インタビュー『この人に聞く』

広い視野での研究推進が次の芽を育む(1)-全3回-

浅島 誠 氏

写真:浅島 誠 氏

浅島 誠 氏

発生生物学の権威で、細胞の分化を誘導するタンパク質アクチビンを発見したことで世界的に有名な浅島誠先生にiPS細胞研究を含む発生分化領域の研究のあり方についてお話を伺いました。

聞き手:
2009年7月から科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)の上席フェローに着任され、11月にはiPS細胞を含む幹細胞研究に関する海外調査に行かれたとうかがいました。
本日は、海外の研究開発の印象をお聞かせいただくとともに、5年、10年後に何を目指すか、そのために今何をなすべきか、欠けていること、政策的に必要な支援などをお聞かせいただきたいと思います。

浅島:
私は、iPS細胞の研究成果はすばらしいと思っています。
まず最初にマウスでiPS細胞の作製に成功し、それからヒトでもiPS細胞が作製できたことで、今後の臨床応用への発展が期待されています。

海外でも、米国中心にiPS細胞研究は盛んです。
作製方法にしても、山中先生の4つの遺伝子で作成する方法の他、ケミカルライブラリーを利用して4つの山中因子に代替し得る低分子化合物でiPS細胞を作製することも試みられています。
またiPS細胞を使って、何ができるか。基礎研究でもいろいろな方向へと発展しています。

私の見るところ、iPS細胞研究は創薬への応用分野でぐっと進むでしょう。
疾患モデルを患者由来のiPS細胞で構築し、それを正常に持っていくことによって、創薬分野の研究開発は大いに加速されると思います。

今後の研究の発展を支える"標準化"

「浅島 誠 氏」の絵

浅島 誠 氏
(絵:佐藤 勝昭)

浅島:
ただ、今後のことを考えたとき、iPS細胞は作製方法や性質にバラエティがあるものだということを知っておく必要があります。
iPS細胞については、作製法、培養条件、多能性を維持する方法など、まだそれぞれの手法が確定していません。
iPS細胞を定義する客観的な指標を定める、その辺をきちんとしておくことが今後の発展に重要なのです。その点、海外ではES細胞や体性幹細胞について先行していた実績があります。

具体的にどういうことかというと、細胞核に4つの遺伝子を入れるとき染色体のランダムにいろいろなところに入り込んだり、本来のゲノム機能を変化させたりします。
また、遺伝子のエピジェネティックな修飾も関与します。提供者の病歴・年齢・性別・採取した臓器、どういう風に採取してどういう風に培養したか、血清の有無、足場となる細胞を使うか使わないか、それぞれの条件によってどう性質が違うのかを検証する必要があります。
さらに同じ条件で作製しても、コロニー(細胞等塊)ごとに性質が違う場合もあります。増えたコロニーからさらに細胞を取り出して子、孫と継代して増やしていくとき、親となる細胞を取り出す場所がそのコロニーの中心か周りかで後の細胞の性質が異なることがあります。
培養を重ねると多能性が失われてしまうこともあり、いろいろなiPS様の細胞が得られる幅広さがあります。

どの遺伝子がどれぐらい発現すればiPS細胞と呼べるか、どういう状態をiPS細胞と定義するか、プラスアルファの遺伝子が発現していることでどのような臓器になりやすいかとか、iPS細胞を定義する客観的な指標を定める、その辺をきちんとしておくことが今後、この研究を発展させるために重要なのです。
再現性の観点からクォリティコントロールをきちんとして、標準化を進めていくことが、iPS細胞の研究を発展させることになるでしょう。

