インタビュー『この人に聞く』

CREST 研究総括が見るiPS細胞研究とその先(3)-全4回-

須田 年生 氏

幹細胞研究の地下水脈は日本の方がリッチ

聞き手:
失礼な質問なのですが、日本にはES細胞などの幹細胞研究の地下水脈があまりなくて、山中先生だけが突出しているような気がするのですが・・・。

須田:
それは誤解です。60年代から80年代に造血細胞などの研究者がいました。2000年頃にはiPS細胞も含め幹細胞が出てきて、さらに生殖幹細胞でもとてもよい研究がある。地下水脈は海外よりむしろ日本の方がリッチなのです。
ES細胞の研究は少ないかもしれないが、必ずしも世界が日本の先を走っているわけではありません。
米国でES細胞研究は多いのですが、経験に則った研究が多く、日本の方が発生学をもとにした緻密な研究が行われていると思いますよ。
例えば、先週、米国のキーストーンで開かれた「低酸素」をテーマとしたミーティングに招待されていったのですが、向こうの研究者が日本の発生学や幹細胞研究は強いとうらやましがっていました。

聞き手:
日本人の研究は向こうであまり評価されないのではないですか。

写真:須田 年生 氏

須田:
そんなことはありません。低酸素のキーストーンミーティングにおいて生化学的アプローチでリードした研究者の仕事は、向こうにいる日本人ポスドクが担ったものでした。
そういう研究者が日本に帰ってきてもサポートされない。そういう優秀な日本人若手を山脈にしていくには、ファンディング機関がきちんとサポートしていくことが重要です。

聞き手:
米国は外国人を上手に活用していますよね。

須田:
その通りです。米国はそういう人をうまく活用して、組織化して研究を進めています。日本人の優秀なポスドクを探していますよ。
日本でも、外国人を呼べるようにWPIプログラム(世界トップレベル研究拠点プログラム)ができたのですが、言葉と文化の壁があって、むずかしいところがありますね。

応用には基盤力の強い企業の参画が欠かせない

聞き手:
アルツハイマーやパーキンソン病のなどの疾患メカニズム解明にiPS細胞が利用できるという話について、詳しく教えていただけないのでしょうか。

須田:
病気の研究のために、血液ならいくらでも用意できます。これに対して、ヒトの神経細胞は簡単には入手できませんから、iPS細胞から分化誘導して神経細胞が採れればいいと思います。
神経だけでなく、脳、肝臓や心臓の細胞を入手することは困難でしたから、iPS細胞から作製できればいいと思います。

聞き手:
そういう疾患モデルとなる細胞があれば、創薬につながりますね。

須田:
応用には、企業特に化学・製薬などの協力が必要ですが、日本の企業はついて来ていないですね。日本のビッグファーマは再生医療にほとんど参入していないのです。
米国ではベンチャー企業が出てくるのですが、日本ではベンチャー企業が立ち上がっても、商品展開に乏しく消えていってしまいます。米国の成功例では、それぞれにひとつは強い基盤を持っていて、それとiPS細胞研究が結びついています。
山中先生も、「研究者の中でも"iPS"と名が付くと研究費がサポートされるからというのではダメ。何か強いものを持っていてそれと結びついていかなければならない。」とおっしゃっていました。
情報に強い企業が、iPS細胞のバイオインフォマティクスに取り組むなどのビジネスが今後出てくることを期待しています。


インタビュアー:佐藤 勝昭、渡邉 美生(科学技術振興機構)
掲載日:2010年3月26日

須田 年生 (すだ としお)氏の略歴

慶應義塾大学医学部 坂口光洋記念講座 発生・分化生物学講座 教授、熊本大学発生医学研究センター・客員教授、医学博士、医師、血液学会認定医および指導医

1974年 横浜市立大学医学部卒業、1974年 神奈川県立こども医療センター・小児科・レジデント、1978年 自治医科大学血液医学研究施設造血発生部門 助手、1982年 サウスカロライナ医科大学内科 リサーチアソシエイト、1984年 自治医科大学血液医学研究部施設造血発生部門 講師、1991年同血液学 助教授、1992年 熊本大学医学部遺伝発生医学研究施設 分化制御部門 教授、2000年- 熊本大学発生医学研究センター・センター長、2000年 同、器官形成部門造血発生分野 教授を経て、2002年より現職

平成12年度~16年度 日本学術振興会未来開拓学術研究「体性幹細胞の単離・操作と組織再構築に関する研究」プロジェクトリーダー、平成20年度~ 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」研究総括、日本血液学会 評議員

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る