インタビュー『この人に聞く』

CREST 研究総括が見るiPS細胞研究とその先(2)-全4回-

須田 年生 氏

CRESTでは「応用を見据えた基礎研究」に徹する
エピジェネティクスや生殖細胞の機構解明はポスト山中の芽

聞き手:
ところで、先生が領域総括をなさっている科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業 CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」は、どのようなお考えで課題を採択されたのでしょうか。

写真:須田 年生 氏

須田:
iPS細胞の臨床応用を目指した研究は、文部科学省のリーディングプロジェクト「再生医療の実現化プロジェクト」で髙坂新一先生らが取り組んでおられるので、私のCRESTは、臨床応用するための基礎研究、細胞リプログラミングのメカニズム解明やリプログラミングの技術開発にウエイトを置いています。もちろん、疾患モデルを扱うような臨床応用に比較的近い研究も含まれていますが。
基礎研究として、エピジェネティクスや生殖細胞の研究などにも注目しています。

聞き手:
「エピジェネティクス」、私は、最近までこの言葉を知らなかったのですが・・・。

須田:
エピジェネティクスが注目されはじめたのは、ここ数年のことです。歴史が浅く、研究は緒についたばかりです。
これまでにも、クローン動物や一卵性双生児では、ゲノムの遺伝子配列が同じでも遺伝的素質の発現が違うことが知られていました。
しかし、最近になって遺伝子配列以外の要素、たとえば、クロマチン構造、microRNA(小分子のRNA)、DNAのメチル化・アセチル化やヒストンの化学修飾が作用することによる後天的な遺伝子発現の変異(=エピジェネティックな変異)に注目されるようになったのです。

例えば、成人型ヘモグロビンを作ることができない「地中海性貧血」という病気があります。
大人になると、胎児型ヘモグロビンはDNAのメチル化による転写抑制が起きることによって通常は作られない。しかし、地中海性貧血の場合は成人型ヘモグロビンが作れないので、薬で脱メチル化して胎児型ヘモグロビンを作らせて間に合わせてはどうかという研究もありました。
しかし、「この遺伝子のここだけをメチル化する」というターゲットを絞った操作はまだできておらず、ここが本当に難しい。

聞き手:
先生の領域では生殖細胞にも注目しておられますね。

須田:
私の領域には、生殖細胞の研究者もおります。
私は、iPS細胞の次に注目されるのはエピジェネティクスだと思っています。
特に、エピジェネティクスの機構を操作するというより、それをうまくコントロールしている生殖細胞の性質をはっきりと解明しようとしています。

生殖細胞になるということは発生の早い段階で決定づけられ、始原生殖細胞という段階で脱メチル化が起きて全てのエピジェネティックな変異が白紙の状態になります。そして精子・卵子になるときに再びメチル化しなおしていくというステップがあるのです。

写真:須田 年生 氏

聞き手:
面倒なプロセスをたどるのですね。なぜですか。

須田:
よく分かっていないのですが、父方、母方の遺伝子を明確に区別しておくためではないかといわれています。細胞記憶ですね。

聞き手:
受精卵になるとまた、初期化が起きるのですね。

須田:
カエルでも羊のドリーでもクローンをつくるとき、核移植が行われるのですが、卵細胞に新しい核が入ったとたん、核の遺伝子をすべて初期化してしまいます。
iPS細胞というのは、転写因子を入れることでリプログラミングするという手法ですが、この核移植のときに起こる初期化のメカニズムがわかれば、転写因子なしで初期化が可能になると期待しています。

聞き手:
興味深い研究ですね。きっとたくさんの人が取り組んでいるでしょうね。

須田:
それが、みんなiPSの再生医療応用に気をとられてか、意外とやっている人が少ないのです。
日本は、この分野をリードしています。「次の山中」につながる研究だと期待しています。


インタビュアー:佐藤 勝昭、渡邉 美生(科学技術振興機構)
掲載日:2010年3月16日

須田 年生 (すだ としお)氏の略歴

慶應義塾大学医学部 坂口光洋記念講座 発生・分化生物学講座 教授、熊本大学発生医学研究センター・客員教授、医学博士、医師、血液学会認定医および指導医

1974年 横浜市立大学医学部卒業、1974年 神奈川県立こども医療センター・小児科・レジデント、1978年 自治医科大学血液医学研究施設造血発生部門 助手、1982年 サウスカロライナ医科大学内科 リサーチアソシエイト、1984年 自治医科大学血液医学研究部施設造血発生部門 講師、1991年同血液学 助教授、1992年 熊本大学医学部遺伝発生医学研究施設 分化制御部門 教授、2000年- 熊本大学発生医学研究センター・センター長、2000年 同、器官形成部門造血発生分野 教授を経て、2002年より現職

平成12年度~16年度 日本学術振興会未来開拓学術研究「体性幹細胞の単離・操作と組織再構築に関する研究」プロジェクトリーダー、平成20年度~ 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」研究総括、日本血液学会 評議員

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