インタビュー『この人に聞く』

「再生医療の実現化プロジェクト」の
舵取りとこれからの課題(1)-全2回-

髙坂 新一 氏

文部科学省科学技術試験研究委託事業「再生医療の実現化プロジェクト」が、平成15年度から10年計画で実施されている。再生医療実現に近づくことを目指すオールジャパンの研究事業は、どのように進んでいるだろうか。第Ⅰ期の平成18年度から第Ⅱ期(平成20年~24年)にわたって総括責任者をつとめる髙坂新一プログラムディレクターに、現状と見通しを聞いた。

聞き手:
再生医療の実現化プロジェクト」は、いよいよ平成24年度で第Ⅱ期が終了します。平成19年11月にヒトiPS細胞が樹立され、以降、プロジェクトの内容も大きく変わったと思います。

髙坂:
そのとおりです。第Ⅰ期においては、ES細胞や体性幹細胞を使った研究がメインになっていましたが、このとき公募で採択された課題のひとつが山中伸弥先生のリプログラミングに関する研究でした。
第Ⅱ期も引き続き、ES細胞や体性幹細胞の知識を深めて、出口を見据えた応用研究を目指すことになっていたのですが、第II期が始まる直前に、ヒトiPS細胞が樹立されるという素晴らしい発明がありました。そこで、第Ⅱ期には急遽iPS細胞を核にした研究を、オールジャパンの体制で戦略的に進めることになったのです。
第Ⅱ期においては、公募によって4カ所の研究拠点を採択しました。東京大学の中内啓光先生、京都大学の山中伸弥先生、慶應義塾大学の岡野栄之先生、理化学研究所の笹井芳樹先生の4拠点です。いずれもiPS細胞を扱った研究が中心になっています。また、4拠点を補完する11の個別研究課題も選びました。これは、研究用幹細胞バンク整備領域、幹細胞操作技術開発領域、幹細胞治療開発領域の3領域から構成されています。

聞き手:
実現化の出口としてはどのあたりを目標に置いているのでしょうか。

髙坂:
臨床の一歩手前まで研究を進めることを目標としています。前臨床と言いますが、サルなどの大型動物を使った研究をおこない、第Ⅱ期が終了したらヒトに向かうというあたりを出口と考えています。

聞き手:
このプロジェクトと並行して、「文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク」、「前臨床研究加速プログラム」、さらに「再生医療の実現化ハイウェイ」構想も動きはじめました。それぞれの目的、また再生医療の実現化プロジェクトとの関係はどのようになっていますか。外から見るとややわかりにくいように思います。

髙坂:
そうかもしれませんね。開始時期の順にお話しましょう。

まず「文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク(以下ネットワーク)」というのは、平成20年4月に設置された研究推進体制です。これは、「再生医療の実現化プロジェクト」のほか、すでに走っていた科学技術振興機構(JST)が進める戦略的創造研究推進事業の「CREST」(チーム型研究)、「さきがけ」(若手の個人型研究)、「山中iPS細胞特別プロジェクト」を全て束ねて、全体的な視野のもとにオールジャパンで研究を推進しようというものです。
具体的には、研究成果や知的財産をネットワークに参加する研究者の間で共有することによって、研究を加速化することをめざしています。CRESTは、慶應義塾大学の須田年生先生が研究総括をされて、細胞のリプログラミングのメカニズムを探求するなどの基礎的な研究を進めており、さきがけは、理化学研究所の西川伸一先生が研究総括をつとめておられ、再生医療やiPS細胞に関連した研究を若手中心に進めていました。もともとは別個に立ち上がっていた研究グループを、この際まとめようということで、ネットワークができ上がったわけです。「再生医療の実現化プロジェクト」だけでも総勢500名ぐらいの研究者が参加していますから、このネットワークは、かつてない大規模な研究体制になっています。

次に「前臨床研究加速プログラム」は、平成22年にスタートしました。「再生医療の実現化プロジェクト」のなかから、すぐに前臨床研究を実施できるテーマを選んでチームを組み、前臨床加速プログラムに移行させて、臨床研究への道筋をつけようという趣旨です。再生医療の実現化プロジェクトとは言っても、実はどうしても基盤的な研究が多くなっているので、比較的臨床に近づいているものを選んで進めようというわけです。この前臨床研究加速プロジェクトもネットワークの一環として位置づけられています。

