iPS細胞研究の展開

第10回 iPS細胞研究の臨床応用へ向けた、倫理的、社会的な課題

掲載日:2011年3月24日

iPS細胞研究においては、制度面での課題、また、新たな倫理的、法的、社会的な課題が指摘されています。研究を進めるにあたっては、これらの課題についても、解決を図っていく必要があります。

制度面での課題

日本においては、iPS細胞を含め幹細胞を使った臨床研究の指針が固まっていません。
現段階では、厚生労働省はiPS細胞を利用する細胞移植は、もととなるiPS細胞の提供者本人に限るとする指針の改正案をまとめていますが、これでは、本人以外の細胞を利用しようとする医療用iPS細胞バンク構想と矛盾してしまいます。基礎研究が進み、いざ臨床応用への道がみえてきても先に進めないということが起こりかねません。
研究の進展、状況などを見据えて、制度を整えていく必要があるでしょう。

iPS細胞の倫理的な課題

iPS細胞は、ES細胞に比べ倫理的な問題が低い(受精卵を壊す必要がない)ことがメリットとして挙げられていますが、一方で、その使用にあたっては、新たな倫理的課題が指摘されています。

まず、iPS細胞の安全性や能力を調べるために、動物への移植実験を行うことについて、ヒト由来の細胞が動物の生体内で神経等の組織を形成することに対して倫理的な問題が浮上しています(ヒト-動物キメラ体作製の可能性)。同様に生殖細胞への分化誘導や、その後の研究利用についても倫理的な問題への対応が必要と考えられていますが、日本では、文部科学省 科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会等において検討の結果、発生、分化、再生機能の解明や、診断、治療法の開発など、基礎的研究を目的として一定の要件を満たす場合に限ることとする最終方針を、この5月に公布しています。

iPS細胞をめぐる社会的な課題

iPS細胞をめぐる社会的な課題としては、まず、プライバシーの問題が挙げられます。
iPS細胞は提供者のすべての遺伝情報を持っています。この情報の流失を防ぐためには、匿名化することが必要となりますが、バンクへの利用などの目的によっては、提供者の健康状態等を観察していく必要もあるため、完全な匿名化は難しいと考えられます。
また、細胞の提供後に、研究を進めていく際に偶然に何らかの病気になる可能性が見つかる場合も出てきます。これを細胞を提供した本人にどう告知するか、さらにこれは、提供者本人だけではなく、その家族も同じ病気になる可能性がある場合もあります。

以上のことなども踏まえ、提供にあたっては提供者に同意を得る(インフォームド・コンセント)必要があります。同意を得るにあたっては、場合によっては提供者が望まない研究(動物への移植等)もあると考えられるため、研究目的、範囲についても説明が必要となります。

さらに、提供した細胞による研究成果をもとに経済的な利益が出た場合には、その一部を手にする権利を提供者は主張できるのかという問題も考えられています。アメリカでは提供者の所有権は認められないという判例が多く出されていますが、法体系が整備されてはおらず、混乱した状態が続いています。
これらの問題解決には制度面の整備が必要となります。政府による指針の作成、研究現場での検討に加え、市民の意見を取り入れながら、ルール作りが求められています。

図:iPS細胞をめぐる社会的な課題
iPS細胞をめぐる社会的な課題

iPS細胞はその可能性の大きさゆえに、科学の分野のみならず、社会にも大きな影響を与える存在となっています。これは、世の中の期待の大きさも表している証ともとれます。
今後も新たな課題に直面していくと思われます。
急速に進んではいますが、iPS細胞研究はまだまだ始まったばかりです。実用化へ向けて、iPS細胞の選別、品質管理、バンク設置による安定供給、疾患の原因解明、創薬スクリーニングへの利用、等が大きく動き始めています。今後の動向がますます注目されます。

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