iPS細胞研究の展開

第2回 iPS細胞の標準化 -なぜ標準化が必要か-

掲載日:2010年7月9日

iPS細胞の実用化へ向けての課題として真っ先に挙げられるのは、その「標準化」です。
文部科学省が作成した『iPS細胞研究ロードマップ』(PDF) newUp(2110,5,25,"pdf")においても「喫急に対応すべき重要な課題」とされています。
ここでは、なぜiPS細胞の標準化が急がれるのかについて見ていきたいと思います。

標準化とは

日本の工業製品の規格(JIS)審議する機関である日本工業標準調査会によれば、標準化とは、「自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化する事柄を少数化、単純化、秩序化すること」とあります。 とえば、車の操作方法が車種ごとに違っていたり、パソコンのキーボード配列がメーカーごとに違っていたりしたら、買い替えるたびに操作方法を覚えなければならず、大変不便です。そのようなことがないように製品には、規格、一定の基準が設けられています。そのため、私たちが手にする製品は、個々に機能の差はありますが、一度使ったことがあるものであれば、説明書を読まなくてもおおよそ使えるようにできています。また、製品を開発する側にしても、新製品を作るにあたって、似たような製品の部品や基板などがある程度定まっていれば、それらの開発の時間が省け、機能面など付加の部分の開発に多くの時間を割くことができます。

このように、標準化とは、規格、基準を設けることで、その結果、誰もが、最初からいちいち考えなくても、すばやく処理ができ、一定の水準の結果も期待できるようになります。
身近なところでは、通勤・通学のルートをいろいろと変えてみて最短ルートを探すこと、仕事の手順をマニュアル化すること、台所の調味料の位置を使いやすいように配置することなども広くは標準化の一例と言えるでしょう。私たちは意識せずに生活の中で絶えず標準化を試みているとも言えるのです。

iPS細胞の標準化が急がれるわけと標準化への課題

iPS細胞の標準化が必要な理由と課題

標準化の目的として、「品質の安定・向上」「安全・衛生、健康・生命の保護」「消費者、共同社会の利益」「コストの低減」「能率の向上」、などが挙げられます。
iPS研究を加速するためには、世界中の何処の研究室においても同等の品質を保持するiPS細胞を効率よく作成することが求められます。それを可能にするためにはiPS細胞の培養法、作成法、分化方法だけでなく、保存、管理についての世界的な標準化が必要であり、また、それを評価する方法と基準についても早急に整備する必要があります。

現在、世界各国で、様々な細胞、様々な方法を用いてのiPS細胞樹立成功例が報告されていますが、それぞれのiPS細胞が同じ性質や能力を持つわけではないことがわかってきています。また、同じ細胞から同じ方法で樹立したiPS細胞も個々を調べると、性質や能力に違いがあることもわかってきました。つまり、品質が安定していないということです。品質を安定させるためには、作製法や培養法、保存法の確立が必要となります。 らに、それら個々のiPS細胞が良い細胞(がん化などのリスクが少ない)なのか、ヒトへの応用には適切でない細胞(リスクが高い)なのかを、生体に導入する前に見極める方法が定まっていません。つまり、評価法がまだ確立されていないわけですが、品質の向上のためには、良品か不良品かを見分ける評価法が定まらなければなりません。実用化へ向けては、品質が安定していて、リスクが少ない細胞の供給が必要となります。

これは、「品質の向上・安定」「安全・衛生、健康・生命の保護」「消費者、共同社会の利益」につながります。また、組織や臓器への分化など、応用研究の成果も多く報告されていますが、上記のことから、その結果は、実験に使ったiPS細胞がたまたま適合したという可能性を否定できません。
そのため、iPS細胞の規格が定まっていない(標準化されていない)現状では、結果の検証には、様々なタイプのiPS細胞での実験が必要となるでしょう。これでは、研究に手間も時間も費用もかかってしまいます。 「この応用にはこのiPS細胞を使えば結果が保証される」というものが供給できるようになれば、「コストの低減」「能率の向上」が実現できるでしょう。応用研究の進展を促すためにも、研究の裾野を広げるためにも、標準化が必要となるのです。

iPS細胞の標準化が必要な理由を駆け足で見てきました。
次回は、iPS細胞の生みの親の一人である京都大学の高橋和利先生に伺った話を交え、標準化への課題、それを克服するための取り組みについて紹介します。

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