イベント報告

再生医療実現拠点ネットワークプログラム・平成26年度公開シンポジウム

2015年1月21日 ベルサール新宿グランド ホール

掲載日:2015年2月26日
(独)科学技術振興機構 再生医療研究推進部

わたくしども科学技術振興機構(JST)再生医療研究推進部が主催する『再生医療実現拠点ネットワークプログラム・平成26年度公開シンポジウム』を1月21日水曜日、ベルサール新宿グランド ホールで開催しました。インターネット中継の視聴者も含め、当日は1000人程度の方々が参加してくださいました。

一般の方々向けのシンポジウムとしては、一昨年8月の同プログラム・キックオフシンポジウム以来の開催となります。その間、多くの研究成果がうみだされました。昨年には、世界に先駆けて加齢性黄斑変性(AMD)に対するiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞の移植手術が行われるなど、再生医療の実用化に向けた知見を積み重ねています。本イベントは、再生医療研究の現状を広く国民の皆様に理解していただくことを目的に、直接研究者に質問できる、研究者にとってもより多くの患者さんからの意見を聞ける貴重な機会となっております。

中村道治・JST理事長は冒頭の挨拶で「昨年度からJSTにおいてiPS細胞等を使った再生医療について日本の優位性を活かし、世界に先駆けて臨床応用する研究開発を支援してきました。iPS細胞等を用いた再生医療の実現、創薬への応用に向け、様々な研究が展開されており、着実に成果が出ていると認識しています。今年4月には日本医療研究開発機構が発足します。医療分野の基礎から実用化に至るまで一貫した研究開発を推進して環境整備を行い、今まで以上にオールジャパン体制で再生医療を支援できるものと期待しています」と話しました。また、藤井基之・文部科学副大臣は挨拶で「この事業は、アベノミクスの第三の矢に当たります。平成25年に安倍総理は、再生医療を実現するために10年間で1100億円を拠出すると言及しました。昨年9月にはiPS細胞を治療に用いた初のヒトに対する臨床手術が行われ、新しい段階に入りました。山中先生をはじめ、最先端の研究をしている先生方が集まりました。最新の研究成果および幹細胞、再生医療研究が臨床応用に向けて進んでいる状況について広く国民の皆様に知っていただきたいと思います」と話されました。その他、文部科学省、厚生労働省、経済産業省などから関係者も多く出席しました。

運営統括である齋藤英彦・国立病院機構名古屋医療センター名誉院長は同プログラムの概要について紹介しました。その中で「iPS細胞は日本で発明されたオリジナルな技術。そのアドバンテージを活かして、迅速な臨床応用を目指した研究開発を進めています。このプログラムはその中心をなすものです。この10年後には、多くの分野にて臨床研究まで到達する予定です。今後ますます、グループの中で、協力・連携を密にして、1日もはやい臨床応用を目指します」と話しました。

山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所(CiRA:Center for iPS Cell Research and Application)所長(教授)は、医療用iPS細胞ストック開発拠点について紹介しました。「免疫型すなわちHLA(ヒト白血球抗原)でも、移植しても拒絶反応が出にくいと考えられる特殊な型を見つけ、それを増やして医療用iPS細胞のストックを作ることを目指しています。平成34年までには日本人の大半をカバーできるような、複数のHLAを取りそろえようと考えています。あらかじめ細胞を作っておくことで、細胞の品質管理を適切に行うことができます。今は治せない病気や怪我を、医療用iPS細胞ストックを利用して治療していきたいと考えています」と話しました。

山中所長

山中所長

髙橋政代・理化学研究所多細胞システム形成研究センタープロジェクトリーダーは、AMD治療の開発について語りました。「iPS細胞を使った臨床手術を世界で初めて実施することができました。移植した網膜色素上皮細胞は、目の奥にある一生置き換わらない細胞です。老化に伴い、新生血管ができると網膜を傷つけてしまいます。私たちは、悪くなった網膜色素上皮の代わりにES細胞やiPS細胞から作った網膜色素上皮を移植するための研究を平成12年から行っています。安全性の試験も念入りに行っており、これまでの結果から網膜色素上皮細胞に分化すれば腫瘍化しないことがわかっています。海外ではES細胞をiPS細胞に置き換えただけではないかという評価もあります。一方で、患者さん由来のiPS細胞を用いると良いことは、副作用が出る免疫抑制剤を使わないことです。再生医療は、道具も移植方法も評価も一から作らないといけない分野です」と語りました。

