iPS細胞研究の展開

第3回 よりよいiPS細胞を求めて -標準化への課題-

掲載日:2010年7月16日

前回、iPS細胞の標準化の必要性について見てきました。今回は、京都大学の高橋和利先生のお話を交え、標準化、そして実用化へ向けた課題について見ていきます。
iPS細胞の標準化=標準iPS細胞の確立のためには、いかに安全で品質の高いiPS細胞を作るかが課題となります。そして、それを利用していくためには、安定した供給、維持・管理方法の確立が求められます。

PS細胞をどう作るか -作製法の課題

iPS細胞の大きな問題は、がん化の危険性があることです。その原因として、初期化因子のうちのc-Mycががん遺伝子であること、細胞の中に初期化因子を運ぶためにレトロウイルスを使うこと(ウイルスの遺伝子がもととなる細胞のゲノムに組み込まれ、その結果何らかの悪影響を及ぼすことで、がんを引き起こす危険性がある)が指摘されていました(iPS細胞物語第8回もっと知るiPS細胞参照)。現在では、c-Mycを使わない方法や、もとの細胞のゲノムに影響を与えない方法が開発されています。一方で、c-Mycを使わない場合、使った場合に比べて、作製効率が落ちる、時間がかかる、能力が劣る(生殖細胞に分化できない)といったことがわかっています。また、もとの細胞のゲノムに影響を及ぼさない方法で作ったiPS細胞の中にもがん化するものがあることもわかっています。また、前回も触れましたが、作製法によってiPS細胞の性質や能力にばらつきがあること、さらに、同じ細胞から同じ方法で作ったiPS細胞同士にもそのばらつきがあることがわかっています。そのばらつきは、一度分化した細胞を強制的に未分化の状態にする(初期化)すること自体による、もしくは、それぞれの細胞の初期化の過程の違いによるのではないかと考えられていますが、初期化のしくみはまだわからないことが多く残されています(これについては、次回紹介します)。製品として供給するためは、安全性が確保され(がん化の危険性が低く)、品質が保証され(ばらつきがない)なければなりません。現在は、世界各地で様々な作製法が試みられている段階ですが、今後、「様々な方法で作られたiPS細胞を多く集め、同時に比較検証することが必要」と高橋先生は述べています。その中で、安全で高品質なiPS細胞(=標準iPS細胞)の作製方法が見極められてくると考えられます。

iPS細胞をどう見分けるか -評価法

標準化の目的として、「品質の安定・向上」「安全・衛生、健康・生命の保護」「消費者、共同社会の利益」「コストの低減」「能率の向上」、などが挙げられます。
iPS細胞の標準化が急がれる理由について、これらの目的と照らし合わせて見ると理解がしやすいと思います。

できたiPS細胞すべてが等しい割合でがん化の危険性を持つのではなく、がん化しにくい良い細胞と、がん化する可能性の高い悪い細胞があることがわかっています。それらは見た目では判断がつかないのです。そのため、これまで主に、分化させたiPS細胞をマウスに移植して腫瘍化するか否かを見たり、iPS細胞から作ったキメラマウスに腫瘍ができる、または何らかの異常により死亡してしまうか否かを見るという、とても時間のかかる方法で安全性の検証が行われてきました。現在はそれに加え、試験管内で分化させて、生体内に入れる(移植する)前に安全性を評価する方法が試みられています。「今後、マウスを使った実験結果と試験管内での結果の比較をしていく」(高橋先生)ことで、移植する前に安全性を確認する方法の確立が目指されています。

よりよいiPS細胞を求めて − 標準化への課題

iPS細胞をどう育てるか -培養法、保存法

作製法の模索と同時に、iPS細胞をどう育て、守っていくかも重要となります。「培養法も保存法もまだ未熟」(高橋先生)な状態であり、その改善が課題となっています。細胞は分裂を繰り返して増えていくわけですが、その過程では悪い細胞ができてしまうこともあります。そして、一度悪い細胞ができてしまうとそれがどんどん増殖し、悪い細胞だけが残ってしまいます。現在の培養技術ではそれを抑えることがまだ難しいのです。「いかに良い細胞を維持していくか」(高橋先生)が培養法の課題となっています。また、マウスES細胞の研究において、培養条件を変えたら悪い細胞をよい細胞に変えることができたという報告例があることから、「iPS細胞においても、多少作り方が悪くても、よい培養条件を整えることで、品質をよくしたり、均質に整えることができるのではないか」(高橋先生)と考えられ、作製法の問題が培養法の開発によって解決する可能性もあるのです。高橋先生は現在、培養法の開発を重要視しているとのことです。

iPS細胞の保存には、凍結保存法が用いられています。
凍結保存の問題として、一度凍結してもとに戻した際の生存率が低いことが挙げられます。最初の凍結で生き残った一部の細胞を再び凍結し、またもとに戻す(融解)と、今度は生存率が上がります。すなわち、最初の凍結に耐えた細胞は強い細胞だということがわかります。凍結−融解を繰り返すたびに、弱い細胞は淘汰され、強い細胞が残っていくことになりますが、「強い細胞は悪い細胞かもしれない」(髙橋先生)のです。生き残った細胞の検証が必要となりますが、同時に、細胞が死滅しないような凍結法、弱い細胞(=良い細胞かもしれない)がより多く生き残ることができる方法の 開発が課題とされています。

高橋先生は、現在iPS細胞は「チューンアップしている段階」と述べています。課題は多いですが、そのクリアへ向けて、iPS細胞研究は着々と歩みを進めているようです。

次回は、理化学研究所の丹羽仁史先生のお話を交え、初期化の謎について見ていきます。

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