インタビュー『この人に聞く』

患者への使命感を胸にiPS細胞研究を
誕生させたリーダー(2)-全4回-

山中 伸弥 氏

写真:山中 伸弥 氏

iPS細胞の標準化

聞き手:
今後10年~15年でのiPS細胞に関する基礎研究の動向について、お考えを聞かせてください。

山中:
基礎研究は、5年程度で成熟するでしょう。標準化もできると考えています。
私たちは最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の研究基金を5年間で50億円得ており、取り組んでいます。あと4年間で完璧に標準化しなければなりませんが、今は標準化の手前に来ていると思います。
米国のKonrad Hochedlingerという研究者が、細胞が初期化するときに変化するDNAメチル化に関与する主要遺伝子を指標として、細胞の初期化の状態を判定したところ、彼らのマウス由来iPS細胞では50個のうち1、2個しか良いものが作成出来なかったという報告をしています。
私たちもちょうど同じ時期に取り組んでいたのですが、我々の作製法では、50%以上のiPS細胞がES細胞と同等という判定が出ています。
このように現段階では、iPS細胞の作製方法、培養条件などでずいぶん品質に差が出てしまうものなのです。
つまり「どこの研究室で誰が作っても同じものができる」ということにはなっていません。

聞き手:
やはり、山中先生が先導して世界中で使われるiPS細胞の標準を作っていくしかないですね。

山中:
そうしたいものだと思っています。
しかし、標準化といっても、iPS細胞が一種類になるというのではなく、特定の用途に合ったiPS細胞があってよいのです。
例えばPCR (Polymerase Chain Reaction)というDNAを増殖させるという技術は、生命科学分野で必須のものとなっています。でもその使い方は様々です。利用する酵素、試薬、温度、加熱冷却回数などの条件設定が今では用途に応じて使い分けられています。
iPS細胞も、再生医療用、病態モデル用など目的に応じた特性を持つものが選択できるようになっていくはずです。そうした技術的な問題を克服したその先に、再生医療への臨床応用が可能となります。
安全性を確認し、治療への効果が検証できるのはそこからさらに5年~10年必要となるでしょう。

iPS細胞のがん化は技術的な問題にすぎない

聞き手:
再生医療への臨床応用を考えたとき、やはりがん化の問題は避けて通れないのでしょうか。

写真:山中 伸弥 氏

山中:
iPS細胞もES細胞も同じで、未分化細胞が混じっているとテラトーマができます。それがES細胞やiPS細胞の特徴なのです。ですから、未分化細胞を除去して利用すればよいのです。
また、分化の手法も厳密に確立されつつありますがES細胞では100%分化していなくても、「純化」という手法で未分化細胞を取り除き分化した細胞だけを分離できるようになってきました。
ただiPS細胞では別の腫瘍ができやすいという安全性の問題もあります。
しかしそれは、技術的な問題にすぎないと考えていて、数年でES細胞と同じ程度にまでは解決できるだろうと思っています。

聞き手:
血液の場合、数が多いので完全に未分化細胞を取り除くのは難しいのではないですか。

山中:
すでに分化した血小板、赤血球などは核がありませんし、それほど難しくありません。
一方、骨髄移植の代わりに造血幹細胞を移植する場合は、幹細胞はいくらでも増えるので少しでも不具合のある細胞が混じっていてはいけないという、難しいところがあるのです。
しかし、毎年、骨髄移植を必要とする患者さんが2000人もいるのに、骨髄移植は年に1000例しかない。iPS細胞で造血幹細胞ができれば、毎年、骨髄移植ができない1000人を救えることになるのです。
ただし移植後の安全性のためには未分化細胞を完全に除去しないと別の白血病になってしまうので、完全に分化した細胞だけを移植するなど患者さんのために安全性を担保する技術を確立していく必要があります。


インタビュアー:本間 美和子(iPS Trend 監修)、佐藤 勝昭、渡邉 美生(科学技術振興機構)
掲載日:2010年6月11日

山中 伸弥(やまなか しんや)氏の略歴

京都大学iPS細胞研究所 所長、Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, Visiting Scientist、医学博士、医師

1987年神戸大学医学部卒業後、国立大阪病院 臨床研修医、1993年大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了、1993年カリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所ポストドクト ラルフェロー、1996年日本学術振興会 特別研究員、1996年大阪市立大学医学部薬理学教室 助手、1999年奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター 助教授、2003年同センター 教授、2004年京都大学再生医科学研究所再生誘導研究分野 教授、2007年 同大学物質-細胞統合システム拠点 教授、2008年同拠点iPS細胞研究センター センター長を経て2010年より現職。

受賞等

2004年 東京テクノ・フォーラム21 ゴールド・メダル賞
2008年 ロベルト・コッホ賞(ドイツ)
2008年 ショウ賞(香港)
2008年 紫綬褒章
2009年 ガードナー国際賞(カナダ)
2009年 アルバート・ラスカー基礎医学研究賞
2010年 恩賜賞・日本学士院賞
2012年 ノーベル生理学・医学賞
ほか多数

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