インタビュー『この人に聞く』

患者への使命感を胸にiPS細胞研究を
誕生させたリーダー(1)-全4回-

山中 伸弥 氏

写真:山中 伸弥 氏

山中 伸弥 氏

今回は、iPS細胞の生みの親、山中伸弥教授を訪ねました。
山中先生が所長を務める京都大学iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)はこの5月に開所式を行い、iPS細胞に特化した基礎研究から前臨床、臨床応用研究の実施を目指す新たな拠点としてのスタートを切りました。また山中先生ご自身も日米の研究所に籍を置き、先駆的な研究に携わっています。世界的視野からの研究開発の現状と実用化に向けたあるべき姿、将来への課題と期待について伺いました。

米国ではiPS細胞が新技術として積極的に利用されている

聞き手:
日本のiPS細胞研究の現状について、先生は以前「日本のiPS細胞研究は1勝10敗だ」と言われましたが、世界の状況と比較して日本はいかがでしょうか。先生は、米国のサンフランシスコにあるグラッドストーン研究所にも籍を置いて研究を続けておられますが、日米の違いをどう感じておられますか。

山中 伸弥 氏(絵:佐藤 勝昭)

山中 伸弥 氏
(絵:佐藤 勝昭)

山中:
iPS細胞研究だけのことではないのですが、日米研究者の文化が違うことを感じます。日本人は「伝統を重んじる直線型」で、「はやりに乗るのは恥しい」という気持ちがありますが、米国では、新たなツールに飛びつきそれをどんどん自分の領域に利用して飛躍しようという「回転型」と思える人間が多いですね。その善し悪しは一概に言えませんが、新しい技術がパッと伸びたときに、日本人の「直線型」の思考だけではついて行けない感があります。

たとえば、ノックアウトマウスにしてもマイクロアレイにしても、米国ではあっという間に普及しました。
私は1992年にノックアウトマウスを用いた研究がやりたくて米国に留学したのですが、そのころ日本ではノックアウトマウスを使うことはほとんど行われていませんでした。1996年留学から帰る頃には、今度はマイクロアレイ(半導体の微細加工技術を用いて1枚のプレートに数千から数万種類の遺伝子配列を結合させた解析ツール)が広がりつつある頃でした。このように米国の人たちは次々に新しいものを取り入れていくのですが、日本ではすべて2、3年後という状態です。

iPS細胞技術にしても、日本人は傍観していましたね。以前メディアに「1勝10敗」という表現をつかいましたが、それは「米国ではこの技術に飛びついた人が多かった」という意味で言いました。
これには、前大統領の反対にもかかわらず民間財団の支援によりヒトES細胞の研究を続けていた研究者と技術者がいましたから、iPS細胞にもすぐに対応できたことが背景にあります。
ここ2年間、月に一度サンフランシスコに行くのですが、そのたびに進歩を目の当たりにします。米国では、幹細胞を扱ったことのない人でもiPS細胞をツールとして使って、新しいことをしようとしています。だから、日本もこれからが勝負です。今ならまだ挽回がきくと思っています。

若手の発想を大切にしたい

イラスト:5月に開所式を行ったCiRA。イラストは聞き手 佐藤勝昭による。

5月に開所式を行ったCiRA。イラストは聞き手 佐藤勝昭による。

聞き手:
山中先生は大変柔軟な発想でiPS細胞技術を開発したのですが、この新しい研究所ではさらなる柔軟で斬新な発想を求めているそうですね。日本の若手はいかがでしょう。

山中:
日本ではiPS細胞に飛びついてツールとして使ってやろうという発想がなかなか生まれてこない。
若い人にも期待しているのですが、折角のツールを使わない人が多いですね。iPS細胞研究を新しいツールと考えれば、意外なアイデアを聞かせてもらうことができるのではと期待しているのですが、思考が固まってしまっているように思いますね。
この研究所の19のグループのリーダーは、そのうち半分が30代、35歳未満の人も多くいます。新しい発想というのは若い人たちから生まれるものだと思うからです。

自分が30代の頃、米国のある高名な先生が「科学の偉大な発明の影には、ボスの言ったことに反発した若手研究員がむりやりやってしまうところから出てくる」と言っていました。
私も指導する立場になったので、自分の固まった思考で「そんなアホな」などと若手の自由な発想を阻害、萎縮させるようなことがないように気を付けています。
ただ若手研究者にも、任期が5年、研究助成も3年などといったプレッシャーがあって、「この短期間に成果を出さないと」という現状では自由な発想よりも、確実に成果が出るだろうと考えられる安全度の高い課題に思考に流れがちです。この点も問題ですね。

研究環境

CiRAは研究者間での情報交換しやすいように、研究環境がオープンスペースになっている(写真左)ほか、廊下にはディスカッションができるスペース(写真右)も備えられている。


インタビュアー:本間 美和子(iPS Trend 監修)、佐藤 勝昭、渡邉 美生(科学技術振興機構)
掲載日:2010年6月5日

山中 伸弥(やまなか しんや)氏の略歴

京都大学iPS細胞研究所 所長、Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, Visiting Scientist、医学博士、医師

1987年神戸大学医学部卒業後、国立大阪病院 臨床研修医、1993年大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了、1993年カリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所ポストドクト ラルフェロー、1996年日本学術振興会 特別研究員、1996年大阪市立大学医学部薬理学教室 助手、1999年奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター 助教授、2003年同センター 教授、2004年京都大学再生医科学研究所再生誘導研究分野 教授、2007年 同大学物質-細胞統合システム拠点 教授、2008年同拠点iPS細胞研究センター センター長を経て2010年より現職。

受賞等

2004年 東京テクノ・フォーラム21 ゴールド・メダル賞
2008年 ロベルト・コッホ賞(ドイツ)
2008年 ショウ賞(香港)
2008年 紫綬褒章
2009年 ガードナー国際賞(カナダ)
2009年 アルバート・ラスカー基礎医学研究賞
2010年 恩賜賞・日本学士院賞
2012年 ノーベル生理学・医学賞
ほか多数

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