iPS細胞研究の展開

第8回 再生医療への応用へ向けて

掲載日:2010年11月9日

iPS細胞研究において、病気やけがで失われた身体の機能を修復、回復させる再生医療への応用は、世の中の大きな期待を受けている分野です。今回は、慶應義塾大学の八代嘉美先生のお話を交え、iPS細胞研究の再生医療への応用へ向けた課題についてみていきます。

分化誘導と純化

iPS細胞を機能が失われた部分の細胞に分化させ移植することで機能の回復が期待できます。
たとえば、心筋細胞の壊死が原因となる心筋梗塞は、壊死した部分にiPS細胞から分化させた心筋細胞を移植すれば、機能の回復が望めます。膵臓でのインスリンの分泌低下によって起こる糖尿病は、膵臓でインスリンを作るβ細胞を作って移植することで治療できると期待されています。このような治療を実現するためには、まず、iPS細胞を目的の細胞に効率よく分化させること(分化誘導)、分化した細胞だけを移植用に取り出すこと(純化)が必要となります。

これまで、iPS細胞を、神経、心筋、網膜、血管、腸管など様々な細胞、組織へ分化させることに成功した例が報告されています(iPS細胞物語第12回参照)。一方で、器官(臓器)の細胞にはなりづらいということがわかってきています。これについて八代先生は、「皮膚の細胞から初期化を伴わずに神経細胞に分化させたという例があり、もととなる細胞によって目的とする細胞への分化のしやすさに違いがある可能性がある」と述べています。
先に触れた(iPS細胞研究の展開第4回)iPS細胞の初期化の程度が分化誘導に影響をもたらしているのではないかと考えられます。目的とした細胞ごとに、もととなる細胞の選択が必要となるのかもしれません。
また、細胞の中に分化しきれなかったiPS細胞が残っていると、腫瘍(奇形腫)の原因となります。分化しきれなかった細胞を識別し、取り除く(純化)技術の開発も課題となっています。

図:iPS細胞を利用した臓器再生医療のイメージ
iPS胞を利用した臓器再生医療のイメージ

どのように移植するか

分化誘導の後には、どのような形で移植するかを考える必要があります。
血液系や神経系は分化誘導ができれば必要とされる局所へ移植できますが、他臓器は移植に適した3次元的な構造などの形態を整えることも必要となります。

移植用の形作りとして、現在は、分化させたiPS細胞の塊をシート状にして機能が損なわれた部分に移植する方法の開発が進んでいます。究極的には、iPS細胞から臓器を作って移植する可能性も考えられますが、臓器は多様な細胞から成り立っているため、3次元の構造を人工的に再現することは困難だとされています。
八代先生は、「臓器を、限られた空間の中で人工的に再現することはまだ難しいだろう」と述べています。そのため、細胞シートを重ねて立体構造を作る試みや、人工物でまず形を作り細胞をコーティングして機能を持たせる(ハイブリッド臓器)といったアプローチが考えられています。
臓器を丸ごと作って移植するにはまだまだ時間がかかりそうですが、八代先生は、「(立体構造の形成を伴わない)血小板、皮膚、網膜、神経などは比較的臨床応用の実現が早いと考えられる」と述べています。

様々な課題もありまだまだ時間が必要ですが、iPS細胞の登場は再生医療研究を大きく加速させ、可能性を大きく広げています。日々進む研究がその実現に向けて、より短期間に実を結ぶことが期待されます。

次回は、iPS細胞を臨床応用に向けて有効に用いるために整えられつつあるiPS細胞バンクについて紹介します。

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