iPS細胞研究 世界の潮流

2. 研究費から見るiPS細胞研究の潮流

掲載日:2009年6月10日

大学や公的研究所で研究を推進するにあたって、競争的研究資金というものがあります。自らの研究計画をプレゼンテーションし、すぐれたテーマに研究費が割り振られるというものです。山中教授も複数の研究費を獲得しながらiPS細胞の樹立に至りました。
今回はiPS細胞の関連する研究分野を支援する研究費を見ることで、iPS細胞をとりまく研究分野の潮流を見ていくこととしましょう。

日本で規模の大きい研究費の一つである科学研究費の採択状況は科研費データベースで調べることができます。
山中教授が初めて科研費を獲得した大阪市立大学助手時代(1997~)から、世界で初めてマウスでのiPS細胞を樹立した2006年8月以前の9年間で、山中教授が代表者又は分担者として名を連ねるテーマは32、科研費の総額は8億1800万円に上ります。2006年以降はすでに公開されているものでテーマは3、科研費の総額は4億6168万円に上ります。iPS細胞研究に集中的に予算が投じられていることが見て取れます。

それ以外にも山中教授によるヒトでのiPS細胞樹立がCell誌に発表されてから約1カ月後の2007年12月22日、渡海紀三朗文部科学相(当時)は今後5年間で細胞研究関連分野に100億円超の研究費を投入する方針を明らかにしました。2007は2.7憶円だった細胞研究関連予算は2008年度22億円になり、前年の約8倍の増となっています。
文部科学省以外にも経済産業省の外郭団体であるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)ではiPS細胞の産業応用を促進するプロジェクトとして、2009年3月に3件の研究開発を採択(2009年3月31日ニュース参照)。5年間で55億円円の予算がついています。

一方厚生労働省は主に再生医療をはじめとした臨床応用に向けたiPS細胞研究の支援を行うため、2007年度に約7.2憶円、2008年度に約9.4憶円の研究費が投じられています。

また、内閣府、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の関係4府省は、先端的な医療の実用化、産業化や国民へのより迅速な提供に向け、研究開発の促進を図ることを目的とした「先端医療開発特区(スーパー特区)」を実施。2008年11月に24件の課題をスーパー特区として採択することを決定しました。
そのうちiPS細胞や再生医療に関するテーマは7件あり、すぐに予算がつく支援策ではありませんが研究資金の効率的な運用(一部費目間の流用や人件費や旅費への使用)ができるようになる点で、支給された他の研究費が効果的に運用される土台ができました。

更に、2009年4月、最先端研究で日本の国際競争力を高めようと、3,000億円規模の研究支援基金を新設する方針が日本政府から発表されました。麻生内閣による15兆円規模の経済危機対策の一環で、運用期間は5年、世界的に競争力を持てる可能性がある約30課題を選び、2,700億円を投じるという計画です。
残り300億円は「世界で戦える研究者」を育てるため、若手研究者の海外派遣(最大3万人)に充てることになっています。
1研究分野平均すると90億円の研究費を獲得することとなりますので、日本においては史上最大規模の研究基金計画です。iPS細胞の関連する研究分野にも研究費が割り当てられると考えられます。

日米のiPS細胞関連研究予算

このように日本国内では集中的に研究費を投じてiPS細胞や再生医療分野の研究を支援する体制をとりつつあります。
一方、国外の主な取り組みも見てみましょう。

ブッシュ政権下でタブーとされてきたES細胞の研究は、オバマ政権に移行することで再開し、まとまった研究予算が付けられました。
米国厚生省傘下の最大の研究組織である国立衛生研究所(NIH)の資料によると、幹細胞にまつわる研究に対し2009年に約2149億円の予算が申請されています(NIHのWebページ:Estimates of Funding for Various Research, Condition, and Disease Categories参照)。
オバマ大統領は科学技術予算の上積みを決めていて、研究費はさらに増える見通しです。
カリフォルニア州の研究助成機関「カリフォルニア再生医療機構(CIRM)」が10年で3000億円、メリーランド州が1年で23億円など、各州の政府も独自に研究助成を発表しています。
特にカリフォルニアでは「カリフォルニア幹細胞研究医療法」が2004年に州民投票でつくられたという背景もあり、地域住民の意識の高さが伺えます。

2008年11月には山中教授による提案で、科学技術振興機構(JST)と上記CIRMが協力し、日米の研究者交流を促進するためセミナーの共同開催や資金面で後押しする計画を発表しました(2008年11月19日ニュース参照)。国際的な研究協力体制の構築が始まっています。

このように研究者がタッグを組み、少しでも早く治療への応用を実現し、病気で苦しむ方を救いたいという山中教授の研究者としての想いがその行動から伺えます。
一方、研究予算の面で日米では約10倍の開きがあり、アメリカより研究予算規模の小さい日本では、iPS細胞という歴史的な日本発の技術における優位性はすぐに失われ、諸外国にその基礎研究や応用研究の分野で先を越されてしまう、という議論もあります。
日本の国際的な競争力の維持を図りながら、iPS細胞の早期実用化を願い、技術の健全な発展も並行して進むよう見届けたいと思います。

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