さらに、平成23年度から、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の3省が連携してスタートさせたのが、「再生医療の実現化ハイウェイ(以下ハイウェイ)」構想です。省庁を跨いだ大型プロジェクトです。文科省で育ててきた、どちらかというと基盤的な研究のうち、前臨床の一歩手前の段階まできた課題を、厚生労働省に研究費を引き継いで5~10年間サポートし、さらに長期間支援して臨床応用として国民に届けることを目標にしています。
先日、公募によって10課題が採択されました。課題は実現の時期によって分けられ、1~3年で臨床研究に到達することを目指す、主として体性幹細胞を使用した研究課題をA課題、5~7年で臨床研究に至る、iPS 細胞やES細胞を使った研究課題をB課題としています。研究者の顔ぶれは、「再生医療の実現化プロジェクト」と三分の一程度が重複しています。
経済産業省は、培養技術や素材など、産業に結びつく研究課題を支援します。こちらにはまだ具体的な動きはないのですが、いずれ動き出すと思います。

聞き手:
これだけの大規模な研究グループが動くと、調整もひと仕事と想像します。同じ分野の重複、進捗が不十分な課題など、色々あることでしょう。

髙坂:
そうなんです。研究者は本来独立自尊タイプが多く、自分のデータを大切にし、それを論文にまとめて発表するのが第一義的な仕事です。したがって、全体での情報共有に不慣れなことが多いのです。しかし、これだけの研究資金が投入されているのですから、説明責任も果たさなくてはなりません。このプロジェクトはあくまでも目的設定型の委託研究ですから、通常の科学研究費補助金とは性質が異なります。そこは十分ご理解いただく必要があると思っています。
また、研究ばかりではなく、技術プラットフォームも立ち上げて、拠点や個別の研究機関から技術についての実務者を出していただき、現場で困っていることはどんなことかなどをじっくり話し合っていただいています。
なかなか難しいのは、競争と協調のバランスをとることです。しかし、昨年度あたりから、少しずつ情報共有することが増えてきたのではないでしょうか。例えば、感覚器分科会というのが立ち上がっていますが、ここでは角膜の研究について互いに連携をとって進めるようにしてもらっています。その結果、協力関係が構築されてハイウェイに移行することに成功しました。

聞き手:
全体の情報共有のためにはどのような機会が設けられていますか。

髙坂:
毎年1回の成果発表会が最大の機会です。しかし、それだけではどうしても時間が限られるので、250人ほどが参加する1泊2日の合宿を毎年しっかり行っています。このときには、例えば「腫瘍化の問題について」といったテーマを設定して、問題点を浮き彫りにしながら参加者に討議してもらいます。そして、夜は皆でフリーディスカッションし、熱く語り合います。非公式のコミュニケーションの場は大切です。こういう場から共同研究が生まれることもあるんですよ。


インタビュアー:古郡 悦子
取材日:2012年2月7日

髙坂 新一(こうさか しんいち)氏の略歴

独立行政法 国立精神・神経医療研究センター 理事(兼)神経研究所 所長

1973年慶應義塾大学医学部卒業、1977年慶應義塾大学大学院医学研究科(生理学)修了、慶應義塾大学医学部生理学教室・助手、1979年10月ミシガン大学精神保健研究所・研究員、1982年4月慶應義塾大学医学部生理学教室・専任講師、1985年6月慶應義塾大学医学部生理学教室・助教授、1989年3月国立精神・神経センター神経研究所 代謝研究部 部長、1993年4月東邦大学医学部・客員教授(兼務)、2003年4月国立精神・神経センター神経研究所 所長、2003年10月慶應義塾大学医学部・客員教授(兼務)、2004年10月早稲田大学理工学部・客員教授(兼務)、2005年4月九州大学薬学部・非常勤講師(兼務)、2010年4月(独)国立精神・神経医療研究センター 理事 (兼)神経研究所 所長

専門委員

内閣府 総合科学技術会議専門委員
厚生労働省 厚生科学審議会専門委員
文部科学省 科学技術・学術審議会専門委員
文部科学省 再生医療の実現化プロジェクトプログラムディレクター
日本学術振興会 特別研究員等審査会専門委員
日本学術会議連携会員
他 多数

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