iPS細胞研究 世界の潮流

1. 論文数・特許数から見るiPS細胞研究の潮流

掲載日:2009年5月12日

ますます熱気を帯びるiPS細胞の研究。
今回は研究における学術的な進歩を報告する論文から、iPS細胞研究を取り巻く状況を見てみたいと思います。

論文については、アメリカ国立医学図書館(NLM)の国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI:National Center for Biotechnology Information)が運営するPubMedというデータベースを使いました。医学系では世界最大のデータベースで、世界中で報告された論文(レビュー等含む)の情報が蓄積されています。
まずiPS細胞を含む幹細胞(Stem cell)の研究がどのように推移してきたかを調べるため、タイトルや要旨に「Stem cell」を含む論文を検索したところ、以下の図のようになりました。(2009年4月28日現在)

図1
図1 幹細胞の研究報告は対数増殖的に増加している。

1981年のES細胞発見以前は通常生物が持っている様々な幹細胞の研究が行われていたようです。その後、1980年代~1990年代はES細胞の発見や その基礎データ解析、またそれを用いた臓器再生技術の開発などの分野が活性化し、文献数が増えたと考えられます。2000年代には1990年代の約2倍にも増えています。

また、2000年代については1年ごとに論文数を追ってみました。

図2
図2 2000年以降も幹細胞の研究報告は増加を続ける。

2008年に幹細胞について報告された論文数は2000年に比べて2倍に増加しています。この分野に注目が集まっていることが伺えます。2009年は減少 しているように見えますが、4月末日までのデータなのでそのようになっています。これまでのペースで報告がなされ続ければ2008年と同程度もしくはそれ以上の報告がなされることが予想されます。
このように、さまざまな機能を持つ細胞に分化できる幹細胞には研究者の注目が多いに集まっていることが分かりました。

次に、タイトルや要旨に「induced pluripotent stem cells」を含む論文数の推移を以下に示します。

図3
図3 iPS細胞についての文献数は増加傾向である。

ヒトの細胞を用いてiPS細胞を樹立した、という報告は京都大学の山中伸弥教授らのグループとウィスコンシン大学のJames A. Thomsonらのグループによって同時に報告(※1※2)がなされました。2007年末のことです。
山中教授らはげっ歯類のみに感染するレトロウイルスをヒト細胞へ感染させるために、ウイルスの感染に必要なタンパク質をヒトの細胞に作らせる処理をし、山中ファクターとして有名なOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCの4遺伝子を、レトロウイルスを使って導入して培養、継代を行うことでヒトiPS 細胞を樹立しました。同報告内でES細胞との類似点も示し、iPS細胞とES細胞はほぼ同じ細胞であると結論付けています。
一方Thomsonらは、OCT3/4を遺伝子組換えによりヒトES細胞に導入、分化させました。その後、レトロウイルスでOCT3/4、SOX2、NANOG、LIN28遺伝子を導入し、培養、継代を行うことでヒトiPS細胞を樹立しました。
Thomsonらの報告では、胎児および新生児由来の細胞が使われているのに対し、山中教授らの報告では成人の細胞が使われている点で、山中教授らの報告の方が一歩進んでいると言えます。一方、iPS細胞のがん化を引き起こすと考えられているC-MYC遺伝子を用いずにiPS細胞を樹立したという点では、Thomsonらの報告が進んでいると言えます。

この二つの論文が契機となり、ヒト細胞由来のiPS細胞樹立の報告が世界各国からなされています。その後、山中教授の研究グループからは14報の論文やレビューが次々に報告され、世界のiPS細胞研究をリードしています。その他、様々な動物種でのiPS細胞樹立の報告やiPS細胞の樹立法をブラッシュアップしたという報告がなされ、今後もその勢いは続くと考えられます。

一方特許の状況を見てみると、現在のところ日本国内で特許として成立した、また特許出願されて一定期間がたち、公開されているものは、新聞等でも話題になった京都大学とバイエル社の二つのみです(特許庁電子図書館にて調査)。
山中教授の研究成果を事業化するために設立された、iPSアカデミアジャパン社の報告では、それ以外の特許も出願中とされています。また、すでに細胞に山中ファクターを遺伝子導入する方法だけでなく、異なる遺伝子を導入する方法、山中ファクターのタンパク質を導入する方法などが世界各国から論文で報告されているため、iPS細胞の樹立法やその応用について様々な技術が特許となりうる可能性を秘めています。
今後もiPS細胞の研究・開発からは目を離せない状況です。

※1
Cell. 2007 Nov 30;131(5):861-72
Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors.
Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S.

※2
Science. 2007 Dec 21;318(5858):1917-20
Induced pluripotent stem cell lines derived from human somatic cells.
Yu J, Vodyanik MA, Smuga-Otto K, Antosiewicz-Bourget J, Frane JL, Tian S, Nie J, Jonsdottir GA, Ruotti V, Stewart R, Slukvin II, Thomson JA.

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る