インタビュー『“未来”の担い手たち』

新たな視点から再生医療にアプローチする(1)-全2回-

武部 貴則 氏

iPS細胞を用いて画期的な肝臓の芽(肝原基)の培養法を開発した横浜市立大学大学院医学研究科の武部貴則准教授。ヒトの臓器で一番大きく、様々な機能を持つ肝臓に対して、移植以外の効果的な治療方法につながる技術として注目を集めている。再生医療という先端医療だけでなく、広告医学という患者目線から医療を考える活動にも従事し、日本の医療に新風を吹き込んでいる。

聞き手:医学の道に進むきっかけを教えてください。

武部:小学生の時に、家族が脳卒中で倒れて一時深刻な状態に陥りました。その後、治療の甲斐あって、幸い職場復帰できるまで回復しました。そうした経験のなかで、一人を助けることで周囲の家族や友人など影響を及ぼす医学の力の大きさに驚き、医者を目指すことにしました。

写真:武部 貴則 氏

武部 貴則 氏

聞き手:横浜市立大学の在学中に米国のいくつかの研究所に留学されていましたが、それはどういった経緯で。

武部:学部時代から、谷口英樹先生(科学技術振興機構(JST)戦略的イノベーション創出推進事業(S-イノベ)『iPS細胞由来ヒト幹肝細胞ライブラリーの構築よるファーマコセロミクス基盤技術開発』研究リーダー、現在は再生医療実現拠点ネットワークプログラム『iPS細胞を用いた代謝性臓器の創出技術開発拠点』拠点長/横浜市立大学大学院教授)の指導の下、研究をしていました。このころから研究者としての道をスタートさせていたので、どうせ行くなら世界トップクラスの研究所にということで米国・スクリプス研究所に留学しました。さらに、もともと興味のあった移植医療の最前線を学ぶため、コロンビア大学外科で臨床研修を行いました。

聞き手:日本と米国では、研究環境がだいぶ違うのではないですか。

武部:米国では、研究者としてのキャリアがとても大事にされています。実験だけに集中できますし、学生にも広い研究スペースが与えられています。考えるための環境が整っていました。同じような研究をやっている人たちにもすぐに相談できますし、それを解決するためのヒントも得られる、風通しの良さがありましたね。

聞き手:学部時代はどのような研究をしていたのですか。

武部:当時は耳の軟骨再生を目指して研究をしていました。耳の弾性軟骨を再生するため、成熟した軟骨にしかならない幹細胞を発見しました。先天的に顔面部に奇形を持つ子供達の治療をしたいと考えおり、現在は動物モデルを利用した研究をしています。

聞き手:再生医療の技術開発は、これまで治療できなかった人たちも救うことができる可能性があります。そのような意味では、臨床医よりも多くの人を救えるのではないでしょうか。

武部:指導を受けた神奈川県立こども医療センターの小林眞司先生からは、目の前の患者さんだけを救うのではなく、数万、数百万人を救うことを目指して研究しなさいと言われました。谷口先生からも中国のことわざである『小医中医大医』にあるように大きい医者すなわち、これは国を癒し社会を癒すもので、君は大医になりなさいと励まされています。もしかしたら、いつか多くの人を助けられるかもしれないという想いが、今の研究活動の原動力です。

聞き手:現在の研究中心である肝臓の再生医療研究はいつ頃から始めたのですか。

武部:4年ほど前からです。医学部を卒業後、助手に着任してから新しく取り組みました。成長のキーとなる複数の細胞を共に培養する技術(共培養)は、肝臓以外の臓器でも利用できると考えています。同時並行で、軟骨や膵臓、腎臓についても検討しています。

聞き手:肝臓の病気、特に肝臓が機能しなくなる肝不全は、最終的には移植しかないと聞いています。また最近は、肝細胞移植という治療法も出てきました。それらと肝原基の研究とはどのような関係がありますか。

武部:肝臓移植を数に制限なくできればいいのですが、現段階では世界的に見ても移植用臓器が少ない。毎年、2万人以上の移植待機患者が亡くなっています。私は米国で移植医療に従事していましたが、現状では助けられない患者さんが多いことを実感しました。日本でも生体肝移植が行われていますが移植例は少ないです。また、肝細胞移植では、細胞ゆえに血管がなく適正な場所に生着できないことが問題で、現状では、肝臓移植までのつなぎにしかならないという状況です。しかし、当時の多くの研究は、このような治療を目指し、細胞を作り出す試みに終始している状況でした。そこで、仮にチャレンジングでも臓器づくりを目指すことができる全く新しい治療法を開発すべきと考え研究を始めました。

肝原基を用いた治療概念
肝原基を用いた治療概念(拡大)

聞き手:肝原基は、様々な細胞を混ぜて培養すると自律的に肝細胞が育つと聞きました。細胞培養のスタンダードは純粋培養ですよね。

武部:要素還元主義が研究の基本です。当初は、臓器の中に幹細胞があり、それを用いて目的の種類の細胞のみを純粋に作りだすという、ステムセルバイオロジーの考え方を踏襲していました。JSTのSイノベの中でも、実際、幹細胞から肝臓細胞を培養し、薬剤評価への応用を目指す研究もしていましたが、臨床を見据えた場合、私は直前まで移植医療の現場にいましたので、本当にそれで良い治療ができるのか疑問でした。そこで、血管のない組織が機能するとは考えられませんでしたので、血管系を作る仕事を始めました。一方で、耳の軟骨再生の研究で間葉系幹細胞を扱っていました。さらに、臓器ができる最初のステップに着目し、目的とする細胞の成長を助けるサポーター役となる細胞が、どのタイミングから一緒に育ち始めるのかを研究して、そこを真似た培養系を作りました。


取材日:2015年2月18日

武部 貴則(たけべ たかのり)氏の略歴

2009年米スクリプス研究所(化学科)研究員、2010年米コロンビア大学(移植外科)研修生を経て、2011年、横浜市立大学医学部医学科卒業。同年より横浜市立大学助手(臓器再生医学)に着任、電通×博報堂 ミライデザインラボ研究員を併任。2012年からは、横浜市立大学先端医科学研究センター 研究開発プロジェクトリーダー、2013年より横浜市立大学准教授(臓器再生医学)、独立行政法人科学技術振興機構 さきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」領域研究者、スタンフォード大学幹細胞生物学研究所客員准教授などを兼務。専門は、再生医学・広告医学。

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