インタビュー『“未来”の担い手たち』

培養腸上皮幹細胞を利用した粘膜再生治療で炎症性腸疾患に挑む(1)-全2回-

岡本 隆一 氏

難病指定をされている潰瘍(かいよう)が治りにくい炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)は、国内では20万人をこえる患者さんがおり、従来は西洋で多い疾患と言われていたが、近年は日本を含むアジア地域でも増加傾向にある。治療には腸上皮の再生がポイントになる。東京医科歯科大学再生医療研究センター※1の岡本隆一教授は、診断でも治療でも積極的に活用されている内視鏡を使い、傷ついた腸上皮に体外培養した腸上皮幹細胞を定着させ、粘膜を再生させる治療法の開発に取り組んでいる。

写真:岡本 隆一 氏

岡本 隆一 氏

聞き手:なぜ消化管、特に腸管に興味をもたれたのですか。

岡本:もともと生物が好きで、当初は理学部で生物の勉強をしようと考えていました。結局、植物や昆虫などよりもヒトに興味が向いていたので、研究もしやすい環境ということで最終的には医学部に進みました。大学院に進んで専門を決める際、指導教官の渡辺守先生(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授)のご専門が腸管だったこと、治療にも診断にも役立ち、用途が広い内視鏡が利用できることから、消化器内科を選びました。

聞き手:特に内視鏡に注目されたのはなぜですか。

岡本:消化器内科で用いる内視鏡技術は、病気を発見したり診断したりするだけでなく、外科に近いような治療を行う時もあります。また、基礎研究とは異なる感覚と技術が必要とされ、そこに内視鏡の強みと面白さがあります。患者さんへの侵襲が少ない、比較的簡単な操作から、だんだん馴れてくると高度な治療を行う技術まで、操作の幅が広がってきます。自分が進歩していることを実感できる分野でもあります。

聞き手:内視鏡も進化を遂げているのですね。

岡本:私が学生の時と比べたら格段に技術的な進歩がありますよ。そのため診断学の進歩も著しい。昔は、患者さんの組織を取って顕微鏡で観察する病理検査をして、その結果でその組織が良性か悪性を判断していました。最終的に病理検査が重要であることは変わりませんが、今は内視鏡で観察するだけでも、かなり高い確率で良性か悪性かの判断ができるようになってきました。顕微鏡レベルで観察ができる内視鏡も開発されつつあります。治療に関しても、比較的大きな腫瘍でも早い段階でみつければ、お腹に傷をつけることなく内視鏡的に切除できる技術が普及してきています。※2

聞き手:東京医科歯科大学の消化器内科は『臨床も研究も共に一流』をモットーにしているようですが、臨床と研究の両立で大変なところは。

岡本:時間に制限があることや、臨床では患者さんの状態が最優先されるので実験で何か動いていても臨床業務を優先しないといけないことですね。渡辺先生が拠点長を務め、私も参画している科学技術振興機構(JST)の再生医療実現拠点ネットワークプログラムで取り組んでいる課題は、病気と直結している部分があるので、内視鏡でとった腸の生検組織を治療で利用したり、研究材料として用いる場合でも病院からすぐ研究室に持ち込むことができ、現場から研究室が近いというメリットを活かすことができます。治療現場から情報を得たり、検体から得られた問題から、研究テーマを見いだすこともあります。

聞き手:新たな治療法開発に取り組んでいる炎症性腸疾患について教えてください。

岡本:私たちの今回のプロジェクトは炎症性腸疾患のうち、潰瘍性大腸炎とクローン病という疾患を対象としています。10月末までの統計で、国内では潰瘍性大腸炎が16万6000人※3クローン病が3万9600人程度※3の患者さんがいます。年間1万5000人から2万人のペースで患者さんが増えています。先進国並みに衛生状態が整い、食生活が豊かになると患者さんが増える傾向があり、日本は欧米を追いかける形で増えています。腸内細菌が発症に大きく関わっていると考えられています。クローン病・潰瘍性大腸炎の患者さんは若年層が多いですが、潰瘍性大腸炎は高齢でも発症される方がいます。重篤だと大腸の全摘出など開腹手術が必要で、高齢だと救命できるかも問題になります。若い方の場合は病気とのつきあいが長くなるので、それも患者さんの状況によっては問題になります。

聞き手:潰瘍性大腸炎とクローン病の違いは。

岡本:病気が起こる場所、分布に違いがありますが、診断の鍵となるのは内視鏡診断とその際に採取される生検組織です。内視鏡で見た時に典型的なパターンが出ていれば、多くの場合は見分けがつきます。しかし非典型的なパターンだと、感染症や他の特殊な病態と見分けが付きにくい時があります。感染症と炎症性腸疾患では治療方法が全く違いますから、まず感染症でないことをきちんと見分けることが重要です。非典型的であれば、専門家でも判断がつきにくい場合があります。潰瘍性大腸炎とクローン病をきちんと見分けるため、疾患特異的なバイオマーカーを見つけようという試みもされています。どちらの疾患も遺伝的要因や環境、免疫学的要因など、複合的な要因で発症すると考えられています。

聞き手:この疾患には、どのような既存の治療法があるのですか。

岡本:昔ながらの薬がいくつかあって、例えば5-ASA製薬(サラゾスルファピリジン、メサラジン)は厚生労働省難治性疾患研究班の最新の治療指針でも軽症・中等症には先ず使うべき薬として挙げられています。またステロイド薬は悪くなった病態を落ち着かせる効果はありますが、落ち着いた状態を長く維持する効果は無いことが分かっています。最近は分子標的薬のTNF-α阻害薬が高い効果があることが知られるようになり、クローン病と潰瘍性大腸炎の治療薬として日本でも使われています。(参考:潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター※1

聞き手:これが効かない人に腸上皮幹細胞を移植するのですか。

岡本:昔ながらの治療薬や分子標的薬は必要ですが、この疾患は炎症とともに潰瘍ができます。腸の表面が痛んでただれるので、炎症を抑えて、痛んだ組織を修復する必要があります。多くの治療法では、炎症を抑えればその後は治るだろうということで、痛んだ組織を積極的に治そうということは、これまでの治療ではさほど考えられてきませんでした。
抗体製薬であるTNF-α阻害薬により炎症のコントロールで選択の幅が広がり、治療効果はあがってきましたが、長く良い状態を保つために目指すべきことは上皮を治す、すなわち「粘膜治癒」だということが多くの臨床例の経験から分かってきました。炎症は制御できていても回復しがたいような潰瘍に対して、体外で培養した腸上皮幹細胞の移植を試みようと考えています。潰瘍が1つとは限らないので、複数回の治療を考える必要があるでしょう。その場合、1回の移植手術で複数箇所を処置できると良いと考えています。

※1:東京医科歯科大学ホームページ
※2:日本消化器病学会ホームページ(医学用語集より)
※3:難病情報センターホームページ


取材日:2014年11月27日

岡本 隆一(おかもと りゅういち)氏の略歴

東京医科歯科大学・再生医療センター教授

1996年、東京医科歯科大学・医学部医学科を卒業。内科研修医、消化器内科医として東京・長野・千葉等の病院に勤務。2000年、東京医科歯科大学大学院に入学し、消化管上皮の再生・分化に関する研究にて同大学院を修了 (医学博士)。学術振興会特別研究員を経て、2007年より東京医科歯科大学大学・消化管先端治療学講座准教授、2014年4月より現職。

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