インタビュー『この人に聞く』

患者への使命感を胸にiPS細胞研究を
誕生させたリーダー(4)-全4回-

山中 伸弥 氏

写真:山中 伸弥 氏

iPS細胞技術は病態モデルと創薬研究を発展させる

聞き手:
iPS細胞を用いた創薬研究は有効だと聞いています。

山中:
日本では、iPS細胞はES細胞と同様、再生医療への応用面が強調されすぎました。
再生医療というのはどうしても対象疾患が限られてしまいます。全身におよぶ疾患では、どうしても移植などという手法が選択できません。
しかし、薬ならどうでしょう。経口で飲んだり注射することが出来るので対象となる疾患が広がります。
iPS細胞の長所と言うのは、患者さんから提供いただく事で病態の細胞モデルが可能となることと、創薬研究が加速化することです。
ここではiPS細胞は単なるツールですから、幹細胞を用いたことのない人、臨床研究に携わる方にもぜひ使って欲しいのです。米国ではすでにそうなりつつあります。

病態モデルとしてこれまではノックアウトマウスが使われていました。いまや京都大学医学部では全ての研究室が使っているのではないでしょうか。
しかしマウスは体も小さく、寿命が2年程度しかありません。人間は100歳まで生きるのですよ。遺伝子も人間とは違います。
マウスでは効果のあった薬を人間に使うと効かないことがあります。iPS細胞の有利な点は、病気になる細胞を作れること、つまり、病態モデルが実現できることです。
ただ、iPS細胞にも限界があります。それは、マウスは個体ですがiPS細胞では細胞しか作れないということです。

iPS細胞で試験するのに、50年かかって起こる病気をどうやって再現するのだということが問題視されることもありますが、この点はiPS細胞もノックアウトマウスも同じです。今後の研究には患者さん由来のiPS細胞も病態モデルとして使われていくと思います。

創薬研究は臨床応用研究と違って、いますぐにでも始められます。
技術が固まっていなくても、創薬ベンチャーなどがどんどん試行錯誤して実用化することを期待したいですね。
ただ、日本はベンチャーが立ち上がりにくく、大手の製薬会社も動けない。

聞き手:
大手製薬企業も汎用薬の特許期間が切れてジェネリック医薬品が出てきている時代ですから、だんだんと方針を変えつつあるようですね。

山中:
大手製薬会社は、日本でも研究開発費が数千億円ありますから、そのうちの何%かは基礎研究に使われているものと思います。
iPS細胞は再生医療と考えていた部分もあるでしょうが、今後は創薬のためのツールとして使われていってほしいですね。それが、早期に患者さんに益をもたらすことにつながるでしょう。
私たちも、中畑龍俊先生が中心となって患者さんのiPS細胞を作製しています。ただ、規制の問題があって、大学の試料を企業に渡すところにも壁が存在しています。米国ではこの規制は大変緩やかだということですから、日本との開発競争で差がついてしまうかもしれません。
iPS細胞は全く新しい技術ですから理解されるまでは大変ですが、早く社会的な合意を形成していく必要があります。

聞き手:
ご多忙のところ、非常に重要なお話をありがとうございました。
iPS Trendは今まで、科学技術振興機構(JST)が運営しておりましたが、2010年7月からは文部科学省のiPS細胞等研究ネットワーク(京都大学iPS細胞研究所が運営委員会事務局)に移管することになっています。
これからも研究成果を広く一般に紹介するための活動をぜひともよろしくお願いします。

山中:
承知しました。

写真:展示スペース(左)とCiRAの全景(右)。

CiRAには一般向け展示スペース(写真左)が設けられている。写真右はCiRAの全景。

(完)


インタビュアー:本間 美和子(iPS Trend 監修)、佐藤 勝昭、渡邉 美生(科学技術振興機構)
掲載日:2010年6月29日

山中 伸弥(やまなか しんや)氏の略歴

京都大学iPS細胞研究所 所長、Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, Visiting Scientist、医学博士、医師

1987年神戸大学医学部卒業後、国立大阪病院 臨床研修医、1993年大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了、1993年カリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所ポストドクト ラルフェロー、1996年日本学術振興会 特別研究員、1996年大阪市立大学医学部薬理学教室 助手、1999年奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター 助教授、2003年同センター 教授、2004年京都大学再生医科学研究所再生誘導研究分野 教授、2007年 同大学物質-細胞統合システム拠点 教授、2008年同拠点iPS細胞研究センター センター長を経て2010年より現職。

受賞等

2004年 東京テクノ・フォーラム21 ゴールド・メダル賞
2008年 ロベルト・コッホ賞(ドイツ)
2008年 ショウ賞(香港)
2008年 紫綬褒章
2009年 ガードナー国際賞(カナダ)
2009年 アルバート・ラスカー基礎医学研究賞
2010年 恩賜賞・日本学士院賞
2012年 ノーベル生理学・医学賞
ほか多数

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