インタビュー『“未来”の担い手たち』

腎臓、膵臓、肝臓の再生に挑戦する(1)-全2回-

長船 健二 氏

「腎臓は病気でいったん壊れると再生しない。なぜだろう。」。長船健二さんがこの分野の研究者になるきっかけは、こんな疑問だった。腎臓内科医として難病に苦しむ患者さんを診療した臨床医時代を経て、本格的に再生生物学を学ぶため浅島 誠教授の門をたたいた。難題にも臆することなく真正面から挑む姿勢を貫き、腎臓のほか、膵臓、肝臓の再生でも注目すべき成果をあげている。

写真:長船 健二 氏

長船 健二 氏

聞き手:
再生には難物ぞろいの3臓器を、並行して研究されていますね。

長船:
研究員の約半分が腎臓、残りの半分ずつが膵臓と肝臓という人数比で研究を進めています。腎臓病に苦しむ患者さんの4割以上は糖尿病が原因です。よって、臨床的には、腎臓と膵臓の2つの臓器は切り離せない存在です。また、私が腎臓の再生研究に強い関心をもつきっかけの一つにもなった「常染色体優性多発性嚢胞腎」という難病では、肝組織も嚢胞化し、肝不全で命を落とす患者さんもいます。この病気を解決するには、肝臓についても研究する必要があると考えました。そうした動機が研究所の方針にも合致していたので、3つの臓器を対象に研究させていただいております。

聞き手:
これらの臓器の再生について、世界の研究の現状はいかがですか。

長船:
どの臓器も再生は容易ではありません。特に腎臓については、ES細胞からもiPS細胞からもその構成細胞を再生したという報告は非常に少ないです。膵臓や肝臓については、未熟な細胞を再生できたという報告が多数ありますが、未だに私たちの体の中の臓器が有する機能の一部を再現するものしかできていない現状です。

聞き手:
腎臓の再生を研究する人が少ない理由はなんでしょうか。

長船:
日本の透析患者数は30万人を超え、また、透析医療費は全医療費の4%を占めていますから、研究の必要性は極めて高いのですが、腎臓は他の臓器と比べ未解明な点が多いです。さらに、構造や発生機構が複雑ですから、再生医療の対象にはならないと思われがちです。果たして腎細胞を移植して治療できるのか。あるいは三次元の臓器まで作らないと治療に使えないのか。それもわかっていません。難しそうだと思い込んで、敬遠する人が多いのだと思います。しかし、私は研究を始めた当初から現在まで、そして、今後も腎臓再生を研究していくつもりです。その方針は全くぶれていません。
腎臓の再生を考え始めた頃には、どのように研究を進めたらよいか全く想像もつきませんでした。しかし、まず腎臓の発生機構を勉強し、そのプロセスを模倣して本物と同じものを作りたいと考えまして、東京大学の浅島先生のもとで発生生物学から勉強することにしたのです。

聞き手:
お医者さんが、あらためて理学系の大学院で発生生物学を勉強するのは、勇気もいるし、いろいろ苦労もあったのではありませんか。

長船:
当時勤務していた兵庫県の病院で『未分化細胞からの臓器形成』というタイトルの浅島先生の講演の広告を偶然見つけ、その日、仕事を早く終わらせて京都まで聞きにいきました。御講演を拝聴し「自分が探している研究はこれだ!」と思いました。そして、どうしてもその研究がしたいという気持ちを抑えられなくて、講演が終わった後に講師控え室の前で待ちかまえ、当時面識もなかった浅島先生に「大学院に入れて下さい。」と直訴してお願いしたのです。浅島先生は、増殖因子アクチビンを使って試験管内でカエルの未分化細胞から腎臓を作ることにすでに成功しておられました。

写真:長船 健二 氏

大学院の博士課程に入れていただきましたが、私は医学部を卒業しさらに臨床医を4年間やった後で、すでに29歳でした。周囲の理学部卒の学生よりだいぶ年上ですし、正直なところ将来に不安もありました。それから、大学院生として3年間、ポスドクとして2年間お世話になり、この間に主にマウスES細胞から腎臓を作る研究をしました。その後、ハーバード大学メルトン先生のもとへ留学を勧めてくださったのも浅島先生でした。
メルトン研究室の研究対象は腎臓ではなく膵臓の再生でしたので、留学を勧められた際には少し悩みましたが、腎臓より進んでいる臓器で再生研究の戦略と方法を学んでおけば腎臓へも応用できるだろうと考えて渡米を決心しました。私が留学するちょうど前の年に、メルトン研究室で17株のヒトES細胞が樹立されたところでした。当時は、ブッシュ政権の方針にて国の研究費を使ってヒトES細胞の研究をすることが難しい状態でしたが、メルトン先生が独自に資金を集めてヒトES細胞研究を進めておられたのはよく知られたエピソードです。私は、メルトン研究室ではじめてヒトES細胞を分化誘導した1人になりました。

聞き手:
ヒトES細胞を扱う難しさはどんなところでしたか。

長船:
マウスに比べて増殖に時間がかかることと、マイコプラズマなどの感染に弱いことです。さらに、後でわかったことですが、細胞株によって性質のバラツキがかなりあって実験は難しかったです。


インタビュアー:古郡 悦子
取材日:2012年1月17日

長船 健二(おさふね けんじ)氏の略歴

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)増殖分化機構研究部門 准教授

1971年兵庫県生まれ。1996年京都大学医学部卒業。腎臓内科医。2003年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。2000~05年東京大学浅島 誠教授のもとで腎臓の発生と再生を研究。05~08年ハーバード大学幹細胞研究所Douglas A. Melton教授のもとでヒトES細胞とiPS細胞を用いた膵臓再生を研究。08年より京都大学iPS細胞研究所所属。

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