iPS細胞研究の展開

第4回 初期化のしくみの謎

掲載日:2010年7月27日

iPS細胞は、一度分化した細胞(体細胞)に、初期化因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を導入し、未分化の状態に戻す(初期化、リプログラミング)ことでできる細胞ですが、初期化因子がどのように働き、どのように初期化が起きるのかについては、まだ謎が多く残されています。この謎解きは、iPS細胞の最適な作製方法の確立、作製効率の向上へつながるだけでなく、再生医療、そして、私たちの身体ができるしくみの解明にもつながっていきます。今回は、ES細胞の多分化能の維持(刺激に応じた分化の方向へ進むまでの間、未分化な状態を維持すること)のしくみについての研究を重ねてきた理化学研究所の丹羽仁史先生の話を交えて、初期化のしくみの謎に迫ります。

転写因子のネットワーク

iPS細胞の初期化のしくみについてみていく前に、私たちの身体の成り立ちについて簡単にみていきましょう。
私たちの身体は、受精卵から様々な機能を持つ細胞に分化していった細胞で構成されています。その細胞の種類は、約270種類あると言われ(iPS細胞物語第2回第3回第4回参照)、それぞれの細胞への分化は、特定の転写因子によって決められています。
その転写因子を決めている遺伝子は約2,000個と言われており、この数字から、1つの細胞の種類を決める転写因子の数は、10~15程度ではないかと考えられています。転写因子は、それぞれ固有の働きと他の転写因子と協調しての働きを持ち、それゆえ、1つの転写因子が複数種類の細胞の分化にかかわっていると考えられています(パートナーを代えて違う働きをする様子をパーティー会場でダンスをする相手を代えていく様子にたとえて「カクテルパーティーモデル」として提唱されています)。

初期化の鍵を握る「Oct3/4」

これまでの研究で、c-Mycについては、iPS細胞の作製効率に関与している可能性はあるものの、体細胞の初期化には必須ではないことがわかっています。また、Sox2、Klf4についてもそれらを導入せずにiPS細胞の作製に成功した報告例があり、初期化のしくみの鍵を握るのは、Oct3/4だと考えられています。とはいえ、Oct3/4だけが初期化にかかわっているわけではなく、上述したように、他の因子と協調することで、初期化がなされていると考えられています。

Oct3/4は、Sox2と協調して標的遺伝子の転写を活性化することが知られています。これまでのES細胞の多分化能に関する研究から、初期化誘導におけるKlf4の役割は、Oct3/4とSox2の標的遺伝子を協調して活性化すると考えられています。また、Sox2の固有の役割としては、Oct3/4の発現を維持することだと考えられています。こう考えると、Oct3/4、Sox2、Klf4の初期化における役割は、Oct3/4による標的遺伝子の発現制御に集約されると考えられます。

体細胞を初期化する方法は、未受精卵への「核移植」、ES細胞との「細胞融合」、「iPS細胞の作製」の3つがあります。 これらの方法で作られた細胞に共通しているのは、Oct3/4が再活性化していることです。 一方、Oct3/4が活性化するタイミングには違いがあり、核移植では4~5時間、細胞融合では24~48時間、iPS細胞の作製では10~14日間であることがわかっています。このことからもOct3/4が体細胞の初期化に大きな関与をしていることがわかります。

丹羽先生は現在、「Oct3/4を中心としたネットワークの1つ1つの働きをみている段階」で、その詳細が徐々に明らかになることで、初期化のしくみの謎に1歩1歩迫れると考えらます。

2段階の初期化

iPS細胞の作製効率が高くないことや、ES細胞との能力の差については、初期化の程度が影響している可能性が指摘されています。発生の過程では、生殖細胞の形成過程で起こる「生殖細胞型初期化」、受精直後から着床初期に起こる「初期胚型初期化」の2度の初期化が起こることが知られています。iPS細胞はそのうち初期胚型の初期化のみが起こっている一方で、ES細胞は両方の初期化が起こっています。初期化は、もとの細胞の記憶の消去と言い換えられ、ゼロからスタートする場合と、ほんのわずかでも過去の記憶が残っている場合とでは、分化の能力に差が出るのではないかと考えられています。そのため、iPS細胞の作製過程で起こる初期胚型の初期化に加えて、生殖細胞型の初期化についてもそのしくみの解析が必要であると考えられています。

2段階の初期化

実用化への取り組みと初期化のしくみの解明

丹羽先生は、「実用化へ向けては、初期化のしくみが全解明されるまで必ずしも待つ必要はない」と述べています。
むしろ、先に紹介したように、培養法や保存法の向上により実用化は進むと考えられます。一方で、作製効率の向上を考えた場合は、初期化のしくみの解明が必要なことも指摘されています。様々な取り組みが並行して進められ、理解が蓄積されることで、実用化へ向けた取り組みが加速していくのだと思います。

次回は、創薬研究、病気の解明へ向けた取り組みについて、アステラス製薬(株)の中島秀典先生の話を交えてみていきます。

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