンター長をつとめる。MD.、PhD.

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