インタビュー『“未来”の担い手たち』

培養腸上皮幹細胞を利用した粘膜再生治療で炎症性腸疾患に挑む(2)-全2回-

岡本 隆一 氏

聞き手:腸上皮幹細胞の培養について課題はありますか。

岡本:患者さんから採取させて頂いた数ミリメートル程度の腸上皮組織を基に、1~2ヶ月で移植治療に必要な量まで培養して増やすことができるプロトコール(手順)を目指しています。細胞を増やすための増殖因子が現状では比較的高価で、手に入りにくい。また、治療に使う細胞では安全性が高い増殖因子で培養する必要があります。そこで医療用の製品に準じた工程で作られた遺伝子組換タンパク質の利用を検討しています。従来の増殖因子と同等に効率よく培養することが当面の目標です。
この疾患は再発もあり得ますが、取得した組織から培養した細胞の一部を凍結保存しておく事もできます。そうすれば患者さんの状況に合わせて、予め増やしておいた細胞を使って必要な時に移植することも可能になってきます。継続的に移植細胞を利用するためには重要な技術になります。新たな遺伝子組換タンパク質を用いた培養方法でも凍結・解凍後に培養効率が劣ることがないか、検証していきます。

聞き手:培養した腸上皮幹細胞を大腸に定着させる技術について教えてください。

岡本:移植細胞を適切なところ(患部)に定着させるため、どんな形態で細胞を患部に送れば良いか検討しています。散布するか、シート状で貼り付けるか定着技術の開発を進めています。細胞を患部に送るには内視鏡を利用しますが、内視鏡のチューブの中を1メートル近い距離を経るので、協力企業とともに細胞を送り込むための周辺機器の開発にも力を入れています。途中、培養して増やした貴重な細胞がチューブ内にくっついたりして、輸送のロスが生じる可能性がありますので、そこを解決したいですね。

聞き手:どのようにして移植細胞を定着させるのですか。

岡本:細胞を患部に送って、その上にバンソウコウのようなコーティング材で覆って、細胞の固定を助けます。このコーティング材は、外科手術や内視鏡手術後の創傷治癒材として用いられている医薬品です。患部を覆うものとそれをのり付けするような2種類の素材を使います。移植細胞が一定時間とどまっていれば定着することがマウスを用いた実験でわかっています。今は移植細胞を目的の場所に撒くように届ける散布法が、シート状の細胞移植より臨床に近い方法だと考えています。移植した一層の細胞層は、患部に定着すると、上皮を再生する単位としてのくぼみ(クリプト)を形成します。

聞き手:移植細胞はどのような形で培養されますか。

岡本:プロジェクトに参加して頂いている中村哲也先生が開発された、生体外で腸上皮幹細胞を培養する独自の手法(TMDU法)を用いて、ほぼ腸上皮幹細胞で構成される細胞塊を作っています。この細胞塊は一層の細胞からなる球体で、オルガノイドと呼んでいます。培養にはドーム状の基質に埋め込んだ形の3次元培養を行うことが必要となります。

現在開発中の治療方法
現在開発中の治療方法(拡大)

聞き手:東京医科歯科大学での研究体制はどうなっていますか。

岡本:1つのフロアに再生医療研究センターをまとめてもらいました。滑膜幹細胞で半月板再生に取り組む関矢一郎先生(東京医科歯科大学再生医療研究センター・センター長)など、センター内で再生医療研究に従事する先生方と情報交換ができ、相談もしやすくなりました。また、PD・POのご尽力もあり、再生医療実現拠点ネットワークプログラム内で支援を受けている先生方との交流や連携をする機会を頂いていることが研究を進める上で非常に役立っています。

研究室で

研究室で

聞き手:これからの目標は。

岡本:この新しい治療法が臨床研究に入ることです。マウス実験での研究成果が報道された時は、多くの炎症性腸疾患の患者さんからお問い合わせを頂きました。新たな治療法に対する期待が大きいと感じていますので、安全性、有効性を十分に確かめてから、臨床研究に入りたいと考えています。並行して消化管の上皮細胞の機能、幹細胞の性質や、潰瘍との関連性などから疾患の原因解明に迫るような研究を進めています。

聞き手:後輩や若手へのメッセージをお願いします。

岡本:消化管の幹細胞や再生に関する研究はこの10年ほどで大きく発展してきた分野です。そこで多くの日本人研究者が世界的な成果を挙げ、発展に貢献してきたことも特筆すべきことの1つです。基礎から臨床研究まで、より多くの若い先生たちに参加してもらい、共にこの分野を更に発展させることによって、患者さんに役立つ新たな治療を創ることを目指したいと思います。


取材日:2014年11月27日

岡本 隆一(おかもと りゅういち)氏の略歴

東京医科歯科大学・再生医療センター教授

1996年、東京医科歯科大学・医学部医学科を卒業。内科研修医、消化器内科医として東京・長野・千葉等の病院に勤務。2000年、東京医科歯科大学大学院に入学し、消化管上皮の再生・分化に関する研究にて同大学院を修了 (医学博士)。学術振興会特別研究員を経て、2007年より東京医科歯科大学大学・消化管先端治療学講座准教授、2014年4月より現職。

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