インタビュー『この人に聞く』

「iPS細胞研究の知財戦略」を聞く(2)-全3回-

羽鳥 賢一 氏

論文投稿と特許出願のタイミング

写真:羽鳥 賢一 氏

羽鳥 賢一 氏

羽鳥:
スライド9から11には、今回のiPS細胞について山中教授(京都大)、Thomson教授(Wisconsin大)、Jaenisch教授(MIT)が どのタイミングで特許を出し、どのタイミングで論文を刊行されたかを、公知の資料に基に調べてタイムチャートにしてあります。
まず、山中特許ですが、スライド9(PDF)のように、日本出願が先行していて2005年12月13日です。論文の受理が4ヶ月後の2006年4月24日、刊行されたのが8月10日です。PCT特許出 願は1年後の2006年12月6日で、世界初のiPS特許が登録されたのは2008年の9月12日です。このように山中特許は論文刊行前に出願を果たして おり、定石どおりの特許戦略を持っていたと言えるでしょう。

聞き手:
しかし最初の出願はマウスですが、登録された特許にはヒトも含まれているのですか。

スライド9

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スライド10

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スライド11

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羽鳥:
この点議論があったようですが、特許庁の見解では、2005年12月13日の出願に係る特許はヒトも含むということのようです。

聞き手:
じゃあその見解は日本独自のもので、外国では通用しないと言うことですか。

羽鳥:
そうです。必ずしも通用しません。特許では「属地主義」を採っていますから、各国毎に判断されるのです。

羽鳥:
次いで、スライド10(PDF)のThomson特許のケースを見てください。
彼は、山中教授のマウスの論文に触発された形で、ご自身の長年のES細胞の研究成果に山中iPS細胞技術を取り入れるという形で、2007年3月27日 と、9月25日の2回「仮出願」を行っています。11月には論文を刊行していますが、仮出願毎に有意なデータが出ていたものと思われます。本出願は、論文 よりずっと後の2008年3月21日で、最初の仮出願から1年以内です。
特許の有効期限は、本出願から20年ですから、米国だと仮出願から見れば21年あるわけです。医薬分野では権利の活用上、最後の1年が結構重要なので、1年でも本出願を遅らすことができるのは極めて有効です。

聞き手:
ルールが違っていては、公正な戦いができないですね。

羽鳥:
国ごとに違うのですから、米国では米国流で戦えばよいのです。日本人だからといって、差別されることはありません。米国で出願するには米国の制度を使えばよいのです。

聞き手:
仮出願は日本語でもよいのですか?

羽鳥:
仮出願時は日本語でもよいのです。本出願時に英語に直したものを提出すればよいのです。実際、慶應義塾大学では米国に日本語で仮出願した実例があります。

羽鳥:
さて、最後にスライド11(PDF)のJaenisch先生の場合ですが、論文投稿(2007年2月27日)が仮出願(2007年4月7日)に先行しています。
これは、実際に論文が受理されてから刊行されるまでの間にタイムラグが有る事を考慮したものでしょう。

聞き手:
上手に特許戦略を立てているのですね。

iPS細胞に関する特許戦略

スライド12

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スライド13

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羽鳥:
スライド12(PDF)を見てください。
米国では、最初に仮出願しておいて、追加の知見があると、2度目の仮出願をして・・という風に、本出願までに複数回も知見を追加できるという大きなメリットがあります。
先端医療特許に関する競争の舞台が米国であることを考えると、こうした米国の特許制度を良く知って、上手に使うことが大事です。
ただ、何でもかんでも仮出願がいいかというと、そうでもない。何しろお金がかかりますから。米特許庁に払うのは8000円くらいですが、弁理士費用を考えると1回に付き30万円くらい必要です。
製薬協に所属する企業の方々は、こうした米国の制度を熟知しているかと思います。
日本のいろんな大学も、まさにその米国特許戦略の仲間に加わり始めたというところでしょうか。

羽鳥:
iPS細胞に関する京都大学、ホワイトヘッド研究所、WARF及びバイエル(当時)からの特許出願を比較したものがスライド13(PDF)です。
どのように初期化するかという点ですが、京都大学の特許出願は4因子、ホワイトヘッド研究所の特許出願は4因子に転写因子を加えています。また、京都大学の特許出願も、癌化に関連するc-Mycの代わりにbFGFを使うことを加えています。
一方、WARFの特許出願は初期化4因子のうち、K1f4、c-Mycの代わりにNanog、Lin28を使います。本特許出願は皮膚の細胞を初期化するのではなくES細胞を分化させた間葉系細胞を使っているので方法が違うのです。
一方、バイエル(当時)の特許出願は、4因子のうちc-Mycの代わりにHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害剤を使っています。彼は、ヒト皮膚・骨髄に含まれる未分化の幹細胞を使っている点が異なります。
このように起源細胞が変わると、初期化因子も変わるようです。

聞き手:
確か、バイエル(当時)の特許出願の方法では効率が高いと言われていますね。

(注意:ここで掲載したスライドは、各スライドに記載の機関に帰属するものであり、コピー並びに無断転載は全てについて禁止とさせていただきます。ここでは、内容の理解を助けるために掲載させていただきました。)


インタビュアー:本間 美和子(iPS Trend 監修)、佐藤 勝昭、森本 茂雄(科学技術振興機構)
掲載日:2009年07月02日

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