インタビュー『この人に聞く』

iPS細胞研究や発生学を通して
生命の物質と時間の奥深さを感じる(2)-全3回-

西川 伸一 氏

トップダウンにもボトムアップの要素がうまく組み合わさっている

聞き手:
今のiPS細胞研究については配分される研究資金が多いため、多くの研究者に研究費がわたっていて、研究者としてはうらやましいくらいです。
研究支援(研究資金配分、ファンディング)についてのご意見をお聞かせください。
従来からファンディング方法の一つに、国の定める研究開発目標に沿って、研究代表者となりえる大きな成果のある研究者を選んで資金を配分するというものがありました。
このようなトップダウンのファンディングのよい点はありますでしょうか。
例えば癌研究は、国をあげて取り組んだお陰で、基礎生物学の底上げに貢献したのではないでしょうか。

写真:西川 伸一 氏

西川:
癌特別研究だけで30年も続きました。そのお陰で、この分野の研究史の記録ができています。ポリシーから何から何までつないできました。それまでの日本の研究ではなかったことです。
癌研究はこの30年の間に大きく変わってきています。その間、日本が癌に対してどうアプローチしたか、Archiveとしてきちんと残っています。
癌特別研究は、全体の底上げに役立ったことは確かです。日本の(研究)人口では、あるテーマに関して集中して取り組むということはなかなか難しいからです。

一方では個別の研究者の提案に研究資金を配分し、研究者主体でボトムアップの研究を推進する方法では、結果的に人を育てたという側面もあります。

聞き手:
JSTの戦略的創造研究推進事業では、トップダウンで方向性が与えられているのではないでしょうか。

西川:
国として何をして欲しいかというフレームワークがありません。iPS細胞研究の何と何をして欲しいかという具体的な方向性が出ていないのです。何となく方向性が出されているに過ぎません。
研究者が自由に考える余地がある。そのあたりが「完全なるトップダウン」とはなっていないのです。

聞き手:
一般的にJSTの戦略的創造研究推進事業で配分される研究資金はトップダウンでの研究推進、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金はボトムアップと言われますが、先生がリーダーを務めるJST「さきがけ」の実際のところはいかがでしょうか。

写真:西川 伸一 氏

西川:
癌研究もそうで、トップダウンと言いながら自由裁量を残してきました。例えばスクリーニングとシーケンスはトップダウンで指示があり、その他の部分は研究者自身のボトムアップの発想で進められたので、地下水脈ができたと思います。
この点が日本の強さです。
韓国でも中国でも、研究の基礎的部分ができあがってきてから参入しているのでトップダウン要素が強く、先端研究ばかりやろうとしています。これではいずれ限界が来るのではないでしょうか。

聞き手:
「S-イノベ」はトップダウンですよね。それに対して、「さきがけ」にはボトムアップの要素もあるということでしょうか。

西川:
そうです。「S-イノベ」は出口となる目標がはっきりしたトップダウン型ですから、研究者から方針転換の提案があっても、それでは決して出口に到達しない提案の場合は目標通りやって下さいと説得します。
一方、「さきがけ」では、トップダウンで示した「iPS細胞というハード」をどう感じ、どう活かしていくか。もっと意外性を楽しみたいというところがあります。ボトムアップの要素は人を育てるという意味で絶対に必要な部分だと思います。

新しい考え方で新たな研究所をつくってきた

聞き手:
先生は、京都大学で再生医科学研究所設立にも関わっておられたと伺っています。

西川:
そうです。京大の研究所設立に携わり、名前をつけるときに「再生医療」という言葉を思いつきました。実は当時、「再生」という言葉を使うことには私自身も少々抵抗がありました。元京都大学総長の井村裕夫先生などは、もう少しあたりさわりのない名称を考えておられたようですが。
再生医科学研究所では、医学と工学が協働するという構想を実現させました。
京大に行って3年目、1996年でした。

聞き手:
医工連携は先生がプロジェクトオフィサーを務める「S-イノベ」でも実践しているところで今では当たり前になっていますが、当時草分けのお仕事だったのですね。
医学と工学では文化が違うから苦労されたでしょうね。連携はうまくいったのですか。

西川:
難しいところも多くありますね。大学内での学部自治がネックになっていると感じることがあります。
国立大学が法人化しても医は医、工は工で別々に文部科学省と折衝するなど学部それぞれが独自の方法をとっているという現状があります。大学としてのリーダーシップがもっと発揮できればと考えています。

写真:理化学研究所神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター(CDB)

理化学研究所神戸研究所
発生・再生科学総合研究センター(CDB)

聞き手:
先生は、理化学研究所神戸研究所の発生・再生科学総合研究センター(CDB)立ち上げにも携わられたのですが、このCDBはフラットで非常にユニークな組織になっていますね。

西川:
当初、国や理化学研究所では再生医療に特化した研究所の設立を目指していました。
それだけなら京都大学にも再生医科学研究所がある。
もっと自由なチャレンジができないと新たに作る意味がない。
ということで「発生学を自由にできる、大学でない組織を」と総合科学技術会議の相澤益男氏とも相談しました。
その結果、(1)発生学をやる、(2)ヒエラルキーなし、(3)任期制、(4)英語、というユニークな条件を付けることができました。
こうしてCDBが政府のミレニアムプロジェクトの一環として設立されたのです。

強調して欲しいのは、CDBは他の理研の研究所と違って、一切兼任を認めないということです。研究者は全員、退職金をもらって移ってきて欲しいといっています。
そうでないと、若い人に新しいポジションが回りませんし、CDBの仕事にも集中できません。
事業仕分けでは、いくつも兼務してポジションを得るような状況を早く仕分けて、一つのポジションに集中させることと、多くの研究者にチャンスがめぐってくるような環境整備をして欲しいと思っています。


インタビュアー:本間 美和子(iPS Trend 監修)、佐藤 勝昭、渡邉 美生(科学技術振興機構)
掲載日:2010年5月6日

西川 伸一 (にしかわ しんいち)氏の略歴

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 副センター長、幹細胞研究グループ・グループディレクター、財団法人先端医療振興財団 副理事長、再生医療研究開発部長、医学博士、医師

1973年 京都大学医学部卒業後、京都大学結核胸部疾患研究所 研修医、医員、助手、1980年 ドイツ連邦共和国ケルン大学遺伝学研究所(フンボルト財団奨学生)留学、1983年 京都大学結核胸部疾患研究所付属感染免疫動物実験施設 助教授、1987年 熊本大学医学部免疫医学研究施設病理学部門(後の形態発生学部門)教授、1993年 京都大学大学院医学研究科分子医学系遺伝医学講座分子遺伝学 教授を経て2000年より現職。

平成20年度~ 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ「iPS細胞と生命機能」研究総括、平成21年~ 科学技術振興機構産学イノベーション加速事業戦略的イノベーション創出推進 S-イノベ 「iPSを核とする細胞を用いた医療産業の構築」プログラムオフィサー
専門は発生生物学、血液学、免疫学

受賞等

1997年 財団法人 日本リデイアオリリー協会 清寺 真 記念賞
1999年 フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞(ドイツ政府)
2002年 財団法人 持田記念医学薬学振興財団 持田記念学術賞

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