インタビュー『“未来”の担い手たち』

新たな視点から再生医療にアプローチする(2)-全2回-

武部 貴則 氏

聞き手:なるほど。複数の研究を進める中で、画期的な共培養という方法を見つけたのですね。

武部:細胞1つではうまく成長しないし、血管系を作るには間葉系幹細胞がサポートすることはわかっていたので、研究で利用していた各種細胞(肝内胚葉細胞、間葉系幹細胞、血管内皮細胞)を混ぜてみました。細胞が付かないようにコーティングされた培養プレートを間違って選んでしまったのですが、翌日見てみたら、なにやらモコモコしたものができていました。血管が統合されたような何らかの組織が立体的にできていたのです。理論的にも納得が出来る材料(細胞)だったので、そこから条件設定を幾度と無く繰り返し、肝原基を作りだす方法を確立しました。当初はカビが混入したのでは?とか酷いことを言われましたね。でも、そのぐらい言われないと。面白い発見とはそういうものです。

ラボでの武部氏

ラボでの武部氏

聞き手:まさにセレンディピティですね。肝臓は大きな臓器です。肝臓の芽である肝原基が元の肝臓に生着して育つとしても、どのくらいの量が必要になりそうですか。

武部:たくさんの細胞が最終的に機能する必要がありますが、私たちが取り組む先天性尿素サイクル異常症を対象にした最初の臨床研究では、肝臓全体の数%が置き換われば治療効果を発揮できると思います。肝移植に代わるためには30%以上を置き換える必要があります。それには大人では、100億個の細胞が必要とされますが、肝原基は生着後に分裂を繰り返すので、その数十分の一の量を、門脈から移植することを目指しています。私たちは、肝原基を小さくして大量に作り出す量産技術の開発をしています。このサイズにすることで血管から肝原基を肝臓に送り出すことができます。既にマウスを使った実験では、肝原基が体内で血管網を持つ肝臓に成長し、治療効果を発揮することを見いだしています。

想定されている臨床研究
想定されている臨床研究(拡大)

聞き手:今後、この技術はどのように発展していくのでしょうか。

武部:培養で利用する細胞の種類を増やしていく予定です。本当に細胞成長に必要なプレーヤー(各種細胞)が3種類ということにはならないと思うので、更に複雑化していく必要があります。そして、肝原基を利用した治療法が、既存の肝細胞移植よりも優れていることを示していきたいです。

聞き手:今のところ培養に使う細胞はヒトの臍帯由来の内皮細胞などを使われていますが、最終的にはiPS細胞を活用するのでしょうか。

武部:オールiPS細胞での研究には着手しています。肝原基を作るために必要な細胞をiPS細胞に代えるための基礎データは揃ってきましたので、実験を始めています。ただ、iPS細胞の培養には、多くの人材が必要になります。iPS細胞の培養にはチームを組まないといけませんので、一気に研究規模が大きくなります。そのマネジメントに苦労しています。

新たな臓器製造システムの前で

新たな臓器製造システムの前で

聞き手:再生医療研究以外でも、精力的にご活躍されていますね。

武部:再生医療のような先進医療と相対するものも必要だと思います。この再生医療は夢がありますが、費用がかかり限られた人にしか適用できません。一方で、医療の構造を俯瞰すると脳卒中や悪性腫瘍、心疾患など生活習慣病の罹患数が圧倒的で、再生医療はあくまで最後の砦のようなイメージです。医療全体を考えると、まず入り口で病気に罹る人の母数を減らしていく必要があると思います。広告代理店と一緒に、コミュニケーションで多くの人に予防的な治療を施すことを考えています。広告医学と呼んでいる分野です。

聞き手:例えば、どのような試みをされているのでしょうか。。

武部:今、大学の最寄り駅の市大医学部駅や金沢八景駅で、デザインの力でエスカレーターから階段に効果的に誘導できる試みをしています。これまでは“生活習慣病になるので階段を使いなさい”と伝えるのが私たちの医療でした。この従来からの一方的な伝達では、患者さんを簡単に減らすことはできません。そこでデザインの力をかりて、楽しく、ついつい体を動かしたくなる、食事にちょっと気を使うことが自然に起こる場を作るという発想の転換がありました。例えば、椅子と机の高さの比率を変えることで行動量を増やすとか、昇りたくなる階段のデザインとか、体格でデザイン等が変化する服でメタボリックシンドロームへの意識を高めたりするなど、コミュニケーションによって医療を変える仕事に取り組んでいます。また、大学に隣接する企業さんには、通常業務の中で運動量を増やしたり、食事に気を付けるために食堂のデザインを工夫したりして、それらの試みでライフスタイルが改善されるかについての調査に協力してもらっています。

世界保健機関(WHO)の統計では、年間3,600万人が生活習慣病に関連して死亡しています。また、日本人全体の死亡原因をみると医者による治療で治らない病気(生活習慣病)がトップを占めています。例えば、味噌汁1杯の減塩をしただけで、万単位の患者さんを救うことができるかもしれません。ここ10年、20年、生活習慣病への対策が停滞しています。そこで、クリエーターやコピーライター、デザイナーの力を結集して、医療視点で様々なものを創り始めています。この試みについて再生医療実現拠点ネットワークプログラムの中でも、共感してくださる先生方がいます。

聞き手:研究者として心がけていることはありますか。

武部:私は視点が良い意味でブレます。先日、2013年のノーベル生理学・医学賞を受賞したトーマス・スードフさんの講演を聞きました。その中で、放射状に、複層的に考える、ラディアル・シンキング(radical thinking)の重要性を話されていました。再生医療と広告医学では視点が違いますが、中心と周辺を行ったり来たりすることで、新しい考え方を創造しやすくなるのです。フレキシブルな視点を常に持っておくことは大切ですね。

聞き手:後輩へのメッセージをお願いします。

武部:私は普段から心がけている言葉があります。“バックキャスティング(back casting)”というもので、フォアキャスト(予測)と相対する言葉ですが、これが研究に当てはまると思います。つまり、未来がこうあるべきというビジョンを創り、それに向かって逆算して、これから何をしていくべきかを定義することです。それに加え、ラディアル・シンキングという多面的に物事を捉えること。これらをしていくとチャンスが必ず来ます。そのチャンスを逃さないでいると、セレンディピティが起こります。

夢を持ち、無駄だと思っても一所懸命頑張ることが重要ですね。チャンスは誰にでも回ってくるので、確実に掴み取る。それを繰り返すことで、一気に上に進む瞬間がきます。

一方で、次世代の研究者の皆さんが将来への不安を感じずに研究結果を出していけるような環境作り、また次の時代を見据えた再生医療研究の枠組み作りについても若手の皆さんが積極的に参加できることが求められていると思います。


取材日:2015年2月18日

武部 貴則(たけべ たかのり)氏の略歴

2009年米スクリプス研究所(化学科)研究員、2010年米コロンビア大学(移植外科)研修生を経て、2011年、横浜市立大学医学部医学科卒業。同年より横浜市立大学助手(臓器再生医学)に着任、電通×博報堂 ミライデザインラボ研究員を併任。2012年からは、横浜市立大学先端医科学研究センター 研究開発プロジェクトリーダー、2013年より横浜市立大学准教授(臓器再生医学)、独立行政法人科学技術振興機構 さきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」領域研究者、スタンフォード大学幹細胞生物学研究所客員准教授などを兼務。専門は、再生医学・広告医学。

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