標準化に向けて

写真:浅島 誠 氏

浅島:
標準化は確かにむずかしい。
海外では、ES細胞について先行していた実績がありますので、そのあたりの戦略がうまい。
ハーバード大では、創出したiPS細胞やES細胞を無償で海外に配布し、より多くの人に使ってもらうことで、標準化を試みています。みんなが使ってデータを出すことで、情報が蓄積されていきます。多くのデータをバイオインフォマティクスの助けを借りてみんなで共有することが大切です。
グローバルな研究の発展を考えると多くの人が使われたものが一般には標準化の細胞になりやすいものです。日本でもこのようにして、日本発のスタンダードが世界に広がればよいのですが。
標準化がむずかしいと言いましたが、日本がきちんと国際的イニシアチブをとって進めれば充分に可能性はあります。

聞き手:
日本では標準化はできないのですか。

浅島:
日本では、知財の問題への対処として知財確保が中心におかれ、他の人が入り込みにくい状況でした。国も含めて、この点は緩和されつつありますが、どう広げていくか。
それから、ヒトES細胞の倫理基準も非常に厳しいものでした。時代の流れでしょうがないところもありました。先見性をもって科学を進めて行くためには「どうしたら使えるか」というメッセージを出すべきでしょう。
研究者としては、すべて設備や使用方法が厳し過ぎると中々、そこまでの費用がかかって手が出せない。国民には、現在どういう状態にあるかきちんと説明して、インフォームドコンセントをとり、透明性を高めて行う条件づくりが必要です。

ES細胞も体性幹細胞も重要

浅島:
それから、iPS細胞研究を発展させるには、ES細胞や体性幹細胞の研究も重要です。
外国では、ES細胞をはじめ、脂肪幹細胞、骨髄幹細胞といった体性幹細胞との比較において、iPS細胞の特性を理解しようとするバランスのとれた研究が行われています。
日本はもともと間葉系幹細胞の研究が進んでいたのですが、その方向が変わってきている。


インタビュアー:本間美和子(iPS Trend 監修)、佐藤 勝昭、小長谷 幸(科学技術振興機構)
掲載日:2010年1月25日

浅島 誠(あさしま まこと)氏 の略歴

東京大学名誉教授、前・副学長、理事、東京大学特任教授、独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター 上席フェロー、産業技術総合研究所 器官発生工学研究ラボ長

1972年 東京大学理学系大学院博士課程 修了(理学博士)、ドイツ・ベルリン自由大学分子生物学研究所 研究員、横浜市立大学文理学部 助教授、教授を経て1993年 東京大学教養学部 教授、1996年 東京大学大学院総合文化研究科 教授、2003年 東京大学大学院総合文化研究科長・教養学部長、2005年 日本学術会議 副会長、2007年東京大学理事・副学長(2008年3月まで)。
この間、日本発生生物学会(会長)、日本動物学会(会長)、日本分子生物学会、日本宇宙生物学会(会長)、日本細胞生物学会(運営委員、評議委員)、国際 発生生物学会(運営委員)、日本組織工学会(理事)、日本再生医療学会(理事)、日本炎症・再生医学会(理事)、アメリカ・ニューヨーク科学アカデミー会 員、Develop.Growth Differ.編集委員、Zool Sci.編集委員、Cell Structure and Function 編集委員、Int.J.Dev.Biol.編集副主幹を務めている。

専門は発生生物学、卵から幼生への器官形成、細胞の増殖と分化についての研究を行っている。1988年には中胚葉誘導因子アクチビンを世界で初めて同定、器官・臓器誘導系の確立にも注力した。

受賞等

1990年 日本動物学会賞
1990年 井上学術賞
1990年 Man of the Year 1991(USA. ABI)
1994年 木原記念学術賞
1994年 フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞(ドイツ政府)
1999年 東レ科学技術賞
2000年 持田記念医学薬学学術賞
2000年 内藤記念学術賞
2000年 有馬啓バイオインダストリー協会賞
2001年 上原賞
2001年 紫綬褒章
2001年 日本学士院賞・恩賜賞
2002年 比較腫瘍学常陸宮賞
2008年 ERWIN-STEIN-PREIS
2008年 文化功労者

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