髙橋プロジェクトリーダー

髙橋プロジェクトリーダー

澤芳樹・大阪大学大学院教授は、iPS細胞を用いた心筋再生治療創成拠点の試みを紹介しました。「私たちは、足の筋肉の細胞をシート状にして重症心不全の患者さんに移植する臨床試験を行っていますが、この細胞自体に限界があり、有効な患者さんと無効な患者さんがいらっしゃいます。足の筋肉の細胞は心筋とは異なり、心臓と一緒に動かないことが理由だと考えます。一方で、iPS細胞由来の心筋細胞は、マウスに移植すると元の心臓と一緒に動くようになります。実際に分子レベルでも心臓と同期していることがわかりました。動物実験では、ヒトiPS細胞由来心筋を大型動物に移植後、心機能の回復がみられました。現在は、ヒトへの応用のため、安全な心筋細胞を大量に培養する技術開発を行っています」と話しました。

澤教授

澤教授

谷口英樹・横浜市立大学大学院教授は、iPS細胞を用いた代謝性臓器の創出技術開発拠点の試みを紹介しました。「肝臓は絶対的なドナー不足が問題で、移植を待ち望む患者は毎年増えています。移植医療の代替手法の開発と、臓器を作る研究というのが非常に重要な開発課題になっています。私たちは、異なった細胞がコミュニケーションして臓器を創ることに注目しました。臓器の芽すなわち肝臓原基(肝芽)の創出を目指しました。これは、iPS細胞から分化させた肝細胞の元となる細胞と間葉系細胞、内皮細胞を混ぜると、自立的に肝芽できて、内部に血管をもった構造体となります。肝不全モデル動物に、肝芽を移植すると治療効果があることがわかりました。先天性尿素サイクル異常症を臨床研究の対象にすることにしました」と語りました。

谷口教授

谷口教授

江藤浩之・京都大学CiRA教授は、iPS細胞技術を基盤とする血小板製剤の開発について紹介しました。「私たちの体の中では、毎日1兆個を超える血液細胞が作られています。心臓手術や癌治療、その他大きな出血を伴う手術には輸血が必要となりますが、2027年には必要量の2割が足りなくなるという推計があります。骨髄の中にある造血幹細胞から血小板を作る研究が世界中で進められていましたが、造血幹細胞を体外で増やすことは難しいことがわかっています。そこで、私たちはiPS細胞の技術を使って、少量の血液から血小板の元になる細胞(巨核球)を大量に作る技術を研究しています。この巨核球は、凍結保存することができ、また、安全性が担保された状態で培養することができる細胞です。現在、安全性や有効性を動物で検討中です」と語りました。

江藤教授

江藤教授

続くパネルディスカッションでは、講演者に加え、武藤香織・東京大学医学研究所教授も登壇しました。再生医療の普及のための課題はという問いに対しては、山中教授が「対象になる疾患によって異なります。また、安全性をどう担保するかが問題。心筋や血小板は大量培養が必要ですが、その分、リスクもあがります。その中で、コストダウンをいかに図るかが大事ですね」と話しました。iPS細胞の腫瘍化リスクについて、髙橋プロジェクトリーダーが「網膜については初めから腫瘍の懸念はありませんでした。網膜色素上皮はもとから腫瘍ができません。つまりリスクが低いのです。iPS細胞=危険ではなく、分化した細胞ごとにリスクが異なります。危険なイメージが普及を妨げていると思います」とし、山中教授も「対象疾患でリスクが異なります。例えば血小板は核がないので、腫瘍が起こりえない。いまのところ、安全性に物差しがない。検査はできますが、再生医療現場で、安全性に対して物差しを作る努力は、しばらく続くでしょう」と話しました。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

また、武藤教授は「再生医療の倫理については、未知の部分があります。その1つは、細胞提供者の権利をいかに守るかという課題です。もう1つは、研究開発の段階で患者さんが研究と治療の誤解をなくすことです。私たちは、研究者と患者さんの対話のお手伝いをしたいと考えております。一緒に手を取り合って、再生医療を進めることが重要です」と語りました。

武藤教授

武藤教授

再生医療実現に何が必要かという問いについては、山中教授が「人材という意味では、研究者支援も大切です。iPS細胞の作製はとてもストレスがかかる仕事で、人がいないと研究も止まってしまいます。この人材をどう確保するか。さらには大学には有期雇用の人材が多くいます。このような人材のキャリアパスもちゃんと考えないといけません」とし、澤教授は「心筋移植には10億個の細胞が必要となり、大変お金がかかります。産業的に医療が普遍的に使えるようになってこそ、患者さんに再生医療の恩恵をもたらすことができると思います。国全体を含めて、産業界と可能な限りはやくからそのような再生医療製品を作るという考え方を一緒にしていくことも大変重要です」と話しました。

ポスター展示会場の様子

ポスター展示会場の様子

併設されたポスター展示会場では、各拠点・課題の研究者らが直接、来場者に研究の進捗、取り組みを説明し、大いに賑わいました。患者さんが直接研究者に質問できる機会であるとともに、研究者にとっても患者さんからの意見を聞ける機会です。科学技術においては、このような双方向コミュニケーションの重要性が謳われています。今後とも再生医療実現拠点ネットワークプログラムでは、患者さんとともに歩む再生医療研究を推進していきます。

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