インタビュー『この人に聞く』

「iPS細胞研究の知財戦略」を聞く(1)-全3回-

羽鳥 賢一 氏

写真:羽鳥 賢一 氏

羽鳥 賢一 氏

2006年に京都大学・山中伸弥教授グループにより最初に報告されたiPS細胞の作成。受精卵を使用しなくとも個々人の体細胞から幹細胞をつくりだすこと ができるというその画期的な技術は、医療への応用という観点からも明るい期待をふくらませ、全世界を席巻した。現在、世界中の研究者と産業界を巻き込み、 より安全なiPS産生技術の開発競争が進められている。一方、我が国発のアイディアが生み出した技術を、「知財」という観点から見つめると、日本の対応は 欧米諸国に対し必ずしも優位に立っておらず、今後整備するべき多くの課題があることに気付く。
世界の現実を見つめた上で、どのような戦略を立てる必要があるのか、iPS細胞をはじめとする大学の知財戦略にお詳しい慶應義塾大学知的資産センター所長 羽鳥賢一教授を訪ね、生の声をお伺いした。
羽鳥先生は、特許庁入庁後、特許審査・審判の部門を中心に活躍され、独立行政法人産業技術総合研究所 知的財産部長などを経て、2007年に慶應義塾大学教授・知的資産センター所長に就任された。伝統的に教員の特許マインドが高いといわれる慶應義塾大学ならではの知財戦略についてもお聞きしてみた。

羽鳥 賢一 氏(絵:佐藤 勝昭)

羽鳥 賢一 氏
(絵:佐藤 勝昭)

聞き手:
科学技術振興機構(JST)ではiPS細胞について一般の方にわかりやすく情報を提供するために「iPS Trend」というサイトを開設しています。
この中に「インタビュー」のコーナーがあるのですが、このほど、先生が2月4日に第5回慶應義塾先端科学技術シンポジウム「iPS細胞が切り拓く今後の医学研究」の中で講演された「先端医療分野の知財戦略」の内容について詳しくお話を伺い記事にしようということになり、お時間を頂いたようなわけです。

羽鳥:
あのシンポジウムは、慶應義塾大学の研究推進センターとiPS細胞研究拠点が主催したもので、1000人規模の聴衆を集めた大変盛況なものでした。
山中教授の特別講演や中内教授、髙橋先生の招待講演を含め、岡野教授を筆頭に慶應義塾のiPS細胞の研究リーダ達が最新の研究成果を発表して大きなインパ クトを与えました。そのシンポジウムの後半の部に少し時間をもらって、知財の立場から「先端医療分野の知財戦略」を説明させていただきました。

日米でこんなに違う特許の仕組みと特許戦略

スライド2

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スライド3

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スライド4

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聞き手:
いただいた資料に沿ってご説明をいただけるでしょうか。

羽鳥:
スライド2(PDF)の知財戦略本部決定の「知的財産推進計画2008」抜粋ですが、日本は米国に比して特許保護が足りない領域があるのではないかということで、過去にも1度 2005年4月に特許庁は審査基準の運用を改定したのですが、iPSが話題になる中、国際競争力強化の視点から再度運用基準の見直しが行われています。
後で触れますが、米国では手術方法、治療方法の特許取得に制限がありません。
ただし、医師がその特許権侵害に該当する医療行為を実施した場合であっても、その差止請求や損害賠償などの規定が、医師又は関連医療行為に適用されることはありません。
一方、日本や欧州では、手術又は治療する方法それ自体が特許を受けることができません。

羽鳥:
次に、スライド3(PDF)「幹細胞関連の米国のWorld-wideな出願戦略」をみてください。
この出典は、「平成19年度特許出願技術動向調査—幹細胞関連技術—」です。
特許件数のトップ5は、米・日・欧・中・韓ですが、赤が米国の出願人、水色は日本です。これを見ると米国からの出願人は、米国内だけでなく、世界中を向いていて、日本においても日本人の特許出願数より多い40%もあるのです。
これに対し、日本から米国への出願は、5%に過ぎません。

聞き手:
確かに米国は積極的ですね。

羽鳥:
スライド4(PDF)は、手術・治療関関係の特許制度の国際比較です。
日本では、手術又は治療する方法は、特許を認めませんが、審査基準の中でその基準を定めています。
米国では、新規かつ有用であれば良く、分野・領域の制限はありません。
欧州は、3者のうち最も基準が厳しくて、手術又は治療による動物の処置方法も特許を受けることができません。

聞き手:
それじゃ、PCT特許といえども出す相手で変わるのですか。

羽鳥:
そうです。特許制度の多くの項目で国際調和が進んでいますが、手術・治療方法の特許では気を使う必要があります。米国へ出願する際には、手術・治療方法の 発明も明細書、クレームに含ませることが競争力維持に必要であり、逆に、米国の人が日本向けに出願書類を作成する際には、手術・治療方法の特許クレームは 削除しないと拒絶されてしまいます。

スライド5

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羽鳥:
続いて、スライド5(PDF)の「米国における医療行為」ですが、先程も述べたように米国特許法には、明確に「特許権利行使で、差止めや損害賠償は医師または医療機関には適用しない。」と規定されています。

聞き手:
それでは、医師が特定の製薬会社の薬を使ったとすれば、製薬会社には適用されるかも知れないですね。

羽鳥:
その通りです。特定の会社から医師や医療機関がサポートされていた場合には、その会社は適用除外にならない可能性があります。

スライド6

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羽鳥:
次にスライド6(PDF)「米国の特許制度への対応」について述べましょう。
米国特許の特徴は「先発明(せんはつめい)主義」です。
他の全ての国が「先願(せんがん)主義」を採り、特許庁に出願した日を基準日として比較判断がなされるのに対し、米国では証明次第で出願日より遡った日を基準に判断が可能となります。
だから、研究ノートがきちんとしていれば、時間を遡って戦えるし、この先願主義の下で、米国特有な出願手続きとして「仮出願」ができるのです。

聞き手:
米国でも国際水準に合わせ先願主義にしようという動きがあるようですが?

スライド7

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羽鳥:
何度もそういう動きがありましたが、最後のところで議会で廃案になることを繰り返してきたと思います。

聞き手:
先発明主義だと研究ノートが大切なのですね。

羽鳥:
スライド7(PDF)「研究ノート」をご覧下さい。
第1番目の目的としては、先発明主義への対応を掲げています。
第2番目は、オリジナリティの認定です。
第1番目の先発明主義への対応では、ノートに空白を作らない、第三者の署名がいるとか、鍵のかかる場所に保管など、改竄防止のための厳しい基準が言われています。

聞き手:
日本でも、最近は研究ノートをつけようという方向に来ていますが、日本の研究室の現状では、とてもそんなことはできませんね。(笑)

(注意:ここで掲載したスライドは、各スライドに記載の機関に帰属するものであり、コピー並びに無断転載は全てについて禁止とさせていただきます。ここでは、内容の理解を助けるために掲載させていただきました。)


インタビュアー:本間 美和子(iPS Trend 監修)、佐藤 勝昭、森本 茂雄(科学技術振興機構)
掲載日:2009年06月24日

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