インタビュー『この人に聞く』

患者への使命感を胸にiPS細胞研究を
誕生させたリーダー(3)-全4回-

山中 伸弥 氏

写真:疾患特異的iPS細胞 液体窒素に入れ厳重に保管されている。

疾患特異的iPS細胞
液体窒素に入れ厳重に保管されている。

iPS細胞バンクの整備

聞き手:
医療応用するためにも、iPS細胞バンクが必要ですね。

山中:
米国ではアメリカ食品医薬品局(FDA)が認可してES細胞由来のオリゴデンドロサイト細胞による脊髄損傷治療への臨床試験が始まろうとしています。
脊髄損傷の治療の場合、怪我をした後1週間から10日の内に細胞を移植する必要があるとされています。iPS細胞の場合は、自分の細胞を取り出してiPS 細胞を樹立するのに1~2ヶ月、分化させるのに1~2ヶ月かかってしまいますから、怪我をしてから患者さんの細胞を採取したのでは、間に合わない。だから予め健常者からiPS細胞を作って分化させたものをバンクに保存すればよいのです。

移植するときに、他人のものだったら拒絶反応が起こるのではと考えられます。
しかし、HLA型(Human Leukocyte Antigen)を合わせれば避けることができます。HLAの全ての型に対応するのは大変ですが、幸いなことに血液型で言えばO型に相当するHLA型があるのです。
日本人に多いHLA型をホモで持つ人を集めてiPS細胞を50種類作成しておけば、日本人の9割をカバーできます。そう考えればこれから作るバンクの大きさも非常にリーズナブルなものが想定できます。

また、バンクのいいところは、予め細胞の安全性を徹底的に検証できるところです。
患者さん個別に細胞採取し、培養して移植という手順を踏めば、時間もかかるし治療費も高額になりますし安全の検証を行う時間がとれません。
患者さん自身のiPS細胞を利用するための研究開発をすすめると同時に、iPS細胞バンクを整え、利用できるように準備していくことが大切だと思います。

患者の利益を優先したガイドライン作りを

写真:山中 伸弥 氏

聞き手:
最近、厚生労働省が改定中のガイドライン「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」では、他家移植(他人の細胞を移植すること)は認めない方針のようですが。

山中:
2010年6月4日まで厚生労働省はこのガイドラインに関するパブリックコメント(意見募集)を受け付けています。
私は、このままのガイドラインには強く反対する立場を表明し、他家移植の有用性についてコメントしました。他家移植を推奨するというわけではなく、自家移植(自分自身の細胞を移植すること)と他家移植の双方をしっかり比較して整備しなければ結局患者さんに不利益を与えることになってしまうということなのです。

ES細胞は受精卵を破壊して作らなければなりませんので他人の細胞です。だからES細胞の移植といえば他家移植であり倫理的問題が生じます。
iPS細胞を自家移植に制限するならばES細胞が持ち合わせる倫理問題が及ばないため、研究が進むのではないかという期待があったのだろうかと推測しています。iPS細胞とES細胞が「自家」と「他家」であるようにiPSの自家と他家も切り離そうとしたのですね。
iPS細胞の他家移植は、ES細胞で生ずる倫理問題と全く違うのです。
切り離し方が間違っています。この点は声を大にして訴えたいと思います。


インタビュアー:本間 美和子(iPS Trend 監修)、佐藤 勝昭、渡邉 美生(科学技術振興機構)
掲載日:2010年6月22日

山中 伸弥(やまなか しんや)氏の略歴

京都大学iPS細胞研究所 所長、Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, Visiting Scientist、医学博士、医師

1987年神戸大学医学部卒業後、国立大阪病院 臨床研修医、1993年大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了、1993年カリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所ポストドクト ラルフェロー、1996年日本学術振興会 特別研究員、1996年大阪市立大学医学部薬理学教室 助手、1999年奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター 助教授、2003年同センター 教授、2004年京都大学再生医科学研究所再生誘導研究分野 教授、2007年 同大学物質-細胞統合システム拠点 教授、2008年同拠点iPS細胞研究センター センター長を経て2010年より現職。

受賞等

2004年 東京テクノ・フォーラム21 ゴールド・メダル賞
2008年 ロベルト・コッホ賞(ドイツ)
2008年 ショウ賞(香港)
2008年 紫綬褒章
2009年 ガードナー国際賞(カナダ)
2009年 アルバート・ラスカー基礎医学研究賞
2010年 恩賜賞・日本学士院賞
2012年 ノーベル生理学・医学賞
ほか多数

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