iPS細胞研究の展開

第5回 創薬研究・疾患研究への応用1. -創薬の効率化、向上へつながる道-

掲載日:2010年8月6日

iPS細胞の医薬品の研究開発(創薬)・疾患研究への応用には、大きく分けて2つの道筋が考えられます。1つは、これまでの創薬過程の効率化、向上につながる道、もう1つは、病気のしくみを解明し、これまでとは違う新しい治療、創薬につながる道です。これらの応用は、移植などの臨床応用よりも早期の実現が期待されています。
今回は、これまでの創薬過程におけるiPS細胞の応用について、アステラス製薬(株)の中島秀典氏のお話を交えてみていきます。

創薬の問題とiPS細胞への期待

近年、医薬品の研究開発(創薬)にかかる費用は大きく増す一方で、承認に至る割合は下がっています。その割合は、約2万分の1という数字も出されています。その大きな原因として、創薬初期の過程においては、主に動物を用いる試験が行われており、どうしてもヒトでの結果に違いが出てしまうということが挙げられます。ヒトiPS細胞を用いることで、創薬の早い段階からヒトへの毒性や効果を調べることができ、創薬の効率アップや向上が期待されています(iPS細胞物語第10回参照)。

薬剤の安全性について、心筋の細胞に分化させたiPS細胞を用いる試験方法の研究が進んでいます(iPS細胞物語第10回参照)。
品質の安定したiPS細胞から高効率での心筋細胞への分化誘導方法が構築され、心筋細胞の大量供給体制が整いつつあり、また、既存の薬剤での検証も進められ、実用化へ近づいています。また、創薬の最初の段階である化合物の探索は、病気の原因となる分子を標的として、あらかじめそれに効くと思われる化合物を絞っていき、そして実際に分子修飾を試してさらに絞り込んでいくという過程を経ます。これまでこの段階では、主に動物由来の細胞で行われていますが、ヒトiPS細胞を用いることで、最初の段階で効果的な化合物の絞り込みができ、開発スピードの向上が期待できます。

iPS細胞利用への熱意

これまでもヒトから採取した細胞も利用されてきましたが、日本においては、規制により入手が困難なこと、しかし結果を見極めるためには多くの人々の細胞が必要となることなどの問題があり、あまり有効ではありませんでした。また、ヒトES細胞での研究も行われてはきましたが、「日本では非常に限られた利用しかできないため、主に国家プロジェクトに参画するかたちで大学等との共同で基礎研究を行う段階にとどまっていた」(中島氏)という状況でした。そこにiPS細胞が登場し、製薬企業でのヒト細胞を用いた独自の研究開発への道が拓けてきました。「欧米では、ES細胞とiPS細胞の両方を用いて目的に合った方法が模索されています。日本では、ES細胞は自由に使うことができない状況もありながらも、日本発の研究であるiPS細胞を用いての研究開発を進めていこうという熱意が欧米より強い。」と中島氏は述べています。創薬の効率の向上、コストの削減によって、私たちは安価でより安全な薬を手にすることができるようになることが期待されます。iPS細胞利用への熱意が実を結ぶことが待たれます。

図:創薬過程でのヒトiPS細胞利用
創薬過程でのヒトiPS細胞利用

創薬過程におけるiPS細胞利用への課題

iPS細胞利用による創薬の効率向上が期待される一方、新たな問題も考えられています。創薬過程においては、様々な試験項目が規定されています。それに新たにiPS細胞による試験項目が追加されてしまったのでは、かえって薬ができるまでの時間がかかってしまうし、費用もかかるという懸念があります。中島氏は、「これまでの試験項目のうちiPS細胞での試験に置き換えられるものについては、それだけでよいようにするなど、新たな基準づくりが必要。」と述べています。研究と同時に、実用化に際してのルールづくりも進めていくことが求められています。

次回は、iPS細胞の創薬・疾患研究利用のもう1つの道、疾患のしくみを解明し、新たな治療法の開発へつなげる取り組みについてみていきます。

関連動画

動画一覧を見る

ページトップに戻る

おすすめ動画

関連動画

  • 文部科学省
  • 科学技術振興機構
ページトップに戻る